75話 後悔
「私としては、該当の探索者を日本に連れてきたかったが、捕まらなかった。頻繁に探索するダンジョンを変えているのもあるが、そもそも目撃情報が少ない。
最近では現地に行って自分で探した方が早いのではないか思い始めている」
遠回しに一緒にイギリスに行きませんかと誘われているような気がするのは気のせいだろうか。
気のせいということにしておこう。
「急ぎではないので無理しないでくださいね」
「来年には必ず成果を出すと約束しよう」
めっちゃ頼りになるな。
その後は文字について情報共有を行ったが、進展なしで終わってしまった。まぁ普通、未知の文字が見つかったらSNSにあげるよな。前調べた時に見つからなかったということは、これ以上は写真などは無い可能性が高い。
情報共有が終わる頃には瑛士と寧音が帰ってきたので、みんなで夕飯に向かう。
ビュッフェ方式で料理はどれも美味しかった。特にパスタ系の料理が美味しくて、何回かおかわりしたくらいだ。
夜は案の定瑛士が来て、スマホゲーをやりながら満足するまで話に付き合い、0時ごろに追い返した。
翌日。朝はいろんなパンやベーコン、米、魚など、朝食向きの料理が並んでいた。昨日たくさん食べてそんなにお腹が空いてなかったから、クロワッサンとベーコンだけ食べた。美味しかった。
朝食を済ませると、いよいよ探索に向かう。
昨日レンタルした武器は昨日のうちに返却していたので、今日も同じ物を借りる。ちなみに当日に返却しなきゃいけないのは臨時武器使用許可証を使う時の暗黙の了解みたいなものだ。
連日借りっぱなしじゃ全然臨時じゃなくなるからな。
レンタルショップはかなり混んでおり、武器を借りてホテルを出る頃には10時を過ぎていた。想定より遅いスタートになりそうだ。
「今日は2階層より下にも行くんだよね!?」
「そうよ」
「じゃあさ、俺が行く道決めてもいいかな?」
「俺はいいよ」
「私も構わない」
「瑛士が選ぶ道なんて不安なのだけれど」
「じゃあ寧音ちゃんも一緒に決めよ!」
「遠慮するわ。私、このダンジョンのマップ10階層までは頭に入ってるもの。あんたが好きに選びなさい」
「わかった!」
最終的にOKするならなんで最初嫌な雰囲気出したんだよ、と思わなくもないが瑛士は特に気にしていないらしい。
全員納得したということで、ダンジョンは瑛士が先頭を歩き、その後ろに奈那さん、その後に寧音さん、俺という順番で進むことになった。
道を知らない割に、運が良かったのか3階層まではスルスル行け、4階層も少し迷ったけどすぐに5階層まで辿り着いた。
「“雷槍”」
「わ!びっくりしたぁ」
奈那さんの魔法でソーンローズが木っ端微塵になった。その場にはうっすらと黒い跡が残っている。
ダンジョンの地面や壁は傷がつかない仕様なので、この跡も自然とそのうち消えるだろう。
「驚かせてすまない。ソーンローズが攻撃体勢に入っていたから先に攻撃を仕掛ける必要があった。この階層と前衛の探索者はあまり相性が良くない。このまま先頭を歩かせるのは忍びないのだが、向こうに気づかれないように近づくスキルなどは持っていないだろうか?」
「向こうに気づかれないようなスキルかぁ……俺は取ってないな」
……ダンジョンマスターなんだからその場で取れると思うんだけど。
「なら仕方がないな。この階層だけ私が前でもいいだろうか?」
「わかった!」
奈那さんも、あと寧音も新しくスキル取れること知ってるだろうに、特にツッコミを入れない。
これ気にしてる俺がおかしいのか?
