府中ダンジョンマスター、蓮見朝陽の場合(三人称)①
ここからは府中ダンジョンマスターサイドのお話となります。
全6話です。
主人公の出番までしばらくお待ちください。
蓮見朝陽は薄暗い体育倉庫の中でその声を聞いた時、ようやく自分にも反撃のチャンスが回ってきたと思った。
この"ダンジョンマスター"という存在になれば、全てをぶっ壊せると。暴力を振るう父親も、それを見て見ぬふりする近所の人たちも、自分をいじめてくる同級生も、助けを求めても無かったことにした教師も、全部全部壊せると、そう思ったから。
『ダンジョンマスターになることを受け入れますか?なお、受け入れない場合はこの間の記憶は消去されます』
声と共に現れた目の前の選択肢で迷わず<はい>を押した。
『個体名:蓮見朝陽の承認を得られました。これより肉体の仕様変更を行います。』
蓮見の目の前が一瞬光る。
何が変わったんだろうかと変化を探して体を確認している間にも、声が流れ続ける。
次はサポートAIを選ばなくてはいけない。
(サポートとか言って行動を制限されたらヤダなぁ。選ぶなら自由度高そうデルタタイプかな?)
まだ14歳の蓮見には自由に使えるお金がなかった。虐待をしてくる父からお小遣いなんて貰えるわけもなく、かろうじて持たせてもらっていた3世代くらい前の古いスマホでネットの小説を読むのが唯一の趣味だ。お金もかからないし、手にスマホを持っていれば父からの電話にもすぐに出られる。ワンコールで電話に出ないと遅いとキレられるので、色んな意味で都合が良かった。
読んでいたネット小説の中にはダンジョンが登場する作品が多くあった事から、蓮見は1人でうまくダンジョンを運営させる自信があった。だからこそ、サポートAIなんて言うよくわからないものに邪魔されたくなかった。
そんな蓮見が必要最低限のみの機能に絞ったAIと記載のあるデルタタイプを選んだのは必然だったと言える。
『モデル:デルタタイプが選択されました。最後にダンジョンポイントの配布を行います。初期ポイントの10万に加え、デルタタイプ選択特典の2万が追加されます。以降ダンジョンポイントの配布は行われませんので、お気をつけてご利用ください』
ダンジョンポイントが何に使われるかはまだわからない。けれど、蓮見が読んでいたダンジョン運営モノの中でよく出てきた存在だ。ポイントを使ってモンスターを配置し、中にはポイントでガチャが引けるものもあり、そこで強キャラを引いて無双する小説もあった。
合計12万という、多いか少ないかわからないダンジョンポイントを手に入れて蓮見はようやくダンジョンマスターの実感が湧いてきて、少しワクワクした。
『初めまして。私はダンジョン運営サポートAI モデル:デルタタイプです。チュートリアルを今すぐ始めますか?』
そして声が切り替わる。
先程までとは違う、無機質で中性的な声だ。
体育倉庫に閉じ込められてる今なら別にチュートリアル始めてもいいと思った蓮見は<はい>を押した。
念の為急に誰かが来てもいいように、扉を開けられてもすぐに見えない位置に移動する。これで何もないところを見つめていても誤魔化せるだろう。
『それではチュートリアルを開始いたします。まず初めに、ダンジョンの拠点をお選びください。なお、1度決定すると今後拠点の変更はできません』
その声と共に蓮見の目の前に日本地図が現れる。スマホの画面のように指で動かせ、拡大や縮小ができた。ただし、地図には本当に日本しか写っておらず、海外には拠点が置けないようになっていた。
「国内にしか置けないんだ。オレの家は……」
ダンジョンの場所は家から近ければ近いほど良い。その考えの元、拡大して自分の家を探していたが、途中で虫眼鏡マークがあることに気づいて、自分の住所を入れる。すると一気に自分の家の場所が拡大されて表示された。
「なぁ、サポートAI。これダンジョンを作る場所と建物が被ったらどうなんの?」
『回答:被った建物の部分が消失します』
「ふぅん。なら家にダンジョンは置けないか」
しばらく考え込む。近くの空き家、公園、駐車場……試しに色んな場所にピンを刺してみて、消費ポイントを確認すると、どこもほとんど差は無かった。
つまりどの場所でも問題ないのだが、どれもイマイチピンと来ない。
「うーん……そもそも建物を避ける意味なくない?」
AIの回答では、ダンジョンが被った場所は建物の方が消えるという。つまり、どんな場所でもダンジョンは作れるのだ。
最初は自分の家に作るつもりでいたが、それができないと分かり、他の場所を考え始めた。けれども、家じゃなければ建物が消えても問題ない。
「ここでいいや」
そうして、蓮見がピンを刺した場所は、自分の家の隣の家の人の敷地だ。
