府中ダンジョンマスター、蓮見朝陽の場合(三人称)③
部屋に着くと、先に行った2人が宝箱を漁っていた。
宝箱の中には蓮見が持ち帰った以上の宝石がぎっしりと詰め込まれている。それを次々と持っていたスクールバッグの中に入れている。
竜騎が2人に声をかけた、その時。
「そんだけあるなら俺にも……なんだ?」
「な、なぁ、これ不味いんじゃねェか」
部屋の床が突然光出した。
3人は、本能的にこのままではヤバいと思った。
「逃げるぞ!」
「あは。もう手遅れだよ」
眩い光に包まれて、視界が切り替わる。
さっきいた部屋と似ているが明らかに違う。
宝箱がない。その代わりに……
「なんだよこいつら!」
「出口が……!」
巨大なツルの化物が3人を囲んでいた。
逃げようと足掻こうとするも、次々とツルが手足に絡みついてくる。
「そ、そうだスキル!火とか出るやつあるだろ!」
「そんなの持ってねェよ!!」
「俺ら全員前衛系のスキルしか取れなかったろ!」
「恥ず見は!?」
「あいつは……は?」
蓮見を探して辺りを見渡すと、化物の向こう側で3人の様子をニコニコと笑って見ていた。
「なんで、お前は襲われてないんだよ」
「そういえばここに飛ばされる前なんか言ってたよな。手遅れだとか」
「おい!助けろ!恥ず見!!」
「なんで?」
「なんで、だと?」
「助けなきゃ俺がお前を殺すぞ!」
「どうやって?そいつから逃げることもできないのに」
「なんなんだよ。なんなんだよお前は!」
「なんだって言われても。別にオレがこのダンジョンのマスターってだけだよ」
「は?」
「どういうことだ?」
「理解力低すぎない?オレがこのダンジョンを作ったんだよ。この部屋に飛ばすように罠を仕掛けたのもオレ。今お前らにドラヴァイン……そのモンスターを襲わせてるのもオレってこと。全部オレがやってるんだから助けるわけないじゃん。ばーか」
蓮見のやったことは簡単である。
ダンジョンの1階層の宝箱のある小部屋を作り、そこに3人以上の人類が揃ったら発動する転移罠を設置しただけだ。その罠が発動するとドラヴァインというツル型で拘束した相手の生命力をじわじわと吸い取るモンスターが配置された部屋に飛ばされる。
もし3人がバラバラになるようだったら、“拘束”というスキルを使って無理矢理魔法陣の場所まで連れていく予定だった。
ダンジョンに人がいない状況だからこそできる芸当である。
3人は蓮見がスキルを使うまでもなくあっさりと罠に引っかかった。
転移罠が発動した時にその魔法陣に乗っていた全員が移動させられるので、蓮見もこの部屋に連れてこられたが、ダンジョンマスターなので問題ない。1人で出られる。
でも3人は違う。
すでにドラヴァインに拘束されてしまっている。魔法系のスキルがなければ逃げられない。もしかしたら倒せるスキルを持っている可能性も考えていたが、その時はもっと強いモンスターを設置すれば良い話だ。そのために2万ポイント余らせていた。
また、モンスターが倒されようと、この部屋から出るには魔法陣の上で全員が土下座しなければいけない。
傲慢でプライドの高い3人が進んで土下座するわけがないから、転移罠にハマった時にはもう手遅れだったのだ。もっと言うと、誰もいないダンジョンに進んで入った時点で終わっていた。
「なんで……!」
「お前らが今までオレにしてきたこと忘れたの?単純に復讐だけど」
「悪かった!今までのこと謝るから許してくれ!」
「俺も悪かった!もうしないから!」
ようやく全て蓮見がやったことだと気づいた3人は次々と謝り出した。しかし、今更謝られたところで、許すわけもない。
「お前らが愚かで本当に助かった。いじめられっ子の家の隣に都合よくダンジョンができると思った?そんなわけないじゃん。こんな簡単に罠に引っかかってくれるとは。あれ、いつも威張ってるのにどうしたの?まさかとは思うけど泣いてる?そんなに怯えなくても大丈夫だよ。その子は本来捕まえた獲物の生命力を死ぬまで搾り取るんだけど、今は死なない程度にするようにお願いしてるから。じゃ、また様子見にくるね」
そう言って蓮見は引き止める声を無視してダンジョンマスターのみが使える魔法陣で部屋の外にでた。
今回の滞在時間は20分ほどだろうか。
翌日。蓮見は思い詰めた表情で学校に登校した。
いじめっ子達が消えたのにその演技をした理由は、単に怪しまれたくないからだ。いくら悪ガキと言えど中学生3人が消えたら流石に問題になる。
蓮見が彼らにいじめられていたのは周知の事実なので、矛先が向いてもおかしくない。
とはいえ、3人が登校しないことはよくあったので、現時点では誰も疑問に思っていない。
ただ1人、蓮見の思い詰めた表情に気づいた峯川だけが、蓮見に話しかけた。
「朝陽くん、どうかした?あいつらと何かあった?」
「峯川さん……どうしよう、オレ……」
その反応にただ事ではないと思ったのだろう。これから始まる朝の会をサボって、誰もこない非常階段に移動した。
蓮見は重々しく経緯を話した。
ダンジョンに無理矢理入らされたこと。
そこで、宝箱から宝石を見つけたこと。
宝石があると知った3人がダンジョンに入っていたこと。
その時、もう一度中に入らされそうになったけど、全力で抵抗して逃げたこと。
「オレ、怖くて……自分の家に逃げたんだ。オレの部屋からダンジョンの入り口が見えるんだけど、いつまで経ってもあいつらが出てこなくて……どうしよう。あいつら、たぶんまだ中に……でもオレのせいにされるかもって思うと誰にも言えなかったんだ」
