114話 捕まえる
人相手に風魔法を使うと殺してしまうので、使うのはやはり水魔法スキルが良いだろう。
とりあえず水球を連発して撃って、牽制する。
そしてジリジリ後ろに下がらせ、アツシたち4人と向こうのメンツから距離を取らせた。
これでようやく範囲広めの魔法を使える。
水属性は基本的に他の属性より威力が弱い。例えば水球だとギリスライムは倒せるが、ホーンラビットは倒せないくらいの威力だ。他の属性はホーンラビット倒せるのにな。その代わりなのか、水属性には広い範囲に攻撃できるスキルが初級から色々ある。
「“水波”」
目の前に50cm程度の波が3回発生した。
広い場所で使うとマジでなんの意味もないが、ここみたいな狭い通路だと波の威力が消えずに前に進み、当たれば強制的に後ろに押し流される。
更にそれが繰り返されれば立っているのが難しくなる。
よろめいたところを水球で追撃すれば、4人中3人はあっさり転んだ。
そこに追い打ちをかけるように“水幕”と唱えた。
水幕は10秒間水の幕を張る魔法スキルだ。本来なら防御とかに使える。今回は10秒経った後水の幕は地面に落ちて消えるという性質を使って相手の頭上に大量の水を降らせることに使った。
スキルじゃなくて魔法を使う練習で散々水魔法スキルを試したからスラスラとスキル名が出てくるな。奈那さんでやり方を見たから発動位置も問題なくズラせる。
向こうはどんどん来る水に対して耐えることしかできておらず、こちらに攻撃を仕掛けられずにいる。
でもそれだけだ。水責めすればそのうち気絶するかなって思ったけどなかなかしない。やっぱり数分沈めるくらいのことはしないと無理か。
土属性に切り替えるか……?人相手に撃ったことないから加減が難しいが、まぁ足とか狙えば死にはしないだろう。足を使えなくさせれば、逃げられることもないだろうし。
水責めで済めばよかったけど、無理なら仕方がない。
「“土球”」
スネにヒットしたけど痛がってるだけで平気そうだな。なら足以外にも当てて問題ないか。一応頭は避けてあげよう。
主に足とお腹を狙って土球を連発すれば、4人ともその場で蹲って動かなくなった。微かに呻き声をあげているので死んではいない。
攻撃を終えるとアツシたちが近づいて来て、話しかけて来た。
「すっご。そりゃソロで潜れるか」
「風魔法スキルがメインだって言ってなかったっけ」
「威力的に人相手に風魔法使うのはちょっと……水と土なら死にはしないかなと思ったので」
「つまりモンスター相手だともっと強いってことじゃん」
「もしかして火属性も使える?」
「基本的な魔法スキルは全部書で使えるようにしてる」
ってことにしておこう。他にも使える属性あるけど別に言わなくていいや。
そういえば、まだ魔力には余裕あるけど、あれだけ魔法スキル連発しておいて魔力回復しないのは人類としてちょっと変だよな。魔力用の回復薬も飲んでおこう。
アツシたちは俺が魔法を撃ちまくっている間にすでに負わされた傷は回復させているようだった。
あとは……
「こいつらどうする?俺詳しく事情知らないまま倒しちゃったけど」
「俺がついた時にはリュウキとけんちゃんを襲ってたんだ」
「ボタン押し終わって戻ろうとしたら絡まれたんだよ。けんちゃんに撃たれたってな。否定して治療費拒否ったら襲われた」
「改めて聞くけどもちろんそんな事してねぇよな?」
「当たり前じゃん。そもそも行きは遭遇しなかったし、誤射の余地すらねぇよ。な?」
けんちゃんが頷いている。
まぁだろうな。途中から俺も見てたし。
にしてもこいつら初めてにしてはだいぶ手慣れてたし他でも確実にやってるだろ。
ただ、こんな荒くれ者の探索者がいたら流石に探索者の間で話題になる。俺の耳にも入ってくる筈だ。なのにそれがなかったってことは、他のダンジョンでやってたのか……治療費を大人しく払っても目撃者は全員殺してたか。
そうなると死体の処理の問題が出てくるよな。浅い階層で死人が出たらやっぱり話題になるだろうし。
……復活して反撃させる前にまずは拘束しないとか。
「拘束できる物持ってたりする?」
「いや……ダンジョンで紐とか必要ないし」
「襲われるとは思わないじゃん?用意してるはずないよね」
「俺もだ。だからと言って、このままにするわけにはいかないよな」
拘束できる物か。
人の目があるからアイテムは出せない。
要は縛れればなんでもいいよな。
スニーカーの紐でいけるか?
