63話 メリットデメリット
今までに何度かAIからはお待ちくださいと言われたことがあるが、今までで1番待たされている。
5分経っても10分経っても返答が来ない。
話しかけても反応はなく、ただ無言で待っているのも辛いから俺はスマホで動画を見ながら待つことにした。
それから約1時間。
『お待たせいたしました』
ようやくAIが戻ってきた。
『■■様よりダンジョンとダンジョンマスターは同一の存在である。故にダンジョンマスターの手が届く範囲はダンジョンと同じ扱いになる、という回答を得ました。
つまり、マスターの手の届く範囲であれば本来ならダンジョン内でしか使えない機能が利用可能となります。
これは私が認知していない仕様でありマスターからの質問に正しくお答えできませんでした。誠に申し訳ございません』
……今、確かに名前を聞いたはずなのにうまく聞き取れなかった。いや、認識できなかった?まるで、あの声を聞いた時みたいに。
今の名前もう一回聞けないかな。聞いたところでやっぱり認識できないんだろうけどさ。
『問い。ダンジョンの外でモンスターを出現させられる事を前提としたお話とはなんでしょうか』
「あぁ。他のダンジョンマスターにダンジョンの外でモンスターを出現させられるとすっごい困るんだよね。だからモンスターを画面外にドロップで配置できるという機能を全ダンジョンマスターから無くしてほしいんだけど……できる?」
『情報を送信します。少々お待ちください』
また情報を送信か。まどろっこしいな。
長時間待たされると思って動画を開いたのに、今度は5分ほどで返答が来た。
『回答。機能の廃止は可能です。しかしながらダンジョンマスターの皆様に与えた能力を一部とは言え廃止させるにはそれなりのデメリットがあり、簡単には行えません』
「要するに?」
『デメリットを上回るメリットが無い限りは特定の機能の廃止は致しません』
なるほど。
「そのデメリットを詳しく聞くことはできる?」
『回答。現時点ではお答えできません』
どれくらいのデメリットかもわからない状態で、それを上回るメリットを言えと。ハードすぎるな。
すぐに機能の停止は出来ない、やらない、と言われないだけマシか?
でも、俺にとってのメリットはいくらでも思い浮かぶけど、相手にとってのは一つも思い浮かばない。
そもそもダンジョンの外でモンスターを出現させられるのは力を与えた側にも不都合なのではって思って聞いたわけだし。
説得するのにも情報が足りなさすぎる。
「本来であれば、ダンジョンの外にモンスターを出すのは許可がいる。ダンジョンマスターが好き勝手にモンスターをダンジョンの外で出現させることができるのは想定していなかった、というのはあってる?」
『回答。肯定します』
「そもそもダンジョンの外にモンスターを出すのに許可がいるのはなんで?」
『回答。現時点ではお答えできません』
これも言ってくれないか。
「じゃあ、許可が必要なのって人類のステータスがダンジョン内でしか使えないことは関係してる?」
『回答。現時点ではお答えできません』
……これは最近気づいたことなんだけど、少しでも俺の質問が答えられない事柄に掠っていたら、AIはお答えできませんって言う。
けれど、全く検討外れなことを言っていたら。
「サポートAIのモデルは日本にいる?」
『回答。その様な事実はありません』
こんな感じに否定するんだよね。
これがモデルはいる?だけの質問だったら答えてくれない。
前暇だった時にこの性質を利用してデルタAIのモデルは少なくとも人型で寒色系の髪をしているというところまでは絞った。
ただし、モデルは地球にいる?とかモデルはいないってこと?と聞いても答えてくれなかったので、全く事実と違う質問というよりは否定しても問題ないと判断した質問のみ否定するんだろう。
このやり方じゃ真実は知れないけど、今回の件で役に立つ情報を集めることはできる筈だ。たぶん。
「許可なくダンジョンマスターがモンスターをダンジョンの外に出現させたらあんたは困る?」
『回答。お答えできません』
「スライムがダンジョン外で生きてたら困る?」
『回答。お答えできません』
「なら、ダンジョンマスターがダンジョンの外でスライムを出現させるのは困る?」
『回答。お答えできません』
