66話 解読スキル
「そうですね……情報を送ったら今度はちゃんと送れたか確認する必要がありますから、目に見える形で残っていても不思議ではありません。痕跡を消されているかもしれませんが、探す余地はあるでしょう」
ただ、どこに送られているか特定できない上に、文字の種類を全て把握できてきるわけじゃ無いから、探すのは相当難しいだろう。
少なくとも俺らだけじゃ無理だ。もっと協力者がいる。
もし仮に協力者を増やしたとして、文字の解読が進み、自由にスキルを作れるようになったら。作ったものなら人類でもダンジョンの外でスキルが使えるようになるかもしれない。
それは一人一人が銃を持つようなものなんじゃないだろうか。
この可能性がずいぶん恐ろしいものに思えた。
俺の考えすぎと言えばそれまでだが、なるべく情報は広めたくない。
だったら……
「探す余地があっても、それがあんまり現実的じゃないのはあなたもわかってるでしょう。世界は広い。広すぎる。日本ならまだしも海外に情報が送られてたら、見つけようがありません。
実は……今ある文字なら読める方法があるんですよね。まぁ確実とは言えないんですけど」
「なんと!その方法をぜひ知りたいものだ。今言い出したということは何かリスクでもあるのかね?」
「単に俺が前向きじゃなかっただけです」
俺1人じゃできないやり方だから。
もしかしたらできるかもしれないけど、確実性が下がる。
だからもう1人必要なんだけど、たぶん瑛士にはできない。というか、協力者を選ぶなら研究者さんしか選択肢がない。
「解読スキルって知ってますか?」
「いや、初めて聞いたスキルだ」
「簡単に言うとダンジョンで罠として置かれている謎を解くのに使えるスキルです。今の所日本では謎解き罠を置いているダンジョンが無いので本来なら使えないスキルですね。
解ける範囲は魔力値、器用さ、そしてステータスには載っていない知力によって左右されます。この知力というのが厄介でして、スキルの説明文には普通に書いているくせにAIに聞いても基準を教えてくれてくれなかったんですよね。
ただ、真識眼を持っているような人物なら解けない謎はないと言っていました」
謎解き罠は好きな問題を設置して答えを言えたら先に進めるようになる扉型の罠だ。間違えたら落とし穴とか槍が降ってくるとか、そういう追加の罠を発動させられる。追加の罠を設置しなくてもいい。
謎は自分で考える必要がある。ネットで検索して答えが出てくるような謎は設置する意味がないからな。なのにせっかく頑張って考えても、解かれた答えを言いふらされたら、他の人は通り放題だ。だから人気が無いんだろう。
また、問題が成り立っているかは扉が判定し、正誤判定も扉がする。例えば[朝は4本、昼は2本、夜は3本のモノってなーんだ]という問題を設置したとして、人と言っても人間って言っても正解になる感じだ。だから誤った回答をあえて正解に設定することはできない。
高機能な罠なだけあって、1つ設置するのに10万ポイントもかかる。
だったら条件を付けた魔法陣を設置した方が手っ取り早いし足止め効果もある。
要するにマジで使えない罠で、それ用のスキルである解読スキルもマジで使えないスキルである。
一応俺のダンジョンでは使える解錠スキルでさえ取っている人が中々いないのに、日本のダンジョンで設置されていない謎解き罠のために解読スキルを取っている人なんて居ないだろう。
俺も文字のために使えるスキルを探していて初めて知ったくらいだし。ポイントは20万必要で、スキルの書にするなら40万。実際に使うまで効果もイマイチわからない。
けれども、俺が文字を読めた人が先に進める謎解き罠を設置して、解読スキルを持った人が見れば読めるんじゃないかと考えた。
特に真識眼を持っている人ならAIのお墨付きだ。
本当なら、40万ポイントのスキルの書を渡すなんて、あまりしたくない。しかしこの文字について何か知りたいのならやるしかない。文字についての情報を集めるためにいろんな人に協力を仰ぐよりはマシだろうしな。
そう思って、俺は覚悟を決めた。
解読スキルや隠しステータスになる知力の考察を話している研究者さんは一旦無視して、解読のスキルの書を手元に出す。
