77話 倒すには
想像以上の惨状に呆然としていた俺らの中で、真っ先に動いたのは奈那さんだった。
「寧音!」
「あ……うん!手、借りるわよ!」
寧音は瑛士の手首を掴んで一番近くにいた倒れている人に駆け寄り、回復魔法をかけ始めた。
「これも使って!」
そう言って瑛士は回復薬を出した。
色的に上級か?
2人がいればここら辺の生きている人はなんとかなりそうだ。
俺は2人と一緒に救助にあたるより、あのドラゴンをどうにかした方がいいだろうな。
じゃないと被害が広がるばかりだし。
「怪我人はお前らに任せていいか?」
「大丈夫!」
「任せて」
2人と別れて、俺と奈那さんは走ってドラゴンへ近づいた。
ドラゴンは旋回しつつも、一定の場所からは離れない。たまにホバリングしてその場に止まる事もある。
そこに何かあるのだろうか。
「ここからは慎重に行こう」
「そうですね。では向こうから見えなくなるスキル使います。“隠遁者”」
俺と奈那さん両方にスキルを使った。
だいぶドラゴンに近づいたけど、これで向こうからは認知できないはずだ。
あ、いやどうだろう。あのドラゴンって熱を感じとれるピット器官的なやつ持ってたりするのかな。だとしたら目で見えなくなっても意味ないけど……今はスキルの効果を信じるしかないか。
燃えてる建物と、崩れた建物の瓦礫を避けながらドラゴンが旋回している内側を目指して進む。
とっくにドラゴンの攻撃範囲内に入っているが、今の所気づかれた様子はない。
「見つけたぞ、蒼斗くん」
「何をですか?」
「府中ダンジョンのマスターだ。おおよそ30m先に倒れている少年だ」
嘘だろ、ここで見つかるのかよ。
ドラゴンがこの場所から動かなかったもの、ダンジョンマスターがいるからか。
「……とりあえずダンジョンマスターのわかる情報教えてくれますか?」
「名前は蓮見朝陽。称号は中級ダンジョンマスターでレベルは41。魔力値2563、体力値645、防御846、素早さ1121、器用さ1346。所持スキルは拘束、サイレント、初級から上級までの草魔法、初級空間魔法、身体強化……すまない。瞬きしてしまった。読み取れた情報はここまでだ。まだスキルを持っている可能性はある」
充分すぎる。1分以上見つめ続けてたんじゃないだろうか。
「ありがとうございます。ダンジョンマスターは起きてるように見えますか?」
「いや、現時点では気絶しているな。今なら倒せる」
倒せるなんて優しい言い方をしているが、ようは殺せるって事だろう。
ダンジョンマスターを殺したら、ダンジョンは消える。もちろん、ダンジョンマスターが出したモンスターも一緒に。
つまり現在何故か気絶しているダンジョンマスターを殺せば、ドラゴンも消えるのだ。意識が無いならドラゴンを倒すよりよっぽど簡単だ。
ダンジョンマスターを殺す……俺にそれができるのか?
「蒼斗くん」
「なんですか」
「動かないマスターを倒すより、被害をばら撒いているドラゴンを倒す方がよっぽど楽しいと思わないかね?」
「そう……ですかね?」
「少なくとも私はそうだ。ただ、確かマスターはモンスターに指示を出せるんだったな。起きてドラゴンの動きが変わるのは面倒だからこのまま寝ていてもらいたい。できるだろうか?」
「おそらくは……睡眠薬というアイテムがあるので」
「ではまずあそこまで行こう。マスターの処理をしたらいよいよドラゴンだな。地に落とすのは任せて欲しい」
「わかりました」
瓦礫や放棄された車の陰に隠れながら進んで、ダンジョンマスターまで辿り着いた。
見た目は俺が思っているより若い。俺より年下っぽいな。
ショップから液体タイプの睡眠薬を買って、ダンジョンマスター……蓮見朝陽に振り掛けた。これでしばらくは起きないだろう。
近くには他にも倒れている人がいて、もう息は無いようだった。というか、グロ耐性が無い人にはだいぶキツい見た目だったり、血まみれで瓦礫の下や車のパーツの下にいたりするからたぶんもう手遅れだ。
「ふむ。なるほど。これは興味深いな」
「何がですか」
「あそこを見てみろ。車のパーツがあるだろう?あそことそこにも。ドラゴンに壊されたにしては変だ。外からというより中から衝撃があったかのような……もしかしてドラゴンは車の中で召喚されたんじゃないだろうか。つまり、ダンジョンマスターである蓮見朝陽もまた車の中に居た。普通ならここにある死体みたいに圧死するだろうが、ダンジョンマスターはダンジョンの外でもステータスの能力値が反映されていた。だからマスター1人助かった、といったところだろうか」
「なるほど……」
改めて転がってる破片を見る。
壊れてるのは黒い車だ。
黒い車……どこにでもある色なのに、どこか引っかかるのは何故だろうか。
ダンジョンマスターが黒い車の中でドラゴンを召喚した。蓮見にとって、車に乗っていた人物は敵だったのか?死体の数からして、たぶん乗っていたのは1人じゃない。
ダンジョンマスターなんていくらでも敵はいるけど、蓮見がダンジョンマスターだとは知られていない。
蓮見をダンジョンマスターだと知らずに車に乗せたのか、それとも知っていて乗せたのか。どちらにせよ、ドラゴンを出すほど敵対してたってことは蓮見は望んで車に乗ったわけではないんじゃないだろうか。
「蓮見は誘拐されていた?」
「奇遇だな。私もそう思ってたところだ」
「……ダンジョンマスターを誘拐しようとしている連中に心当たりがあるんですが」
特殊建造物対策局の奴らだ。保護したいとか言って秘密裏にダンジョンマスターを探していた。
黒い車に引っかかったのも、俺の家にアイツらが来た時に見たからだろう。
ダンジョンマスターの人権を認める法案を出したのはダンジョンマスターを油断させるためか?
「詳しく聞きたいところだが、先にあっちを処理しよう」
「そうですね。地に落とすのは任せて欲しいって言ってましたができそうですか?」
「この距離なら問題ないだろうが、念の為もっと近づきたい」
ほぼ真下にいるのにこれ以上近づきたいってことは、空へ行きたいってことだろうな。
「スキル取るんでちょっと待ってください」
跳躍、2段ジャンプ、飛翔、浮遊……意外と色々ある。
「何秒間滞空できればいいですか?」
「10秒もいらない」
スキルを唱える時間くらいは必要だろう。跳躍じゃ時間短すぎるかな。少し高いけど飛翔スキルでいいか。奈那さんを抱えて一緒に飛ばないといけないから身体強化スキルも一緒に取っておこう。
スキルを購入すると、すぐに使い方が頭に入ってくる。
「準備できました」
「私もいつでもいい」
「では行きます。“身体強化”と“飛翔”」
奈那さんを抱えて、地面を思いっきり蹴って上に飛ぶ。
視界がブレて、一気にドラゴンが目の前にいるところまで来た。
ヤバい。明らかに飛びすぎた。




