76話 近くへ
ドラゴンは空を旋回しながら飛び、たまに咆哮を上げては街に向かって炎を吹いて攻撃している。周りが低い建物ばかりだから遠くからでも様子がよく見える。本当にヤバいなアレ。
あの辺りがどの地域か土地勘のない俺にはわからないけど、相当被害が出ているだろう。
いくら地上では銃火器が使えるとは言え、自衛隊に倒せるのか?
「瑛士、今ダンジョンポイントどれくらいある?」
「ちょっと待ってね!えっと、いち、じゅう、ひゃく、せん……シロンちゃん俺のポイントどれくらいある!?」
パッと答えられないくらいあるのか。
「8千万と564万8322だってさ!」
多いな。流石人気No.1と言われている梅田ダンジョン。
ドラゴンを出してもらって戦わせるか?
いや、そんな事したらもっと街への被害が増えるか。
見て見ぬふりしてダンジョンに戻る……なんて選択肢はないよな。
「とりあえずもっと近づきたいのだが、良いだろうか」
「はぁ!?流石にお姉ちゃんでも無理だって!!スキル使えないんだよ!?」
「俺はいいよ!」
「ちょ、あんたまで!あんなのに敵うわけないでしょ!?今の私たちはステータスやスキルを与えられる前のただの脆弱な人間なの。むしろ逃げるべきよ!」
……そうだよな。スキルがなきゃ何もできない。
「奈那さん。スキルさえ使えたらあのドラゴン倒せますか?」
地上でモンスターを出せる。
地上でスキルを使える。
どちらも伏せておきたかった。
でも今は明らかにそう言っている場合じゃない。
別にあのドラゴンを俺らがなんとかしなきゃいけない理由はないし、このまま日本が所有する兵器が投入されるのを待ってもよかった。その間街や人への被害はとんでもないことになるだろうが、そこに俺への責任はない。
ただ、なんというか……このまま何もしないで知らんぷりというのは、人類の味方を公言したダンジョンマスターしてどうかと思ったのだ。
せめて俺が東京にいたなら仕方がなかったで済ませられたのに、俺は今ここにいるから。ドラゴンがいるこの場にいるから、何もせずにはいられない。
それにほら、今人類の味方として頑張ったら、もし後々ダンジョンマスターの立場が弱くなってもフォローしてくれる人が増えるかもしれないからさ。
「わからない。流石の私でも戦った事がないからな。けれどスキルさえあれば、可能性はゼロではないと思う」
「ダンジョンマスターとダンジョンは一心同体の存在である。故にダンジョンの仕様は一部ダンジョンマスターにも引き継がれる。寧音の方は見たでしょう。瑛士が何もないところから回復薬を出した場面を」
「えぇ、見たけど……」
「そうか、君達は地上でスキルを使えるんだな?」
「それだけじゃありません。理論的にはダンジョンマスターと物理的にくっつけば、人類にも使えるはずです。まだ試したことないんですけどね。どうでしょう。“見え”ますか?」
距離を詰めて奈那さんの手首を掴んだ。
隠遁者スキルがダンジョンの外に出た時に効果が切れたのは、ようは認識の問題だった。スキルが地上で使えると知ってから、あっさりと隠遁者スキルを地上で普通に使えてしまった。ダンジョンから出たり入ったりしても、効果が切れることはなかった。
ダンジョンの外に出たら効果が切れるものと思い込んでいたから、スキルの効果が切れたし、逆に奈那さんの真識眼スキルも使えると認識した今なら見えるようになるはずだ。
「ワースドラゴンの炎タイプ。ドラゴン種の中では1番弱い種族で、理性や知性は持っていない。炎を手足のように扱うことが特徴。ヒカリモノを集める習性がある。はは。すごいな。本当に見える!!」
よし、人類も外でスキルは使えた。
「これは、どこからどこまでがダンジョンと認識されている範囲なんだ?手を繋いでいればなんでもいいのか?」