他のスキルの書と同じく羊皮紙らしい質感の紙をくるんと丸め、紐で留めた形状をしている。
紐解いて羊皮紙を開けば、スキルを覚えられる仕組みだ。
開いた途端に眩い光に包まれて、光が収まる頃にはスキルの書は消える。
俺は使ったことがないから全部聞いた話だけどな。
「いろいろ気になる点はあるでしょうけど、先に進めてもいいでしょうか?」
「ああ、すまない。つい気になってな。君は知力以外にも隠しステータスはあると思うかね?それともすでにその答えを知っているのだろうか」
「遠距離攻撃系のスキルに集中力という言葉が入ってたんで、それも隠しステータス扱いかと。あとは特に思い当たるのはないですね。俺も全部のスキルの説明文を読んだ訳じゃないので他にもありそうですけど。そもそも説明が不十分なスキルとか多いですしね」
例えば初級の風魔法スキルの説明文は、“初級の風魔法スキルが使えるようになる”のみ。具体的にどんな技が使えるのか書いていない。
研究者さんが持っている真識眼スキルだって、説明文に対象を見れば見るほど情報が増えるなんて文言は一つもない。“常時発動型”は最後に付け足される感じで書かれてたけどさ。
AIに聞いてもはぐらかされたが、人類がスキルを取る条件に隠しステータスの数値が入っている可能性だって全然ある。
でも今は隠しステータスなんてものに気を取られている場合ではない。
「そうか、集中力。確かにそれも人によって異なるものだし数値化されていてもおかしくない。遠距離攻撃が当たる人と当たらない人がいるのはこの数値の違いなのだろうか。得意な人と不得意な人を集めて確かめてみたいものだ。隠しステータスを見る方法からまずは考えてみるべきか……」
「あの、これ解読のスキルの書なんで俺の代わりにさっさと使ってくれます?できれば部屋の外で。その間に俺はこの部屋に罠を作ります」
「失礼。気になったところは言わずにはいられなくてね。でも私が解読の役目を貰っていいのかい?君の友人に任せることだって出来た筈だ」
「俺の友人の魔力値、器用さ、知力で文字を読み解けるかはわからないので。だったら最初からあんたに任せた方が効率がいいでしょう。文字の内容が気になるのは俺も同じです。あんたが解読できた内容に嘘をつく人じゃないのはわかっているので、遠慮なくスキルの書を使ってください」
「おや、そこまで信用してくれているとは思わなかったな。ではありがたくこのスキルの書を使ってこよう」
「だいたい10分もあればこっちの準備も整うと思います」
「ではまた10分後に」
そう言って研究者さんは出て行った。
俺も早速罠を作ろう。
事前にやり方は確認してきた。
まずはポケットに入っていたメモ用紙を取り出す。研究者さんから送られてきた文字をメモったものだ。
次に、ダンジョンの運営画面を開いてこの隠し部屋の隣にもう一つ部屋を作り、謎解き罠の扉を設置した。問題を記入するよう求められたので、手書きに切り替えてメモを見ながら文字を写した。
ちなみに手書きモードはイラストを謎にしたいとか言ってAIに頼んで追加してもらったものだ。完全に理由は嘘だったけどあっさり要求は通った。
文字を写し終えると、文章を記入できるモードに切り替えて、問題文を書けば終わりだ。
【問:書かれている文字を全て読め】
ካረጻ መሦ ኮቶባ ኮኡካ
ጻንጂሾን ኩኡኪ ሔንካን
ኢሪሾኩ ኮኤ ሖሤኢ
……並べてみても本当にわからないな。似てる形多いし書き間違えてないか不安になる。一応メモってきた通りに書いたつもりはあるけど、メモの方が間違ってるかもしれないし、これを最初に写した研究者さんの方が間違えてるかもしれない。
ただ、設置出来たなら問題として成り立ってはいる筈だ。
準備が終わってから数分もしないうちに研究者さんは戻ってきた。
「そろそろ10分経ったが……うん。終わっているようだね。では早速スキルを使ってみよう。“解読”」
1人で“ほう”とか“なるほど”とか言っている。
「素晴らしいスキルだな、これは。わかったぞ、まっちー」
「それで?」
「左上から順に、身体、魔素、言葉、効果、ダンジョン、空気、変換、威力、声、補正、だ」
正解は俺も知らない。
ただ、扉が開いたということは、今の単語で合っているということだ。




