府中ダンジョンマスター、蓮見朝陽の場合(三人称)②
帰宅後、AIからいつダンジョンが公開され人が来るようになるのか具体的な日時を聞いた蓮見はじっくりと考えてダンジョンを作る事にした。
スマホのメモにモンスターの詳細やダンジョンの構想をまとめ、1階層が完成したのは12月23日。ダンジョンが人類に知られる1週間前のことである。
そこから1週間の間に2階層、3階層も作った。ポイントは2万ほど余らせている。
そして、いよいよ1月1日の9時。
声と同時にダンジョンが出現する。
蓮見はその瞬間をベランダから見ていた。
よそ見をせず、瞬きもせず、ジッと見続けて、一瞬でありふれた玄関が四角い物体で埋まった。
数分もしないうちに、女性の叫び声が聞こえた。隣に住んでいる女性の声だ。玄関の異変に気付いたのだろう。
その声で近所の人達が外に出てくる。
どんどん人が集まってきて、その中にリビングで飲んだくれていたはずの父親の姿を見つけ、蓮見はサッと下にしゃがんだ。ここで見ていたなんて知られたら、何してたんだと詰め寄られるに決まっている。
どうなるのか見続けたい気持ちもあったが、父親にバレると面倒な事になるので、仕方なく蓮見は部屋に戻った。
「なぁ、これダンジョンの中の様子見れたりしない?」
『回答。カメラマークから確認できます』
「あぁ。さっき増えていたやつか。こういうのって機能増えたら教えてくれるもんじゃないの?……前からそうだったし今更言っても無駄か」
とりあえず言われた通りに左上に増えていたカメラマークを押すと、最初の部屋が映った。そのまま様子を伺っていると、近所に住む男性3人が恐る恐るといった様子で中に入ってきた。
『人類からの侵攻を確認しました。
経験値を獲得。ダンジョンのレベルが1となりました。
個体名:蓮見朝陽を正式にダンジョンマスターと任命いたします。それによりダンジョンマスターとしてのステータスが解放されました。
称号:邂逅を獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。
称号:初級ダンジョンを獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。』
いつものAIの声が一気に流れてくる。
今まで正式にダンジョンマスターじゃなかったなんて知らなかったし、称号なんてものがあるなんて知らなかった。けど、そんなことよりも蓮見はたった今解放されたらしいステータスの方が気になった。
「ステータス」
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個体名:蓮見朝陽
種 族:ダンジョンマスター
称 号:未設定
レベル:1
魔力値:57
体力値:19
防 御:23
素早さ:35
器用さ:42
スキル:なし
次のレベルアップまで
残り:29
所持ダンジョンポイント
残り:40,346
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なんとなく、体力値が低くて魔力値が高いというのはわかるけど、他と比べてどうなのかはわからない。
「なぁ、称号の設定ってどうやるの?」
『回答。右上のメダルマークから設定が可能です』
「……これ今増えたよね?サイレント追加多くない?なら、スキルはどこで手に入れられるの?」
『回答。ドロップアイテムショップから購入可能です』
「え?あ、ほんとだ。なんでこんなわかりにくいところに……あぁ。スキルの書としてドロップさせられるからか。もはや使ってないコンパスマークを消してスキルショップ独立させてほしかったな」
文句を言いつつも、スキル一覧を見る。
モンスターを選んだ時と一緒だ。説明文を一つ一つ見ていって、今は手元にスマホがあるから、気になるやつはそこにメモっていく。
別にスキルがなくても蓮見の目的は達成できるだろうが、無いよりはあった方が成功率はあがる。蓮見が相手しようとしているのは人間だから。
しばらくスキル一覧を見続けていると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。警察のサイレンで、どんどんこちらに音が近づいてくる。近隣住民の誰かが通報したのだろう。
部屋から外の様子を伺うと、何台ものパトカーが来たのが見える。わらわらと警察官が出てきて、あっという間にダンジョンの前を囲んでしまった。
少しすると、ダンジョンの中に入っていった男性3人が地上に出ていった。
『リザルト:1,890のダンジョンポイントを獲得しました。
1,889の経験値を獲得しました。
ダンジョンのレベルが3となりました。
レベルアップ報酬として2万のダンジョンポイントが付与されます』
AIの声が自動的に流れる。
蓮見は自分のステータスを開いてレベルアップでどこの数値が変わったのかだけ確認して、すぐに閉じた。そしてまたスキル選びに戻った。
お昼過ぎ。外が静かになっていることに気づいて様子を伺うと、集まっていた野次馬は居なくなり、あれだけいた警察官も2名を残していなくなっていた。家の門には規制線が張られている。
人類側にどんな声が流れたかはSNSで把握している。敵が現れたのにずいぶん悠長にしているなと蓮見は思っていた。
けれども、蓮見にとってはそれがちょうどよかった。
1月下旬。
2週間延長した冬休みが明け、久々に学校に行くと、いつも絡んでくるいじめっ子たち3人組が大人しかった。ただニヤニヤしながら遠巻きに見ているだけで、何もしてこない。