「そっか……話してくれてありがとう。朝陽くん。大丈夫。私がなんとかする」
峯川は正義が強い女の子である。
まさか蓮見が仕掛けた側だとは思わず、蓮見の話を素直に全部信じた。
このままでは3人が消えたのは蓮見の所為だと思われてしまうという主張も信じて、蓮見の代わりに峯川は動くことにした。
と言っても、蓮見の代わりに自分がダンジョンに入る姿を見たと大人……担任の教師に伝えるだけだ。そしてダンジョンを捜索するよう必死に訴えた。
普段から品行方正の峯川の言葉は信じられたが、子供3人が侵入禁止のダンジョンに勝手に入って戻ってこないというのはとても都合の悪い事実だった。
政府はダンジョンに入る事を禁止している。
捜索隊をダンジョン内に送るには政府からの許可が必要で、それには事情の説明が必要となる。
つまり自分たちの学校から勝手にダンジョンに入った愚か者がいる事を伝えなくてはいけないのだ。そうなったらニュースになるのは確実で、学校の評判が大きく下がるのは目に見えてる。
結果として、峯川から事情を聞いた教師はその事実を握りつぶした。
峯川が相談した大人は普段から蓮見がいじめられているのを見て見ぬふりをしていた教師なのだから、そうなるのも無理はない。
3人が消えて2日。ようやく3人の両親達からそれぞれ捜索願が届けられたが、元々素行の悪かった子供だ。家出だろうとちゃんと調査されることは無かった。
それから1週間後。いくら待っても捜索隊が派遣されない事を峯川は教師に詰め寄った。けれども、国から許可が降りなかったからしょうがないと言われたらもうどうする事もできない。いくら正義感が強いとはいえ、まだ14歳の女の子なので、これ以上何かできることは無かった。
「ごめんね、朝陽くん。私がなんとかするって言ったのに」
「ううん。も、元々は逃げた俺が悪かったんだ……峯川さんに話を聞いてもらえなかったらもっと思い詰めていたと思う。だからありがとう」
「そんな……私、結局何もできなかった」
「峯川さんの気持ちで救われたんだよ。みんな見て見ぬふりするばっかりだったから……それでももし気にしてるならさ、次困った事があったらまた峯川さんを頼りにさせて」
「うん。今度は力になれるよう頑張るね!」
「ありがとう」
蓮見は心からの感謝を告げた。
峯川が動いたおかげで蓮見は3人が消えた事について疑われる事なく過ごせているから。
峯川は放課後の教室で教師に3人のことを伝えていた。その様子を見ていた人がいたので、学校では“3人はダンジョンに行って帰ってこなかった”という噂が広まっている。
子供の噂は大人にも広まるもので、気づけば蓮見のダンジョンに近づく者は居なくなっていた。蓮見の家とはダンジョンを挟んで反対側に住んでいた家族はついに引っ越したくらいだ。
一方で蓮見のクラスでは問題児だった3人が戻ってくることはないという認識が広まり、生徒達がのびのびと過ごすようになっていた。
中には見て見ぬふりをしてごめん、助けられなくてごめんと蓮見に謝ってきた人もいた。
蓮見は笑顔でその謝罪を受け入れたが、内心では今更許すつもりもなかった。脅威が居なくなってからの謝罪なんて自己満足でしかない。
謝罪の言葉を聞いている間、思わず自分がスッキリするために使ってるんじゃねーよと言いたくなったところを必死に我慢していた。
なので表面上ではようやく蓮見はクラスに混ざって過ごせている。
それから何事も無く時間が経ち、学年が上がった。
最近の蓮見の日課は放課後ダンジョンに行って、捕まえた3人の様子を見に行く事だ。
「やっほー。餌の時間だよ」
「……ぁ……ぅ」
「何言ってるかわかんないって。言いたい事あるならハッキリ喋れよ。お前らがいつも言ってた事じゃんか」
モンスターに拘束されて身動きも取れず、挙句に死ぬギリギリまで生命力を吸い取られ、けれど蓮見によってダンジョン産の栄養剤と回復薬をぶっかけられて死にたくても死ねない生活を数ヶ月間送っていた3人だ。
最初は蓮見が現れるたびに謝罪し、時には罵声を浴びせ、最後は殺してくれと言っていたが、今はもはや言葉を話せない状態になっていた。
「ま、お前らがなんて言ってるかなんて興味ないけどね。けどそろそろ限界かな。3年になったからもう受験のこと考えないといけないし。ポイントもお前らのために消費するばかりであんまり余裕なくなっちゃった……餌与えるの2週間に1回とかでいい?」
蓮見の問いかけに返事はない。もう精神が壊れているのだから当たり前だ。蓮見もそれをわかっている。
けれど、今日は朝から父親の暴言を浴びせられて不機嫌だったので、八つ当たりせずにはいられなかった。
「返事しろよ!」
1番近くにいたいじめっ子の顔を殴る。
すると……
『リザルト:6,999,672のダンジョンポイントを獲得しました。
6,999,672の経験値を獲得しました。
ダンジョンのレベルが31となりました。
レベルアップ報酬として28万のダンジョンポイントが付与されます』
「あれ」
AIの声が流れた。
ダンジョンに経験値が入るタイミングは主に2つ。人類がダンジョンに侵入して、出て行った時。そして人類がダンジョンに侵入して、ダンジョンで死んだ時。
現在蓮見のダンジョンに侵入している人類はここにいる3人しかいない。誰も入ってきていないし出て行っていないのだから、つまり。
「あーあ。死んじゃった」
蓮見が殴った子がたった今、生き絶えた。