倒した奴らの足元を見ると、みんなスニーカーを履いていた。
自分の使いたく無いしこいつらの靴紐でこいつらを縛ろう。ダンジョン内で身体能力が上がってるとは言え、流石に引き千切れないだろ。あとスキル唱えられたく無いから靴下口に詰めよ。
多少凸凹してるけど、小石が転がってる訳では無いし裸足で歩かせても平気だろう。
アツシたちに協力してもらって全員を拘束する。
縛ってる際、1人が腰につけてたバッグが目に入った。
どこにでもありそうなマジックバッグだが、一回り大きい気がする。……これ、初級じゃなくて中級のマジックバッグじゃないか?
中級のマジックバッグは現在、富良野ダンジョンでしかドロップしない。富良野ダンジョンは日本にあるダンジョンの中で行方不明者や死者が出やすいダンジョンだから、人がダンジョン内で消えたり死んだりしても、対して大事にならない。
そうか。こいつら元々富良野ダンジョンの探索者か。
通りで噂が全然無い訳だ。そのまま富良野ダンジョンに居ればよかったのに。なんでこっち来たんだろう。
この辺は俺が考えることじゃ無いか。
さて、こいつら拘束し終わったけどどうしようかな。ダンジョンの外まで歩かせる為に足は拘束しなかったけど、足を狙って攻撃したからか、全員立つことすらままならないようだ。
引き摺っていくしかないか?
でもそれしたら側から見たら俺らが加害者側になるよな。
……あ、いや。扉の前に待機してくれているパーティが、初心者パーティを残してこっちに来ているのが見えた。このまま助けを求めるか。説明すれば事情をわかってくれるだろう。
俺はアツシたちに捕まえた奴らの監視を頼んで、道を戻った。さっさと合流する為なので、今回は魔法陣のショートカットは無しである。
走っていると、スタート地点から半分くらいのところで遭遇できた。
「あれ」
「ひとりか?」
「あ、来てくれたんですね。ちょっとややこしい事になりそうで、ちょうど呼びに行こうと思ってたところでした」
「なら、俺らこっちに来てよかったね」
「いったい何があったんだ?」
「説明しながら進みます。とりあえず着いてきてくれると助かるんですけど」
そう言ってまた現場に向かう。
道中、簡単に何があったかを説明し、捕まえた奴らをどうすればいいのか困っていると相談した。
経験豊富そうな探索者パーティだと思ってたけど、流石に襲われた場合の対処はしたことがないそうだ。
一応ライセンス取る時の授業でダンジョン内でもし襲われるようなことがあったら逃げて通報しろと教わったけど、今回は捕まえちゃったしな。
とりあえずこのままじゃダメなことは確かなので、みんなで拘束した奴らをダンジョンの外まで無理矢理歩かせた。
人が待機していた5階層、練習場があり人が集まっている1階層ではそれはもう注目を浴びた。
切実に目立ちたくなかった俺はガタイのあるやつの陰に隠れようとした。意味があったかはわからないけど。
ダンジョンの外に出て警察に通報したら、パトカー3台が5分ほどで来た。
初手で3台は多くないか?探索者がらみだからだろうか。
詳しい事情がわからないからとここまで連れてくるのに協力してもらったパーティ含め、全員もれなく事情聴取を受けることになった。最寄りの警察署に連れて行かれ、個別で刑事2人相手に事情を伝える。
俺はカメラがあったので、『あくまでも喧嘩を止める為に仲裁したが、どうやら喧嘩どころじゃなさそうなので殺傷能力の低い水魔法で対応しようとしたが、反撃の意思が消えなかったため仕方なく土魔法で機動力を奪う方向に変えた』と写っていた通りに話した。
威力の低い魔法とはいえ、状況もわからないのに攻撃した点と、相手を無力化するためとは言え少しやりすぎな点について苦言を呈されたが、今の所俺ら側は正当防衛から来る攻撃で、問題があったとは考えていないそうだ。
初級のスキルしか使わなくてよかったな。あと最初は威力の低い水属性で頑張ろうとしたということも考慮してくれていそうだ。
カメラは証拠品として渡して、警察署を出る頃にはすっかり日が暮れていた。
最近の探索者の様子を間近で見ようって事でダンジョンに行ったのにな。
いや本当にどうしてこうなったんだろう。




