62話 否定される
瑛士が唖然とした顔でこっちを見ている。
そりゃダンジョン内でしか使えないとされているスキルを使えたならそうなるか。
「な、なんでスライム殺しちゃったの!?」
……そっちかよ。
「お前と違って俺はスライムを飼う気ないからな。持って帰れもしないし邪魔なだけだったから。あと実験にちょうど良かったから?」
「蒼斗が飼わないなら俺がお世話するのに」
「スラ太郎が元気ないって悩んでるのに2匹目は無理じゃね」
「えー、そうだけどさぁ」
俺もコカトリスなら可愛いなとは思うけど、飼うまで入れ込んではないかな。所詮はモンスターだし。
あ、そういえばそのコカトリスは魔核をあげたら美味しそうに食べてたな。
コカトリスが食べるならスライムも魔核を食べるんじゃないだろうか。
真っ二つになったスライムが残した魔核を拾って、瑛士に投げる。
「わ、なに」
「スラ太郎にあげてみて」
「わかった。スラ太郎、おいで」
ぴょんぴょんと跳ねて近づいてきたスラ太郎を抱き上げて瑛士は魔核を押し付けた。するとゼリーに飲み込まれるかのようにするんと魔核が体内に入っていく。しゅわしゅわと泡のようなものを出しながら、1分もしないうちに魔核が消えた。
食べた、でいいんだよな?これ。
「おお!スラ太郎がちょっと元気になった!」
俺から見ると何の違いもわからないんだけど、飼い主ならわかる変化があったんだろうか。
魔核を与え続けたらモンスターを強化できるのか、もし魔核を与えないままだったらどうなるのかも気になる。
……あと、地上で出せるモンスターの種類を知りたい。まさか全部ではないと信じたいけど、このバグみたいな方法にわざわざ制限がかかってるとは思えない。
もし、人類に悪意のあるダンジョンマスターがこの方法に気づいたら?
ある日突然街中で凶悪なモンスターが現れ、暴れ出すかもしれない。そうなったら人類には相当被害が出てしまうだろう。
他国ではダンジョンマスターの人権が保証されていないのに日本だけ人権が与えられたのは、世間では政治家の身内にダンジョンマスターが居たからだとか、ダンジョンマスターが政府に協力する交換条件だったとかいろいろ予測されているが、詳しい理由は明かされていない。
つまり1人のダンジョンマスターの悪意で、他のダンジョンマスターの人権があっさり剥奪される可能性は充分ありえる。そうなったらまた周囲を警戒しながら暮らす生活に逆戻りだ。
それは嫌だし、俺は人類の味方をするとハッキリ言ってしまっているので、何かあった時に人類を助けなきゃいけない。じゃなきゃ味方じゃないじゃんって思われかねないからな。
「蒼斗?おーい」
「あぁ、ごめん。考えごとしてた」
「大丈夫!スラ太郎のことありがとね!」
「いや、俺もふと思いついただけだし。それよりスラ太郎の存在って誰が知ってる?」
「俺と母ちゃんと父ちゃん!あと蒼斗だけだよ。部屋から出してないから」
「なら、もうそれ以上広めないようにしろよ。できればスラ太郎を殺した方が良いくらいには、ダンジョンマスターがダンジョンの外でモンスターを出せるというのはヤバい事実だ」
「えっ……わかった。けど何がそんなにヤバいの?」
「この事実が他のダンジョンマスターに知られたらドラゴンが街中に出現するかもしれない」
「え!ヤバいじゃん!」
実際にはドラゴンは100万じゃ全く足りないほどに膨大なポイントが必要だから、その可能性は低いだろうけど。俺が街中にモンスター放つなら毒撒き散らすタイプにするし。
「ガチでヤバいから本気で隠し通して」
「わかった。誰にも言わない。俺ん家に人も呼ばない」
「そうしてくれ」
ついでにここでスキルを使えたことも黙っているように頼んだ。
約束は守るタイプだからまぁうっかりが無い限りは広まらないだろう。
けど情報を広まらないようにしても自力で気づく人も居るだろうから、やっぱり対策は必要だ。
考えすぎだったらそれでいい。
何もしないでいざという時に慌てるよりマシだ。
ただ、ダンジョンマスターが制限なく街中でモンスターを出せる可能性があるというのは俺1人でなんとかできる範囲を超えてる気がする。
誰かに相談するべきか。でも、下手に情報を与えて言いふらされても困るしな。
いったんAIにこのこと聞いてみるのはありか?
そもそも許可が無いとモンスターをダンジョンから出せないっていう話だったんだから、この力を与えた奴らもモンスターが好き勝手に街中で出現するのはよく思わない筈だ。
ここで確認してもいいんだけど……
「ご飯できたわよ〜!」
下の階から紬さんの声が聞こえてきた。
「今行くー!」
瑛士が元気に返事した。
確認するのは自分の家に帰ってからでいいか。人の家の夕飯の時間を遅らせてまで今すぐ確認しなきゃいけない理由はないし。
瑛士はスラ太郎にここで待つよう伝えてから部屋を出た。俺はそれに着いていく。
リビングに行くと、夕飯が3人分用意されていた。
聞くとどうやら瑛士の父は残業で今日は遅くなるらしい。
紬さんからのまるで親戚のおばちゃんみたいな質問に無難に返事しつつ、生姜焼きと味噌汁を美味しく食べた。
食器を片付けるのだけ手伝って、晩御飯をお礼を言って、品谷家を後にする。
さて、自分の家に帰ってきてやるのはさっきし損ねたAIへの質問だ。
「ダンジョンの外にモンスターを出す方法は?」
『回答:特定の条件を満たしたダンジョンにのみモンスターを放出する許可が与えられます』
「その特定の条件とは」
『回答:お答えできません』
ここまでは前に聞いたことがある質問だ。
「じゃあ、ダンジョンのモンスターを外に出すんじゃなくて、モンスターを外に配置することは可能?」
『回答。不可能です』
「できたんだけど?」
『回答。不可能です』
「モンスターをタップしながら画面外にドラッグして離す。すると“ポイントを消費しますか?”と確認されるから<はい>を押すとモンスターが出現する。不可能って言われてもこのやり方でできたものはできたとしか言えない。なんで不可能ですって嘘つくの?」
『回答。我々サポートAIは嘘をつきません。マスターが仰った方法は自身のダンジョン内のみ可能な方法となっております』
ええ……頑なに否定するじゃん。
心なしか嘘つき扱いされて怒ってるようにも聞こえる。
「一回信じてもらえないと話が先に進まないんだけどさ、目の前でやったら信じてくれる?」
『回答。マスターの行動を確認します』
要するに見てくれるんだね。
サクッとスライムを手元に出した。
『確認完了。情報を送信します。少々お待ちください』
前々から思ってたけどこの情報を送信ってどこに送ってるんだろう。これもいつか明かしたい。