碌でもないことを考えているのは間違いないし、蓮見の予想通りなら接触してくるのは放課後だ。
蓮見はその予想が当たって欲しかったので、態とらしいくらいに安堵している表情を見せ、あくまでも向こうの思い通りに進んでいるように思わせた。
そして放課後。学校を出てすぐに、声をかけられた。
「恥ず見くーん、あけおめ」
「会えなくて寂しかったよ恥ず見くん」
「あ?なに俺らの事無視してんの?」
「えっと……」
いじめっ子たちのあまりにも予想通りすぎる行動に、ニヤケそうになる顔を抑えて頑張って真顔を保つ。
「聞こえない!挨拶くらいはっきり言えよ」
「挨拶するのも恥ずかしいんですかぁ」
「そんなんだから恥ず見は恥ずかしがり屋の恥ず見くんって言われるんだよ」
「ご、ごめん。あけましておめでとう」
「お前におめでとうって言われなくてねェわ」
「それよりさぁ、恥ず見ん家の隣にダンジョンできたんだって?連れてってよ」
「ダンジョン見てみたーい」
「で、でも……中には入れないよ?」
「いいから連れてけって言ってんの。聞こえなかった?」
「お願いじゃなくて命令してんだよ、こっちは」
もし、いじめている奴の家の近くにダンジョンができたら。
いじめっ子たちにとって、それはそれは良いおもちゃになるだろう。
世間からダンジョンに近づくなと、勝手にダンジョンに入るなと言われているが、それを守る倫理観を持っているやつならそもそもいじめっ子になっていない。周りからの目など関係ないのだ。
世間を舐めてるから他者を見下すし、世間を舐めてるから、子供の今なら何やっても許されるとやってはいけないと言われていることも平気でやる。
そういう奴らだと、蓮見にはわかっていた。
だからダンジョンに入るよう強要されるだろうと、思っていた。
そしてそれは現実となる。
「案内ごくろーさん」
「おお、本当に規制線張られてんな」
「見張りいないとかザルじゃね?」
「じゃ、恥ず見くん。中入ってきて」
「えっ?」
「えっ?じゃねェよ。聞こえなかった?中入れって言ったの」
「俺らは恥ず見くんのために言ってるんだよ。危ないモノが家の隣にあったら嫌だろ?だから中がどうなってるのか確かめなきゃ!」
「そーそー、俺らここで待っててやるからさ」
「そもそもダンジョンに入っちゃダメなんじゃ……」
「は?知らねーよ」
「恥ず見くんってほんと学ばないよな。殴られ待ち?何、ドM?」
「ちがっ……!」
「じゃあさっさと行けよ」
「手ぶらで帰ってくんなよ」
「お土産期待してるねー!」
いじめっ子たちの圧に屈っし、しぶしぶな様子で、悲痛な顔をして蓮見はダンジョンの中に入る。
いじめっ子たちは蓮見がモンスターにビビってすぐに逃げてくれば揶揄うつもりでいた。お土産を持ってこなかったことをネタに遊ぶのもいい。怪我をしてきてもよかった。そしたら弱虫と言って、揶揄うことができる。
何かあってもダンジョンのせいにできるから、最悪帰ってこなくてもよかった。
けれど、ここは蓮見のダンジョンだから、いじめっ子たちが想像しているような事は何も起こらない。
階段を降りた蓮見に思わず笑みが溢れた。
(あいつら……オレがダンジョンマスターだとも知らずに……本当に馬鹿すぎる)
全てが全て、順調に進んでいる。蓮見の予想通りに、何もかも。
ただ、ここで満足をしてはいけない。
いじめっ子たちが自ら進んでダンジョンに入るように誘導する必要があるから。
すぐに戻ると怪しまれるだろうから、わざわざ1階層の最奥まで歩いていった。宝箱がぽつんと置いてある部屋まで辿り着くと、そこでダンジョンのショップ画面を開いて、ダンジョン内に宝石を設置する。
ダイヤモンドにルビィ、サファイアなど、馬鹿にでもわかる有名な宝石だ。宝箱にはすでに似たようなやつが入ってる。今回設置させたのはお土産用だ。
蓮見は設置した宝石を制服のポケットに入れて持って帰った。
滞在時間は10分ほどだろうか。
「ようやく戻ってきたか」
「いつまで待たせるんだよ」
「で?お土産は持って帰ってきたんだろうな」
「こ、これ」
蓮見は宝石を差し出した。
その瞬間、いじめっ子たちの中でもリーダー格である男が宝石を奪い取る。
「やっば!これ本物か?どうやって手に入れたんだよ」
「なんか、宝箱みたいなのがあって、そこから……」
「へぇ、恥ず見にしてはやるじゃん」
「いくらで売れっかな」
「中の様子詳しく説明しろ」
「は、入って階段降りたら道が左右に別れてて……左の道をまっすぐいったら部屋?みたいなところにたどりついて、そこに宝箱が……」
「ふぅん。自衛隊が何人も死んだダンジョンでなんでお前は無傷なわけ?モンスターは?」
「わ、わかんない。それっぽいのに遭遇しなかったから」
「運だけはいいなぁ、お前」
「じゃあ、そこまで案内しろよ」
「次はモンスターに遭遇するかも……!!」
「知らねェよ。そん時はお前が盾になればいいだろ」
「そんな、無理だよ」
蓮見の抵抗も虚しく、いじめっ子たち3人にダンジョンの中に引きずりこまれてしまった。
本当なら3人だけで入って欲しかったが、このパターンも想定はしている。とりあえずここから3人バラバラにならなきゃいいのだ。
時折早く歩けと後ろから押されながらも、蓮見は大人しく左の道の宝箱のある所まで進む。
部屋の入り口が近くなると、いじめっ子2人が急に走り出した。
「おい!」
「竜騎はさっき手に入れたからいいじゃん!」
「次は俺らに譲ってくれよ!」
なんとも浅い友情だろうか。
取り残された蓮見と竜騎は歩いて部屋まで行った。




