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宣誓!人類の味方となるダンジョンにする事を誓います! 〜チュートリアルを装った攻略させないダンジョン作り〜  作者: 天沢与一


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117話 ダンジョンマスターの姉、酒木創の場合(三人称)

 推しが居た。否定はされたが推しだった。何百回も聞いた声を聞き間違える訳がない。警戒した猫みたいな態度がまた良かった。


 東池袋ダンジョンマスターの姉、酒木(つく)の内心は荒れに荒れていた。


 創は町田ダンジョンマスターのガチファンである。1回目の動画投稿から最新の配信まで全て追い、投げ銭は毎回し、寝る前には必ず動画か配信の録画を見て寝ている。


 まだ、ダンジョンマスターという存在が世間的に都市伝説扱いされていた時期にある日突然投稿されたダンマスを名乗る動画。


 品谷瑛士は内容を聞く限りシンプルに友達思いの良い奴だった。


 そして名前を名乗らなかったもう1人は、何をしたいのかよくわからない奴だった。


 友人のついでに表に出てくる事にしたと言いつつも顔と名前を隠し、政府の裏事情を暴露し、ダンジョンマスターであるにも関わらず、人類の味方をするダンジョンを作ると宣言する。しかしダンジョンマスターであるという証明は、アイテムのドロップ率を下げるという、到底人類の味方をしているとは思えない証明方法だった。


 おそらく2つの動画を見た者のほとんどが、瑛士の方が好印象に映るだろう。


 それは創も同じだった。


 それなのに町田のダンジョンマスターのガチファンになった理由は、シンプルに声と雰囲気が好みだったのもあるが、大学の友人に“表に出てこなくても良いのになんでわざわざ一緒に動画投稿したんだろうね”と言われてハッとさせられたからだ。


 確かに必要ではない行動である。政府関係の暴露だって品谷に任せても問題ないはずだ。こいつは一体何を考えているんだろうと思って、動画や配信を見続けたら、ハマってしまった。

 底の見えない性格とリスナーや探索者で遊んで反応を楽しむ一面と、その他もろもろのギャップでやられた。それまで別の配信者を推していたが、見事に最推しになった。


 最推しが目の前に居て、冷静になれる人間が居るだろうか。


 少なくとも創は冷静にはなれなかった。


 4人がダンジョンに入って行くのを見届けた後、創は家に戻ってすぐに弟に電話をかけた。



「どうしよう!すっぴんで推しの前に出ちゃった」


『ごめん、何の話?』


「さっきまっちーがウチに来たのよ!否定してたけどあれ絶対本人だった。緊張して変な態度取っちゃったかも。引かれたかな。どうしよう」


『知らねーよ。てかそれ本当にまっちー?』


「私が推しを間違える訳ないでしょ。てかあんたダンマス来たらわかるって言ってなかった?」


『通知で来たのはわかるけどそれ以外は教えてくれねーんだよな。さっきも通知来たけど品谷の姿見てそれだなって判断してたわ』


「まっちー、瑛士くんと来てたの」


『あー、2人同時に入ったんだろうな。え、じゃあダチと来てる所をわざわざ話しかけたのかよ』


「その時は1人で……まぁそれはもういいのよ。あんた今どこ?帰って来れる?」


『これからアストラボの人と会うんだけど』


「あー、言ってたわね……」



 アストラボはダンジョンから取れる特殊素材の研究とアイテム開発を行っている会社である。


 弟の岳にダンジョン関係の会社を調べさせて、最終的にどことやり取りするかを決める際に創がおすすめした会社だ。

 これまでも何度か素材の取引を行っている相手でもある。



「なら、仕方がない。1時間以内に終わらせてすぐ戻って来て」


『は?いや無理だろ』


「何回か取引してる相手ならいけるわよ」


『そもそもなんで俺が必要なんだよ。まっちーが来た以外の問題起こってないだろ?』


「推しが近くにいるのに何もせずには居られないじゃない?」


『うわ、迷惑なやつだな』


「あんただってアイドルのひよりんが街中で歩いていたら、例え変装しててプライベートの時間だってわかっても話しかけるでしょ」


『そりゃ話しかけるけど。それとこれとは違うだろ』


「同じだわ。迷惑かけてる事には変わりないんだから」


『迷惑をかけてる自覚あるのかよ』


「ファンだもの」



 創だって、普段顔を隠して配信や動画を撮っている相手が素顔を特定されたくない事くらいはわかってる。素顔の時に推しだと気づいてもスルーしてあげるのがファンとして正しい行動だろう。


 でも、最推しがいると気づいて、その判断ができないくらいにはテンションが上がっていた。そこにまっちーとセットで推してる瑛士が現れたら、もう衝動的に動くことしかできない。


 今は岳と電話してだんだんと冷静になって来て、自分のやった事を振り返り、後悔しているところである。



「別に私もまっちーの素性を暴こうとか繋がりたいとかは思ってない。そりゃサインとか貰えたら嬉しいけど、本当は健やかに配信と動画投稿をし続けてもらえればいいのよ」


『じゃあそっとしておくのが正解だろ』


「でもうちのダンジョンに(チャンスが)来たなら(巡って来たから)、あんたを通じてでもいいからまっちーをサポートしたいなって」


『……どう考えても本人だと認めてない相手には無理じゃね?』


「だろうね。だから瑛士くんから攻めるわ。将を射んとせばまず馬を射よ、よ」


『後半の意味はわかんねーけど、とりあえず品谷と仲良くなれって事であってる?』


「あってる。まっちー達がダンジョンの探索を終える前に帰って来て」


『横暴だなぁ』


「は?文句ある?」


『ないです。すみません。品谷とは話してみたいって思ってたんで頑張って早く話をまとめて帰ります』


「ありがとう!頼れる弟がいて助かるわ」



 要はまず先に瑛士と仲良くなってもらい、交流を深め、徐々にまっちーとの距離も縮めようという作戦である。


 これでもうまくいく確率は低いだろう。なにせ警戒心が猫みたいに高い男が相手だ。逃げられたり、敵と思われたりしないためにはこれくらいの方法しか創は思いつかなかった。


 岳が帰ってくるまでの間、創は家の門を映している監視カメラのリアルタイム映像から目を離せなかった。さっさとダンジョンから出て来られたら意味がなくなるからだ。


 そしてまっちーたちがダンジョンに入ってから2時間を過ぎた頃にようやく岳が帰ってた。


 これでもだいぶ早く終わらせた方だと思うが、創的にはもう何十時間も待っていた感覚だった。


 もう少しどうにかならなかったのかという苦言を言いたくなる気持ちを抑え、あくまでも仲良くなるのは瑛士だけでいい。まっちーの正体については一才触れるな。と注意点を言い渡してさっさと岳をダンジョンに送り出す。


 ダンジョンの中と外では連絡が取り合えないので、創は待っている事しか出来ない。


 岳の成功を祈りつつ、創は監視カメラの映像を見続けた。

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