「出現させたスライムがダンジョン外で生きてたら困る?」
『回答。お答えできません』
「ダンジョン内に出現させたスライムがダンジョンの外で生きてたら困る?」
『回答。その様な事実はありません』
「ダンジョンの外で出現させたスライムがダンジョンの中で生きてたら困る?」
『回答。お答えできません』
言い方を変えて、少しだけ聞く内容をズラして、何回も何回も質問を重ねる。
たくさん質問をするうちに何を聞いたかわからなくなるので、質問内容は全部スマホにメモしながらの作業だ。ダンジョンの運営画面を見ればAIと話したログが残ってるけど、こっちは文字検索が使えないのでスマホの方が都合がいい。そして完全に否定された質問と答えてくれなかった質問の振り分けを行う。
正直に言うとめっちゃ面倒な作業である。だから普段は質問して答えてくれなかったら諦めるんだよな。
今回は諦めるわけにはいかないから頑張るけど、100回質問しても答えられないという返答ばっかりでなかなか情報を絞れない。俺が求めてるのは事実の否定なのに。それだけ情報のガードが硬いというか、否定される質問をするのが難しい。
本当に突拍子もないことを言えば否定されるんだろうけど、それじゃ情報集めにならないしな。
それから更に質問をしていって、気づけば0時を過ぎていた。
ここまでやっておいてあれなんだけど、やっぱりメリットで説得するのは無理がありそう。だから機能の停止することのデメリットを上回るデメリットでなんとかやってみようと思う。
「俺がモンスターの配置に制限をかけた方が良いと思う理由は2つ。まず、今のままだとダンジョンマスターと人類の力関係のバランスが崩れていること。ダンジョン内では対等でも地上では人類は与えられた力が使えないから圧倒的に弱い。
このバランスが崩れるのはお前らの本意じゃないだろ?少なくともバランスを保つやらモンスター配置の制限をかけるか、人類のステータス制限を取るかをしないといけない」
最初の理由は割と適当だ。
力関係を保ちたいだろうって言うのはあくまで予想でしかない。
あながち間違いじゃないだろうけど、あまりここら辺は詰められなかった。
たくさん質問をして俺が得た情報は少ない。
力を配った奴らはダンジョンマスターも人類も監視しているらしいということ。
モンスターも人類も死ぬならできればダンジョン内で死んでほしいそうだということ。
ダンジョンが消滅するのは困るし、人類が絶滅するのも望んでいなさそうだということ。
これくらいしかないが要するに、与えた力はダンジョンマスター側も人類側もちゃんと使って欲しいんだろう。
それは正月に1年間人類からの進行を受けなかったダンジョンのみモンスターの氾濫が認められたことからも裏付けできる。
「ここで2つ目の理由。人類にはダンジョンを攻略してもらわないと困るんだろう?人類を侵略する手段としてダンジョンに篭ってるよりは地上にモンスターを出現させた方が手っ取り早いのは馬鹿でもわかる。
そうなればダンジョンは使わなくなるし、人類は地上のモンスターを倒すのに手一杯でダンジョンの攻略なんてしてられなくなる」
まぁ、そうなったらダンジョンマスター殺すためにダンジョンの完全攻略しようとする奴らもでてくるだろうけど、ダンジョン内に入る探索者の数は減るだろうな。
「ダンジョンがダンジョンとして成立させるために、モンスターの配置制限は必須だと思う。これでどう?」
『情報を送信します。少々お待ちください』
今日はそればっかりだな。
てかこれくらいこんな未知の力与えた奴らなら予測できるだろ。思いつかなかったってことはないだろうから、それだけデメリットが大きいのか。それとも地上での争いになっても良かったのか。俺の考えたことが的外れだったらどうしよう。
『お待たせしました』
あ、今回は早かったな。
『マスターの提案が認められました。来年、1月1日に機能の修正が行われます。
称号:交渉人を獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。』
なんか称号もらえたけど、それよりも……
「今すぐじゃないのなんで?」
『回答。お答えできません』
そう言うと思ってた。
あと2ヶ月待つしかないか。




