65話 力の源
練習場ができてから、時間関係なくダンジョンに入ってくる探索者の数が増えた。
だから誰にも見られないで中に入るのも大変だ。
なので最近は何食わぬ顔をして他の探索者と一緒に入って6階層まで着いていき、その場が解散になったら誰にも見られない位置に行って隠遁者スキルを使うようになった。
同時に進んだ人数が多くて人の目が欺けない時は普通に7階層、8階層まで進んでしまって、人の少ない道に行く。
今回は7階層で隠遁者スキルを使って2階層の隠し部屋まで戻ってきたのだが。
「うわ」
隠し扉を開けたら研究者さんがもう居たので思わず声を上げてしまった。
「うわとは失礼じゃないかな?まっちー」
「あんたがまっちーって呼ばないでください。なんでもういるんですか」
「楽しみすぎて前の予定を巻で進めたら時間が空いてしまってね。早く着いて悪いことはないし早速来たわけだ。君こそ到着が早いんじゃないか?この時計を信じるならまだ約束の1時間前だ」
前回俺が設置してそのままにしてあった置き時計を撫でながら言ってきた。時計を好きにいじくり回したそうだな。
「ダンジョンでちょっとやりたいことがあったから早く来ただけです。別に今じゃなくていいから気にしないでください」
「そのやりたいことがなんなのか気になるところだが、そう言うなら深くは聞かないでおこう。
今回は例の文字についてだったね。大変嘆かわしいことに私も君に送ったものしか読み取れていない。言語学者の友人にも聞いてみたが、たったあれだけじゃやはり解読は難しいみたいだ。解読するにはもっと文字を集める必要がある。
しかしながらあの文字は現状、スキルを複数同時に取る時にしが見えない。私が確認できたのは5個以上同時に取った時だけ。読み取ることを考えると6個以上同時にスキルを取らなくてはいけない。世の中にあるスキルの書をかき集めても解読には程遠いだろう」
研究者さんが文字を見るために使った方法は簡単だ。スキルの書を近場のショップで買ってきて、それらを同時に使うだけ。近場のショップであらかた集めたら、全国から買い漁って使う。
言うだけなら簡単だが、実際にやろうとするとものすごく金がかかるやり方である。
やろうと思えばスキルの書を提供できるが、ポイントがすごいかかるし、やり始めたら際限がなくなるので俺からは何も言わなかった。研究者さんからも言ってこなかったので、何一つ渡していない。
「もっと効率の良いやり方を見つけなきゃいけないってことですよね。本来ならスキルを1個撮るだけでもあの文字は頭に流れ込んでくる筈ですから、それを読み取る方法を考えるか、他に文字が見える場所を探すかそのどちらかでしょうか」
「そうなるだろうな。そもそも何故スキルを5個以上取った時だけ見えるのか。
私はスキルの取得をスキルのダウンロードと考えてみた。1個だと情報量が少なくすぐにダウンロードできるが、複数取ればそれだけ情報量が増えてダウンロードに時間がかかる。つまり情報の渋滞が起こる。その渋滞のおかげで本来見えるはずのない文字が見えるようになったんじゃないだろうか。あくまでも予想だがな」
だいたいそれであってそう。
最近うすうす感じていたが、俺たちに与えられたダンジョンとステータスに関わるシステムは完璧じゃない。
だから小嵜みたいにバグのような方法でのステータス取得が起こったり、ダンジョンの存在が無意味になるようなモンスターの配置ができたりしてしまう。
スキル取得の際の文字も本来なら見えるはずがなかった文字だったとしてもおかしくない。
「そのスキルはどこからダウンロードしてると思います?」
「どこから、か。文字があるということは、それを読む存在がいて、文字ができるだけの文化があるということだ。少なくとも地球に住む人類ではない。宇宙にいるまだ認知されていない知的生命体かもしれないし、そもそも次元が違ういわゆる異世界というやつかもしれない」
「神とかそういう選択肢は?」
