55話 敵情視察に行こう
新ダンジョン出現してから3日ほどが経った。
ダンジョンが出現するのは2度目だったからか、想像以上に早くダンジョン出現による混乱は治り、今では街はいつも通りの雰囲気になっている。
沖縄のダンジョンは次の日には探索者による攻略が始まったが、国会議事堂の方は未だに封鎖されている。あれはいろいろと言い訳つけて結局探索者には解放しないパターンだろう。しれっと国の所有物にしそう。
あ、所有物といえば、東池袋のダンジョンは自分の家の敷地にダンジョン作っていた。正確には父親が所有している土地らしいがとにかく赤の他人の敷地ではない。
つまり少し前に、“ダンジョンマスターの土地じゃないんだから、ダンジョン内の物やドロップアイテムは最初に取った人の物な”みたいな法案できてたけど、その言い訳が通じないのである。
探索者がダンジョン内のアイテムがどういう扱いになるのか疑問に思うのは当たり前だ。
SNSではあれどうなんのって声が多くあげられていた。
個人的には国はダンジョン内部は異界だからダンジョンマスターの物ではないとか、父親の所有物であって本人の物じゃないから法案は適用されるとか言い訳するのかなと思ってたけど、たった数日で探索者からの疑問に対して回答があるわけもなく……
結局ダンジョンマスター本人が、攻略して取った物は好きにして良いよって動画をあげていた。
まぁ、ダンジョンマスターという立場からすると人が来なくなるのは困るからそう言うのは当然だろうけど、国は法の曖昧なところ突かれた上で借りを作ったことになった。
さらにはこの件で探索者からの注目度も他より上がっただろうから、ここのダンマスはやり方うまいなぁと思う。
ということで。
東池袋のダンジョンに来た。敵情視察というやつだ。
今回は1人での探索だから、入るタイミングは相当気をつけないといけない。
俺がダンジョンマスターだとわからないようにするためには、入ったタイミングで隠遁者スキルを使う必要があるけど、周りの目があったら意味がないからな。
事前に調べた情報では東池袋ダンジョンは最初の部屋が俺のダンジョンより狭く、入ったらすぐに階段があり、他は何もないらしい。
最初の部屋で立ち止まる人はいないと信じて、探索者グループが入っていった30秒後くらいに俺もダンジョンに入った。
「“隠遁者”」
俺の後ろには誰も居ないことを確認していたので、おそらく誰にも見られずうまくスキルを使えたと思う。
一応幽影の雑面も装備して、次の人が来る前にさっさと階段を降りた。
隠遁者スキルを使った状態で他のダンジョンに入るのは初めてだが、スキル使っている間は人からはもちろんモンスターからも見えなくなる。それにプラスして存在感を薄くさせるアイテムもつけてるから、気配察知能力が相当高いモンスターじゃないと俺に気付けない筈だ。
ここのダンジョンはゴーレムが出るとだけ聞いている。
果たしてゴーレムは俺の存在に気づけるのか。
気をつけながら少し進んだところで、このダンジョンはだいぶ複雑な道をしていそうな雰囲気を感じた。分かれ道が相当多い。
方向感覚がない人は1分もしないうちに迷うんじゃないだろうか。
少し考えて、3万ポイント使って手元にマッピングマップを出現させた。進んでいる道を自動で記入してくれる便利なアイテムだ。
慣れてないダンジョンを迷わず進む自信がなかったし、だからといってソロ攻略で地図を書きながら進むのはキツイ。
スキル使って姿を隠してるとはいえ他の探索者とは出会いたくなかったから、戦闘音を避けながら進み、だいぶ奥まで行ったところでようやく誰とも戦っていないゴーレムと遭遇した。
機械っぽい感じじゃなくて、岩とか石でなんとなく人型になっているタイプのゴーレムである。こっちに気づいている様子はない。
うーん、どうやって倒そうかな。
見るからに弱点そうな身体の中心部にある色のついた石を壊せばいいんだろうけど、俺の持ってる初級風魔法じゃ壊せる気がしない。
いやだって、無抵抗のオークの首を落とすのに数回風魔法使ったのに、そのオークより防御力が高そうなゴーレムの岩なんて、何回攻撃を当てれば壊せるのかわからなさすぎる。