あと俺の隠遁者スキルでこの場にいる全員存在感消すことできるけどそれもしなくていい?こんな序盤でガチにならなくていいってことなんだろうか。
先頭が奈那さんになれば、進む道で躓くこともない。あっさりと6階層まで来た。
また先頭が瑛士に戻る。
ここでようやく進みが遅くなった。あっちへ行っても行き止まり、ルートを変えても行き止まり。
モンスターの処理は問題ないが、道がだいぶ複雑になったようで、中々次に行く階段が見つからない。
宝箱を一つ見つけ、5回目の行き止まりに当たった後で、ようやく7階層まで来ることができた。
そして少し進んだところで。
「大変だ!!全員今すぐダンジョンを出た方が良い!!」
そう大声で叫びながら走り去っていく人に遭遇した。
ダンジョンを出た方が良いって言われても、いったい何があったんだよ。注意喚起するならもうちょい詳しい事情を説明してくれ。
それか話しかける余裕のあるスピードで走ってくれ。
詳しく内容を聞こうにも、その人はもうどっかに行ってしまった。たぶん下の階層にも言いに行っていると思う。
「……どうしますか?」
「府中ダンジョンに何回か来ているが、ああ叫んでいる人を見たのは初めてだな。あの様子が演技だとは思えないし、詳細を話す余裕が無いくらいの出来事があったとみていいだろう。
道順的に彼は上から来たようだし、何かあったのは地上か……?けれどもダンジョンから出るように、つまり地上に行くように促している。考えられる可能性はモンスターの氾濫が起こった、とかだろうか。モンスター氾濫時の内部の様子は誰も知らないから、内部にもモンスターが溢れると予想して逃げるよう注意を呼びかけている」
「よくわかんないけどとりあえずダンジョンを出た方がいいってことだよね?」
「馬鹿ね。地上じゃステータスの身体能力は反映されないし、スキルは使えないのよ。もしモンスターの氾濫が起こっているとしたら、能力を使えるダンジョン内にいた方が安全だわ」
「そもそもモンスターの氾濫はあり得ないよ」
ダンジョンからモンスターを出すには許可がいる。俺らに許可が降りてないのに府中ダンジョンだけ許可があったとは思えない。
もし、モンスターの氾濫が起こったと思われているなら……人類が捕まえたモンスターが逃げ出したか、あまり考えたくはないが、ダンジョンマスターが外にモンスターを配置できる仕様に気づいて実践したかだな。
どちらにせよ俺はダンジョン内の、できれば最初の部屋にいた方が安全だと思う。
「せっかく見知らぬ探索者が注意喚起してくれたんだ。地上に出てみよう。ダンジョン内の方が安全だと思ったらまた中に入ればいい」
「わかりました。道案内お願いしてもいいですか?」
「あぁ。最短ルートで出よう」
行きの瑛士が決めた行き当たりばったりなルートとは違って、行き止まりに当たることなく、めっちゃ短時間でダンジョンの最初の部屋まで来た。
ただ、最初の部屋は人でいっぱいになっていて、階段の途中から上に上がれない。
「あの、これどういう状況なんですか?」
近くの探索者に聞いてみる。
「さぁ。俺らもとりあえず上がってきたらもうこの状況で」
「外でモンスターが出たらしいぞ」
「ほう。それは興味深いな。氾濫が起こったのか?」
「いやぁ。詳しいこたぁわからん」
「上の部屋にいるのは逃げてきた一般市民だってよ」
ライセンスを持っていない市民がダンジョンに逃げてくるほど危険なモンスターが出たのか?
いよいよダンジョンマスターが外でモンスターを設置した可能性の方が高くなってきたな。
「ふむ。外で何かあったのは間違いないか。調査しに行きたいから通してくれないか?」
「やめとけって、外は危ないでぇ」
「他にも逃げてくる人がいるかもしれないから、戦える人はむしろ下に下がった方がいいんじゃないか?」
「疑問は追求しないと気が済まないタチでね。危険は承知の上だ。それに原因はキミらも知りたいだろう?誰かは行かなければならない」
ということで、狭い階段になんとかスペースを空けてもらって、俺ら4人は上に向かった。
下に行こうとする流れに逆らって上に行くものだから、中々時間がかかってしまった。
途中で地上に何があったか耳にしたが、それは到底信じられないもので、この目で見るまでは本当だとは思えない。
けれど……地上に出ると、それはいた。
「まじかよ」
「嘘……」
「やっばー!」
「本当に出現したのか。ドラゴンが」
ここからだと距離はあるが空を飛んでいるのは確かにドラゴンだった。
《GAAAAAAAAAAAAA!!!!!》
声がここまで聞こえてくる。
いやいやいや。目で見てもまだ信じられない。
だって、ドラゴンだぞ?
瑛士への説明でドラゴンが街中に出現するかもしれないって言ったけどまさかそれが本当になるとは1ミリも思ってなかったって。だってドラゴン最低でも5000万ポイントも必要だから。そんなポイントを用意できるダンジョン存在したことに驚きだわ。
とりあえず。とりあえずさ。機能が修正されるのを悠長に待っているだけだった自分を殴りたい。
本当にどうしよう……あのドラゴン。