「知りませんよ。確かめたことないんで」
ただ、AIから手の届く範囲と言われている。
だから手を繋がなくても近くにいればスキルを使えるようになるんじゃないだろうか。
「ふふふ、そうか!では今、確かめよう!」
「そんなことしてる場合じゃないでしょう。あのドラゴンの近くに行きたいんですよね?これじゃ電車は止まってるだろうし、タクシーも捕まらないだろうから走って行くしかないと思うんですけど……身体強化系のスキル取ってます?」
「ああ、そうだった。実験はまた後日にしよう。私は身体強化系のスキルは持っているが、寧音と瑛士くんは持っていないだろう。タクシーが無理ならレンタルすればいい」
「俺はあんたについて行きますけど2人も連れて行く気なんですか?」
「ダンジョンマスターが近くにいればスキルが使えるんだろう。あの様子じゃ当然怪我人も出ている。寧音は回復魔法が使えるから連れて行った方がいい」
「いくらスキルが使えるからって危険なことには違いないんですよ。先に2人の意思を聞いてからでしょう」
「俺は別にいいよ!」
「私も構わないわ。お姉ちゃんと離ればなれになる方が心配だし」
いいのかよ。
2人を外そうとした俺が馬鹿みたいじゃん。
「……わかりました。この辺で車借りられそうな場所ってあります?」
「知らない。寧音」
「調べてあるわよ。この状況でレンタルできるかわからないけどね。こっち」
寧音の案内の元、歩いて駅の方に向かった。
その間にヘリが飛んで来たのが見えた。
どこに所属しているヘリかわからないけど、あのドラゴンが目的なのは間違いない。
ドラゴンが出現してから何分くらい経ってるんだろうな。
5分ほど歩くとレンタカーショップに着いた。
けれども店員が見当たらない。
逃げたか?
「すみませーん!」
「は、はい」
瑛士が声をかけるとカウンターの向こう側にあったドアから気弱そうな男の人が出てきた。
「なんでも良いから4人乗れる車が借りたいのだけれど」
「こ、この状況でレンタルを?」
「この状況だからこそよ」
「無理、無理です!絶対車返ってこないじゃないですか」
「その可能性は高いわね。こちらもいつも通りの値段でレンタルしたいわけじゃないの。貴方の望む金額を払うわ。急いでるのよ」
レンタルを渋る店員に寧音が交渉して、ちょっと考えられないくらいの金額で割と無理矢理車をレンタルした。
運転も寧音だ。奈那さんは車の免許は持っていないらしい。……免許持ってないのに車を借りようって言ってたのかこの人。ちなみに俺も瑛士も車の免許は持っていない。
道は空いていた。
反対側の車線はドラゴンから逃げてきたであろう車がどんどん通っていたが、わざわざ近づこうと考えているのは俺らくらいだろうからな。
基本的にドラゴンは同じ場所をぐるぐると旋回している。これが都心に向かって飛びったっていたら大変なことになっていただろう。
「……これ以上は無理ね。車降りるわよ」
「わかった」
ダンジョンの前で騒いでしまったのでもう手遅れかもしれないけど、ここからはダンジョンマスターとして動く以上、顔バレは避けたい。
ということで、存在感を薄くしてくれる幽影の雑面を改めて手元に出した。持ってたやつ家に置いてきちゃったからな。サングラスとかも新しく買ってる暇ないし。もしかしたらショップにあるかもしれないけど探すの面倒。
「うわ」
「なに」
「いえ、なんでもないわ」
明らかに引かれた気がする。
東池袋のダンジョンマスターからの反応もイマイチだったし、デザインそんな良くないのかな、これ。
《GAAAAAAAAAAA!!!!!》
近くまで来ると、流石に圧倒されるな。
建物は倒壊してるところや燃えているところが多く、地面に倒れている人もいる。
……想像より被害が大きい。