攻撃をし続ければそりゃいつかは倒せるだろうけど、倒す前に俺の存在は確実にバレそうだし。
……新しいスキルとるか。
その場を一旦離れてすごく小さい声でAIに話しかける。
「岩タイプのゴーレムに効く魔法スキルってある?」
『回答。雷系統の魔法はゴーレムに攻撃が通ります』
なるほど。雷系ね。
スキル欄を見てみると他の魔法と同じく初級から上級まで揃ってる。
ただ、風魔法の初級は1万ポイントだったのに対して、雷魔法の初級は3万ポイントする。同じ初級でも雷魔法の方が威力高いんだろうか。
だとしても初級の方にして1発で破壊できなかったら意味ないから、念のため中級とろうかな。いや、だったらいっそ上級にしたほうが……
でも風魔法の上級は10万ポイントで取れるのに、雷魔法は中級で10万。上級になると25万もする。
いいや風魔法の中級と上級とって全部揃えておこう。
『スキル:中級風魔法、上級風魔法を獲得しました。ステータスに反映されます。』
AIのアナウンスが流れて、スキルの使い方が頭に入ってくる。
スキルを取るのは久々だけど、この感覚は慣れないな。
『称号:風魔法使いを獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。また、獲得可能なスキルが追加されました』
え?ここで称号貰えるんだ。
てか獲得可能なスキルが追加されたってなに。確かに魔法系のスキル全部上級までしかないんだと思ってたけどさ。
……うん。考えるのはいったん後にして今はダンジョンのこと考えよう。
さっき見つけたゴーレムのところに戻って、覚えた上級風魔法で強そうな技を使う。
「“天刃風”」
うわ。ゴーレムが真っ二つになった。上級スキルってだけでこうも威力が違うのか。これ人に当たったらゴーレムより簡単に真っ二つになるんだろうな。
ドロップした魔核拾って、次のゴーレムを探していると、下に行く階段を見つけてしまった。今日は様子見のつもりでそんな奥まで進む予定じゃなかったんだけど、見つけておいて帰るのも微妙な気がしたので、下に降りる。
新ダンジョンはどこも1階層までの情報しか表に出ていない。つまりこの先の情報は俺は何も知らない。
恐る恐る真っ直ぐ進むと、すぐにゴーレムに遭遇した。気づかれる前にさっさと魔法使って倒す。
追加で襲ってくる気配がないのを確認してから、またマッピングマップを買って手元に出した。
1階層があれだけ複雑な道してるなら2階層も複雑だろう。
遭遇したゴーレムは速攻倒しながら、マップを埋めるように進んでいく。罠の気配が今の所ないし、1階層と2階層のゴーレムはどうやら全く同じ種類のモンスターらしく、問題なく進めている。
体感で1時間ほどウロウロしてると、次に行く階段を見つけたのだが……
「残り88時間16分28秒?」
どこかで見た、というよりいつも見ているダンジョンの管理画面に似た雰囲気の文字が階段前に表示されている。
試しに念の為持ってたナイフで軽く突いてみたけど、見えない何かに弾かれてしまった。
先に進めそうにない。
これは後88時間したらここの封鎖が解除される的な感じのやつだろうか。
何そのアイテム俺知らないんだけど。てかダンジョンにおいて先に進めなくするとか出来ないんじゃなかったっけ?
「時間経過しないと先に進めなくするアイテムってある?」
『回答。存在はしております』
「それどこで買える?」
『マスターに購入権限はございません』
えぇ。なにそれ。
「購入権限を得るには?」
『回答。今後、マスターに購入権限が付与されることはございません』
「俺以外の人が購入権限を得ることはできる?」
『回答。現時点では不明です』
この封鎖アイテム、もしや新規ダンジョンマスターへの特典とかだろうか。
俺の時は人類はみんなレベル1だったけど、今は強い人はレベル30とかになってる。なのに俺の時と全く同じ条件で始めさせたらすぐ攻略されてもおかしくない。だからバランス調整で配った、みたいな?
俺らもそれ欲しかったな。
いや、俺はなくても大丈夫だったけど、封鎖アイテムがあれば渋谷ダンジョンは今も残っていたんじゃないだろうか。




