116話 待ち合わせ
奈那さんからの北海道行きの誘いを断り続け、ゴールデンウィークに入った。
今日は池袋駅まで来ている。
あいつらと東池袋ダンジョンに行くためだ。
ただ、広島の件があったから、瑛士とあんまり外で一緒に居たくなく、俺だけは現地集合にさせてもらった……のだが、普通にいるな、あいつら。
「おひさー!」
「おひさ」
「元気だったか」
「元気だったよ!じゃあ行こ!」
「いや気ぃ早すぎるだろ。蒼斗は?」
そういえば瑛士にしか伝えてなかったな。
本人に伝えて満足してたわ。
「えっとね、俺とあんまり一緒に居たくないから先行ってるってさ」
「それ自分で言ってて悲しくならないか」
間違ってないけどもう少し言い方考えられなかったのか。俺が酷いやつみたいじゃないか。
あ、光介と目があった。けどすぐ視線を逸らしてくれた。見なかったことにしてくれるらしい。
会話の内容は若干気になるけど、今のうちにさっさとダンジョンに向かおう。遊太も見てみぬふりをしてくれるだろうが、瑛士はたぶん絶対普通に話しかけてくる。
俺は逃げるように早歩きでその場を離れた。
大型商業施設を通り過ぎ、閑静な住宅街に入って少し歩いた所に東池袋ダンジョンはある。
モンスターとの触れ合いコーナーが人気な割には、ダンジョンがある家の前には人がほとんど居ない。近隣住民に迷惑をかけるからってことで、触れ合いコーナー目当ての人たちは中で並ぶようになったのだとか。
ダンジョンマスターが侵入したら通知が行くという都合上、俺は瑛士と同時に入らなきゃいけないので、家の門の前で待つ事にした。
さっきショップで矢を買ってから行くというメッセージが来てたから、あいつらが着くまでもう少し時間がかかるだろう。
スマホを見ながら待っていると、ガチャッというドアの開く音が聞こえた。この家に住む住人が出てきたらしい。
「あのー!探索者の方ですよね。家の前で立ち止まらないでもらえますか?」
女性の声で呼びかけられる。
……これ俺に向けて言ってるな。立ち止まってんの俺だけだし。
家の門あたりを映す監視カメラでもつけていて、家の中から様子を伺っていたのだろう。家の敷地にダンジョンがあるといろいろ大変そうだ。
振り返ってみると、俺と同世代くらいの茶髪の女性が玄関から体を半分出した状態でこちらを見ていた。
「すみません。友人を待っていまして。もう少しだけここに居てもいいですか?」
「少しってどれくらいですか?」
「あと5分もしないと思います」
「あー、それくらいならいいですけど。次からは他の場所で待ち合わせ、て……」
あれ、なんか急に固まったな。今の短い間で何かあったのか?思わず後ろを見てみたが、特に何もない。
「……あの、何かありました?大丈夫ですか?」
返事はなく、数秒後。女性は玄関から急に出てきたかと思うと、俺の方に近づいてきた。
いや、本当になに?なんか嫌な予感がするんだけど……
「ま、まっちー……?」
「違います」
反射的に答えた。
今日の俺はどこにでもいる至って普通の探索者の格好をしているのにどうして|町田ダンジョンマスター《俺》だと思ったんだろう。
「で、でも、声が」
声かぁ……声は誤魔化せない。
「たまに似てるって言われてるけど違いますよ」
「それに、喋り方も」
「敬語の喋り方に違いとか無くないですか」
「あとは、ドラゴン討伐の時の映像の人物に背格好が似てるなって」
「探索者の格好なんてみんな似たようなもんですよ」
まじでなんなんだこの女。家から出てきたってことはダンジョンマスターの身内だよな?母親にしては若すぎるし、東池袋ダンジョン関係でたびたび話題にあがる姉か?
もし俺が町田のダンジョンマスターだと認めたとして、どうするつもりなんだろう。
いや、認めないけどさ。
「とにかく違うんで、もういいですか?友人来たらすぐダンジョンに入りますし」
「蒼斗ー!お待たせー!」
「え、瑛士くんっ!?」
……この女を相手している今はものすごくタイミングが悪い。どうしてもう来ちゃったんだよ。ショップ寄ったにしては早いな。
後で一緒に居たとバレるだろうが、この場さえ凌げればこれ以上の確証は持たせなかった筈だ。
余計な発言はしないでくれと思いながら、瑛士の対応を見守る。
「こんにちは!俺のこと知ってるんだ!」
「動画全部見てます。サインください」
「いいよ!どこにすれば良い?」
「あ、ペン持ってきます!ちょっと待っててください!」
女はそう言って慌てて家の中に戻っていった。
……この人もしかして普通にダンジョンマスターのファンなだけか?ダンジョンマスターの家族なのに他のダンマスのファンになることある??
「蒼斗、あの人と何か話してなかったか?」
様子を見守っていた光介が小さい声で聞いてきた。俺も声量を抑えて返事をする。
「町田のダンジョンマスターじゃないかって疑われてた」
「えっ!やばいじゃん!」
「疑われてやばいはほぼ肯定してるようなもんだから大きい声で言わないでくれ瑛士」
「そっか、ごめん」
「……大丈夫なのか?」
「とりあえず否定はしたから今のところは」
しかし、瑛士にできるだけ俺のこと言わないでくれ、と伝える前に女が戻ってきてしまった。
お待たせしました、と言って油性インクのペンと白いTシャツを瑛士に渡している。
「あの、まっちーって瑛士くんのお友達なんですよね?」
「うん。そうだよ!」
「配信外のまっちーってどんな感じですか?」
瑛士から情報を取ろうとしないでほしいし、瑛士はこっちをチラチラと見ないでほしい。バレるだろ。
「ごめんね!言えないんだ!」
「私、まっちーのファンなんです!アイリッシュって名前で投げ銭投げたりもしてて……瑛士くんとまっちーって動画でコラボする可能性ありますか?」
こっち見ながら質問するな。これもうバレてるんじゃないか……?
そして俺のファンかよ。通りで声で俺だと判断するわけだ。投げ銭投げるアイリッシュってリスナーなら1人心当たりあるけどそいつか?配信する度に1万円前後の投げ銭を毎回してくる人。
ファンならそっとしておいて欲しかったけど……無理だったかぁ。
「今度まっちーに聞いてみるね!」
「ありがとうございます!」
「ねぇ、もういい?俺らダンジョンに探索しに来てるんだ」
「あ、引き止めてしまってすみません」
「いーえ。じゃあ通させてもらうね」
遊太が無理矢理話を切り上げてくれた。
このままだとズルズル話が続きそうだったから助かる。
女から視線を感じつつも、無視してダンジョンに入った。
予定通り探索はするけど、帰るまでは気が抜けないな。