暮らしているのは都会に働きに行っている息子がいる夫婦二人。昔は近所付き合いがあり、遭遇したらお菓子を貰うこともあったが、母親が出て行ってからは付き合いがなくなり、今は虐待を受けていると知っていても無視を貫いている家だ。
真冬のベランダに締め出されている時だって目が合っていたのに、見て見ぬふりをされたこともある。
住む場所が無くなって苦労すればいい。
蓮見は悪意を持ってあえて家と被るように場所を指定した。
「7900ポイント……多いのか少ないのかわからないや」
『拠点が決定いたしました。続いて、最初の部屋の設定を行います。四角マークを押して部屋の大きさをお選びください』
「最初の部屋って何?」
『回答。地上部分に出現するダンジョンの玄関のようなものです』
「へぇ。ここって罠仕掛けられる?」
『回答。最初の部屋には罠の設置はできません』
「むしろ最初の部屋って何ならできるの?」
『回答。外観の装飾、内装の配置、1階層へ続く階段、または魔法陣の設置が行えます』
「要するに攻撃は何もできないってことじゃん。最初からそう言えよ」
AIからの返答は無かった。ここら辺で蓮見は本当に必要最低限の事しかAIは答えてくれないと察した。
とはいえ、最低限のことは聞けたので、最初の部屋の設定に移る。
言われた通り視界の端に増えた四角マークを押して見ると、ポンっと◻︎が出てきた。大きさによって必要ポイントが異なるらしい。
「これ高さってデフォルト何m?あ、外から測った場合ね」
『回答。3mです』
「じゃあ消せるのは1階までか」
一階部分を全てダンジョンにするにはそれなりのポイントがかかる。玄関寄りにピンを刺していたので、家に入れなくすればいいやと考えた蓮見は5m四方の部屋を設定した。
入り口は道路に面している方を選び、下に行く方法は階段。内装も外装も特に触らず次に進む。次は一階層の設定だ。
『最初の部屋の設定が完了いたしました。続いて、1階層の設定を行います。四角マークを押して階層の形をお作りください』
必要ポイントは床面積×10なので、大きい部屋を作ろうとすると凄まじいポイントを消費する事になる。
すぐに部屋を大きくするのではなく、たくさんの四角を組み合わせて道や小部屋を作る方が効率的だと気付いた蓮見はものの数分で1階層を完成させた。
すると、次はモンスターを配置させるようにとチュートリアルが進む。
画面を開いてモンスター一覧を眺めた。100ポイントで配置できるものから、100万ポイントあっても配置できないものまで色々といる。
手持ちのポイントじゃ選べるモンスターが限られているし、強いモンスターを選ぶと1体しか置けない。
「なぁ、これどうやったらポイント増えるの?もったいぶらずに増える方法は全部言えよな」
『回答。人類がダンジョン内に留まっていた時間、人類がダンジョン内で死亡した時、ダンジョンのレベルが上がった際の報酬、他のダンジョンの踏破を行った場合などで入手可能です』
「などって何?全部言えって言ったよね?オレ」
『回答。現時点ではお答えできません』
「使えな」
AIから言われた方法だと、ダンジョンがオープンしていない今はポイントが増やせない。つまり、手持ちのポイントでやりくりするしか無い。
「じゃあダンジョンのレベルを上げる方法は?」
『回答。人類からの侵攻を退けた場合、経験値が付与されます。経験値が一定数溜まると、ダンジョンレベルが上昇します』
「ポイント増やすには人類をダンジョン内に留まらせる必要があって、レベル上げるには何回も来させる必要があるってわけね」
蓮見の住む地区は広島の中じゃ栄えている方とは言え、東京と比べると圧倒的に田舎だ。人口も多くない。普通の作りじゃ、ダンジョンを運営するのは難しいだろう。
時間だけはある蓮見はモンスターの説明文を上から読んでいった。気になるモンスターを見つけたら、名前を覚える。
3種類ほど候補を見繕ったところで、体育倉庫の扉が開いた。
「あ!いた!やっと見つけた!」
「み、峯川さん……どうして」
鍵がかかってたはずの扉を開けたのはクラスメイトの峯川彩葉だった。蓮見と小学校が同じで、何かと気にかけてくれている存在である。
明るくて、誰にでも優しくて、可愛くて、クラスの人気者。いじめられっ子の蓮見とは真逆の存在だ。
「体育の後から居ないなって思ってたの。アイツらに聞いたら体調崩して帰ったとか言ってたけどさ、鞄も持たずに帰るわけ無いと思って探してたんだ。朝陽くん、大丈夫?」
「まぁ、閉じ込められただけだし……ジッとしてるのは慣れてるから」
「そ?でもお腹は空いてるでしょ!給食の時間もう終わっちゃったけど、余ったパン貰ってるから後であげるね」
「あ、ありがとう……」
峯川の登場によって、ダンジョンの制作は一時中断となった。