「ないな。そもそも神は人類が生み出した想像の産物だ。もし人智を超越した存在を神とするなら、例の声を神と言っていいかもしれないが、文字が使われている時点でなにかしらの法則がある。法則があるということは、いずれ読み解けるものでしか無い。つまり人智の範囲内にある。こんなの神とは言えないだろう?」
「なるほど。要するに力を与えた存在は地球では考えられない文明を持っている宇宙人か異世界人の2択ということですね。だとしたら俺は異世界人の方を推します」
「ほう。理由は?」
「詳細は伏せますが、最近あちら側とサポートAIを通じて交渉する機会がありまして。簡単に言うとダンジョンの運営システムの一部改善を提案したのですが、デメリットがあるから無理だと断られました。そのデメリットが何かは最後までわかりませんでしたが、少なくともあちら側がこちらに干渉できるのは無限では無いと言うことです」
「宇宙人と異世界人ならこちらへの干渉に制限がかかりそうなのは次元が違う異世界人の方、ということか」
「ええ。まぁあくまでもそういうイメージっていうので決めつけてるだけですけどね」
「決めつけは大切だ。じゃないと仮定が建てられないし仮定がないと検証ができない。真実に近づけない。
そうだな……例の声が異世界の存在だとしよう。スキルの使い方も異世界からダウンロードされる。では、我々がダンジョン内で使っているスキルの力の源はどこから来ているのか。君の場合はダンジョンを作る時の力の源だな。
地球には無かった力だから、異世界からだと思うのが自然な流れだ。しかしながらあちらがこちらに干渉するのには制限があるんだろう?なら、こちらがあちらの力を使うのも制限があるのが普通だ。でも、我々が制限を感じた事はない。
人類側だとわかりにくいから君の立場で考えてみよう。ポイントがあれば無限にダンジョンを運営できる。そのポイントはどこから来ているのか」
1番最初に貰ったポイントや称号獲得時のことを除けば、基本的にポイントは人類がダンジョンに立ち入ることで貰える。
このポイントが異世界から来ている言われたら違和感しかない。だって人類が居ないと成り立たないシステムだから。
だからと言って力の源が人類というわけでもない。人類はダンジョンのモンスターを倒すことによってレベルアップして新たな力を得ているから。
「ポイントがどこから来ているかはわかりませんが、少なくともダンジョンは人類がいれば無限にポイントが手に入ります。逆に人類はダンジョンのモンスターがいれば無限にステータスが上がります。いわゆる相互関係というやつですね」
「そうだ。異世界に力の源があるとして、こちらは両陣営がいれば無限に力が手に入るのに、向こうは干渉するのに制限がかかっているという話はおかしい」
つまり、どっちの陣営の力も異世界からは来ていないということか?
異世界から来ていないのなら……
「力の源は地球に存在している?」
「さっき君の話を聞いて、私はそう思ったよ。ダンジョン、ステータス、スキル、声。全て一つにまとめがちだが、我々が使っている力の源と、向こうが使っている力の源は別だと考えた方がいい。制限のかかり方が違うのだから。
ここでそろそろスキルの話に戻ろう。ポイントさえあればスキルは無限に取れる。無限ということは、ここに向こうの力は存在しない。ただし、異世界からの介入がないと、スキルは手に入らない」
「声は力を分け与えているのではなく、情報を送って力の使い方を教えているんでしょうね」
「そうだ。思うに、地球で力を使って何かをするのは難しくても、情報を送るだけなら簡単なのだろう。声があったのは片手で数えるほどだったことから、これは向こうの力を使ったものだと思われる」
なるほど。
ダンジョン外でのモンスター配置を制限するにはどう考えても情報の送信だけじゃどうにもならない。向こうの力を使う必要があるから、デメリットどうこう言ってたのか。
「力を使うのに制限があるのだから、いきなり声をかけたとは思えない。まずはテストがあった筈だ。簡単な情報を送るというテストを。探せばどこかに向こうの文字が転がっていると思うのだが、どうだろうか」




