113話 トラブル発生
女探索者をパーティに入れたいという話題から、気づけば探索者あるあるで話が盛り上がった。
宝箱を開けて武器が出たらガッカリするとか、6階層で他のパーティと別れた後、9階層で再会すると若干気まずいとかだ。
それで話は盛り上がったんだけど……
「なぁ、あいつら遅くね?」
どうやらリーダーと同じことを思っていたらしい。
2人が戻って来て、ずいぶんと話し込んだ気がするが、まだ戻って来ない。
いくら左の道は多少迷路が複雑で距離があるとは言え、最短ルートなんてわかってるだろうし、こんなに時間がかかるもんなのだろうか。
「俺もちょうど遅いなって思ってたところだった。いつもは?」
「帰ってくるタイミングはいつも数分差とかなんだよな。待機が蒼斗くんだから余分に踏んでるのか?」
「にしても遅くねぇか。俺らだっていつもより長めに踏んでただろ」
6、7階層を効率よく最速で下って来たからか、今のところ他のパーティには遭遇していない。ここに来た時も誰も居なかったし、8階層でモンスターを狩るには効率が悪すぎるから、この階層には俺らのパーティしか居ないと思うんだよな。
だから他のパーティとの揉め事じゃなくて、うっかりモンスターから攻撃を受けて怪我でもしたのだろうか。
「俺は扉開け続けていてもいいけど……どうする?」
「わりぃけど、頼んでいいか?ちょっと様子見てくるわ」
そして2人は左の道へ進んで行った。
念の為小声でAIに話しかけて、俺の周囲に人が居ないのを確認してから堂々とダンジョンの管理画面を開いた。
ダンジョン内の様子を見る画面に切り替えて、映す対象をさっきまで俺と一緒にいたクロスボウ使いと指定する。
すると、けんちゃんとリュウキの2人と男3人が対面している場面が映る。少なくとも仲良さそうな雰囲気は感じではない。
さっきこの階層にはこのパーティしか居ないって予想したけど全然ハズレてたな。
「今8階層にいる人類って何人?」
『回答。8人です』
「了解。7階層から人類が来そうになったら通知して」
『承知しました』
「で、今8階層にいる8人全員が画面に映るようにして欲しいんだけど」
『承知しました』
見ていた画面が8分割された。
視点が被っている画面は消して、リーダー組2人と、けんちゃん達5人、残り1人が映るようにした。
「真ん中の画面と右の画面がこの階層のどこかマップみたいに表示できる?」
『回答。可能です』
「じゃあやって」
『承知しました』
確認すると、5人は道が分岐するところにいて、1人はその近くの行き止まりの少々奥まっているところに潜んでいるようだった。こんなに近いところに隠れてるなら無関係な人物ではないだろう。
俺のダンジョンでいったい何をしようとしてるんだろうね。
管理画面でどんな場所でも見れるけど、音声はないから詳しい事情がわからない。
画面上で行く末を見届けて、4人が生きて帰って来たら事情を聞くのも悪くないと思うけど、できれば何が起こってるのかは詳しく知りたい。
『通知。人類が新たに8階層に侵入しようとしています』
タイミングいいな。
この扉を開け続ける役割を変わって貰えないか交渉してみよう。
そして新たに8階層に来た人類は、5階層で一緒に待機していたうちの2組だった。
片方は慣れてる組で、片方は初心者っぽい組だ。
「あ、開いてる……?」
「タイミングが被ればそういう時もある」
「そうなんですね。こういう時って普通に通っちゃっていいんでしょうか?」
「問題ない。挨拶くらいはした方がいいと思うがな」
「なるほど」
5階層の時はお互いに距離感があったのに、途中で仲良くなったんだろうか。このダンジョンについて教えているようだ。
初心者に教えるくらいの余裕があるなら、多少ここで待ってくれるだろう。
「すみません、ちょっといいですか?」
同行させてもらっていたパーティの半分がなかなか帰ってこなかったから心配でもう半分が様子を見に行き、自分も様子を見に行きたいからしばらくここで扉を開け続けてほしいとお願いすると、快く了承してくれた。
自分達のパーティメンバーの2人の同行も進めてくれたが、それは都合が悪いので断って、1人で左側の道に入った。
少し進み、角を曲がったところで改めて人の目がないのを確認して唱える。
「“隠遁者”」
これで堂々と動ける。
まぁさっきまで人前で姿を現してたから、タイミングを見てスキル解除しないといけないんだけどな。
あ、そうだ。一応扉付近の画面もつけておこう。
で、走って行ってもいいがそれだと2人が現場に到着する前に辿り着けないので、人が来ない行き止まりに魔法陣置いてさくっと近づこう。
もちろん使用した魔法陣はすぐに消す。
音を聞かれる可能性があるので、なるべく音を立てずに進んでいると、だんだんと声が聞こえて来た。
「だから、それは俺らの矢じゃないって!」
「お前ら以外に誰もいないんだからその後ろの男が撃ったんだろ!状況的にそれしかあり得ないって言ってんの」
「撃たれましたって出るとこ出てもいいんだぜ。そしたらお前らもうダンジョンに潜れなくなるけどな!」
「急に難癖つけて来て本当にそれが通ると思ってんのか?人が居れば気づくし、モンスターの近くに居たら倒す前に声をかけるっての」
「じゃああえて俺らに撃ったんじゃねーの?」
「だからやってねぇって。いい加減戻んないとリーダーが心配するから、もういい?」
「言い訳ねーだろ。戻るなら装備代と回復薬代だせよ」
