108話 呪文
世間がこの間発表された探索者ギルドの件で盛り上がってる中、俺はひたすら魔力操作の修行をしていた。
大変疲れた。
何が疲れたかって、魔力操作などではなく、その先。体外に出した魔力でもある程度操られるようになったから、なら魔法もそろそろ使えるんじゃねって思ってAIに魔法の取得方法を聞いたのだ。その時、うっかり“魔力も魔法もよくわかっていない子供相手をするみたいに”という前提を質問に入れ忘れたせいで、難しい言葉で注釈なく説明されたから全く理解できなかった。
ログを見直せばなんとなく、雰囲気でわかるような気がしたけど、そんななんとなくで使えるモノではない事くらいは魔力操作でわかってる。
だから、もう一度子供相手をするみたいにという前提を入れて同じ事を聞いた。
けれど情報量が多い事には変わりなく、それを理解するのが疲れたのだ。
話をまとめると、魔力に情報を与えて魔法を形作るらしい。
必要な情報は最低4つで、火なのか水なのかなどを決める“属性”、大きさはどうするのかという“質量”、形を決める“形状”、そしてどこに出現させるかという“座標”だ。
これがないと形にすらならず、魔力が拡散してしまい魔法にならないらしい。
しかも、この4つだけだとその場所に留まるだけ。攻撃として使うならどの方向に飛ばすかという“指向”とどれくらいの勢いで飛ばすかという“推力”の情報も与えないといけない。
さらに火の玉が何かに当たったら爆発させる、水に流れを作るといった“変化”、何秒後に発動と言った“時間”など、魔力に与えられる情報は様々で、情報量が増えれば増えるほど必要な魔力量は増える。
もし仮に情報量に対し、魔力のキャパシティが足りないと魔力が拡散してしまい、必要な情報4つが揃っていたとしても魔法の形にならないらしい。
肝心の魔力に情報を込める方法なのだが、己のイメージを頑張って反映させるだけ。要するに魔力操作の時と一緒だ。
言うだけなら簡単だけど、ただ動かすだけだった魔力操作と違って相当難しい。
流れとしてはまず魔法に変化させる魔力を準備する。その次に情報を込め、最後に発動させる、となっている。
どれくらい魔力を用意するかって言うのも難しいし、用意してから5秒くらいで魔力が拡散するので時間内に収めるのが難しい。
情報を込めるのだってただ思い浮かべればいい訳じゃない。
例えば10cmくらいの火の玉を手のひらの上に出したい場合、まず火という属性情報を込め、その次に10cmという質量情報を、と言った感じで1つの情報に対していちいち1回づつ込めていかないといけないのだ。
もちろん込める情報が曖昧なのもダメで、さっきの例でいくと、“手のひらの上に”という情報を込めても誰の手のひらの上なのか、右手なのか左手なのかという情報が不足しているから形にならない。
自分の右手の手のひらの上に、だとおそらく大丈夫だけれど、出したのが火の玉だったら確実に火傷するだろう。だから自分にはダメージがいかないよう情報を込めるか、火傷しない位置に座標指定しないといけない。
こんな細かい事を5秒以内に考えて情報を込めていくのは流石に今の所無理だ。
言葉で条件を発声するとイメージした情報が魔力に込めやすくなるらしいけれど、やっぱり5秒以内には言い切れないだろう。
そこで用意するのが呪文だ。
呪文とは料理名みたいなものだ。
例えば肉じゃがと言われたら、肉じゃがをイメージできる。そこに何が入っているかなんて考えなくても、イメージ上でジャガイモと肉、にんじんくらいは最低限想像した中に入っているだろう。よく肉じゃがを食べる人なら玉ねぎや白滝といった他の具材や、砂糖やみりんといった調味料もパッとすぐに出てくるかもしれない。
それと同じように火球と呪文を作り、そこに属性は火で、大きさは10cmで形は丸で、自分から30cm離れたところに出現し、見ている方向に飛ぶという情報をまとめる。
火球と言ったら今の情報が思い浮かべられるようにできたら呪文として成立して、魔力に込める情報は“火球”一回で済むし、5秒以内に余裕で込められれようになるというわけだ。
スキル名を唱えただけで問題なくスキルが発動するのも、この呪文と原理は一緒なんだろう。
魔法の説明を聞いてしまうと、スキル名にどんな情報が入っているのかとか、魔力に情報を込めるという作業とかを誰かが代わりに管理してそうだなって思う。
最初はAIかと思ったけど、人類にAIはついていないし、ステータスそのものが怪しいかなぁ……
奈那さんがスキルの発動位置を若干動かせるのは、思い込みで情報の上書きができてるからじゃないだろうか。
魔力操作も魔法の発動も、才能がある人なら1日でできるようになるって言ってたし、原理を知らなくても情報を込めると言う作業ができる人が居てもおかしくない。
今までに聞いた魔力と魔法の情報を奈那さんに話せば、あっさりと魔法を習得してしまいそうだ。
人類でも修行すれば魔法を使えるようになるのかは知りたいところだけど、奈那さんは魔法をバンバン使いそうだから教えられない。魔法の存在をオープンにされるのは困る。
どこかに魔法の才能がありそうで、口が固くて、使えるようになってもあんまり魔法を使わないでいてくれる人居ないかな。今の所思いつかない。
そういえば、魔力・魔法関連は詳しく教えてくれるAIに対しても疑問が残る。こんなにオープンだとむしろ魔法を覚えてほしいみたいだ。
ここら辺も奈那さんの意見聞いてみたいんだけど、そしたら何が聞けたかも話す必要が出てくるからこれも話せないんだよな。
うーん……やっぱりしばらくは1人でやるしか無さそう。
だいぶ話が逸れた。
魔法を使えるようにするには、呪文を作るのが手っ取り早い。ただ、例えば火球というワードは初級火魔法スキルの一つなのだ。
人類はスキルをダンジョン内でしか使えないけど、ダンジョンマスターは地上でも使えるので、火球と唱えたら普通にスキルが発動する。
つまり、火球という単語は呪文にできない。
火球の他にも、わかりやすい名前はだいたいスキル名に使われてる。スキルを取ってなかったらスキル名を唱えても発動しないけど、俺は基礎的な魔法スキルをほとんど取っちゃってるからなぁ……
どういう呪文にしようか。
火球は火事になりそうだからとりあえずスキル名で言う水球を目指してるけど、わかりやすい名前がなかなか思いつかない。
ちなみにウォーターボールって言ったら水球スキルが発動した。英語圏での水球の名前と一致したからだろう。全然発音良くなかったはずなのに。
住む場所や言語が違ってもスキルの中身は変わらないっぽい。
だから、スキル名の言語を変えただけだと呪文にできない。スキルが発動しちゃうから。
あーでも、完全一致じゃなきゃいいのか?
例えば……
「水ボール」
思いつきで言ってみたけどスキルは発動しなかった。
なるほど。二つの言語を混ぜればいいんだな?
なら、水ボールを呪文として、魔法を発動できるように頑張ってみよう。