しばらく会話を聞いてみると、男3人が2人に矢を撃たれたから諸々の費用を払えと迫っているみたいだ。
確かに3人のうちの1人の装備の肩あたりに穴が空いているし、手に持っている矢の先端は血らしきものがついている。パッと見は誰かから撃たれたように見えるな。
対してリュウキとけんちゃん側……対応しているのはリュウキのみだが、言われたことに対してやってない、とキッパリ否定していた。
短い間だが一緒に行動して、けんちゃんが誤射をするとは思えないし、したとしても気づけない訳が無いと思う。わざと撃つなんてこともしないだろう。シンプルに理由がない。
「絶対にやってないって言い張るんだな?」
「当たり前だろ」
「装備代と回復薬代も払うつもりないって?」
「そりゃそうだろ。やってないんだから」
「ここまで言っても払う気にならないなら仕方ねーな」
「大人しく金出しとけばよかったのにな」
「あぁ、残念だ」
男の1人が腰のバッグから何やら丸いものを取り出して、思い切り地面に叩きつけた。
その瞬間、視界が光に包まれる。
叩きつけられたのは閃光弾みたいなのだったのだろう。普通に油断しててモロ食らってしまった。
光が収まっても目がチカチカしてよく見えない。
焦ったような声と、剣がぶつかる音が聞こえる。
数秒経ち、視界が戻ってきた。
「くそが」
「しぶといな」
けんちゃんの方は腕を斬られ、リュウキの方は所々に傷があり、足にはナイフを刺されている。
さっきまでならギリ揉め事で収まらなくもないかなという範囲だったけど、ここまで来ると完全に犯罪行為だ。
俺のダンジョンで問題を起こさないで欲しい。
でも今の俺は隠れてる立場だから止めに行くことはできないんだよな。
男達はすぐにまた襲い掛かろうとしといる。
それを止める声が聞こえた。
「リュウ!ケン!」
「お前ら何してんだ!」
ようやくアツシとヒロが来たようだ。
走って来たであろう2人はこの状況を把握すると走るスピードをあげてけんちゃん達と合流した。
「チッ、時間かけすぎたか」
「こいつらが襲ってきたからやり返しただけだ」
「ふざけんな!こいつらがそんなことする訳ねぇだろ!」
「ま、仲間ならそう言うだろうな」
「こいつら閃光弾持ってるから気をつけろ」
「足大丈夫か?」
「俺はいいからけんちゃんの腕治すの優先で」
「治す暇与える訳ねーじゃん!」
「4対3だぞ。状況わかってんのか」
「怪我人抱えて何言ってんの?」
「それに誰がここにいるので全員って言ったよ」
満を持してと言うべきか、行き止まりで隠れていた男がニヤニヤとしながらやってきた。やはりこいつらの仲間だったらしい。
奇襲しないあたり馬鹿だと思う。じっくりといたぶりたいのだろうか。
なんにせよこれでアツシ達は囲まれたことになる。正直怪我人2人いる時点でだいぶ分が悪い。
襲いかかってきた4人をアツシとヒロがなんとか凌いでいる。力量的には2人の方が上っぽい。
けど、攻撃を防ぐので精一杯というのもあるだろうが、2人は人間相手に武器を向けるのを躊躇しているようだった。
このままだといずれ押し切られるだろうな。
仕方がないのでホーンラビットを近くの道に配置して、この現場に向かわせる。強くないモンスターだけど、少なくとも人類同士で争ってる場合じゃなくなるから、多少の時間は稼げるだろう。
その間に、俺はこいつらが見えなくなる位置まで戻って、隠遁者のスキルと解いた。ついでにダンジョン産カメラを出して電源をつけておく。
管理画面で状況を確認すると、ちょうどホーンラビットが現れているところだった。
その存在にすぐに気づき、男達の1人が退治に向かった。
もっと数がいたら良かったんだろうけど、この階層でそれやったら違和感でしかないからなぁ。まぁ1人釣れただけでもいいか。
さて、そろそろ姿を表しても良い頃だよな?
走りながら角を曲がり、そのまままっすぐ進む。射程圏内に入ったところでスキル名を唱えた。
「“水球”“水球”“水球”“水球”」
水属性を選んだのは4つの属性の中で1番殺傷能力が低いからだ。
2人は顔面に、1人は肩に当たって、もう1人は外した。
コントロール力はまだまだだな。
そのまま近くまで行き、何も知らないふりをして言う。
「これ、攻撃して大丈夫だったか?」
「大丈夫。ナイス蒼斗くん」
どの怪我も初級回復薬で治る程度ではあるけど、庇われていたけんちゃん以外の3人はだいぶボロボロだ。
「ふざけんな!急になにすんだよ!」
水を顔面に当てられて止まっていた男が急に叫んで来た。
そっちから走ってくる俺の姿は見えただろうし、全然急じゃなかったと思うのだが。
「すみません。頭を冷やしてあげようかと。なんで剣を向け合っていたのか知らないけど、探索者同士の争いは御法度なので」
「そんなん知らねーよ。人に魔法スキルぶつけて良いと思ってんの?」
「そうだよ。お前もこいつらの仲間なわけ?」
「説明がめんどいんで仲間ってことでいい。それで、なんで襲ってた訳?」
「最初に襲われたのはこっちだっての」
「そーそー。俺らはやり返しただけ」
「ま、どうせ信じないだろうけど、なっ!」
男がそう言って急にナイフを投げて来た。
それをほぼ反射で避ける。
「急になにするんだ、はこっちのセリフになったな」
「避けるなよ。あー、めんどくせ」
「やっぱり時間かけすぎたなぁ」
「とりあえずあのカメラ邪魔だから壊そう」
「了解」
標的が一気に俺になった。
接近戦は得意じゃないから魔法スキルでさっさと倒すか。




