104話 探索者のための組織
「簡単に説明しましょう。まず初めに対策局の評判を落とします。そして、派閥争いに大きく関わっている政治家5人を逮捕させ、その次に対策局の代わりになる組織を設立。仕事を徐々に奪っていき、最終的に対策局を解体させる、という流れを想定しています」
簡単な流れを聞いただけでも色々気になることがあるんだが。
「政治家から5人も逮捕者を出すって、そんなことできるんですか」
「今の世の中では、どんな違法行為をしていても、殺人でもしていなきゃ逮捕させるのは難しいでしょうね。ただ、こちらにはこちらの手段があります。逮捕させるのは全てこちらでやりますので気にされなくても大丈夫です」
遠回しに方法は聞くなって言ってる?
政治の闇に深入りしたいわけじゃないから詳しくは聞かないでおこう。
「じゃあ対策局の代わりになる組織を設立って?新しく組織を作るんじゃ、また派閥争いが起きる可能性があると思うんですけど。だとしたら対策局を解体する意味あります?今の組織をなんとかした方がマシじゃないですか」
「えぇ。その可能性については否定できません。新しい組織の方がもっとぐちゃぐちゃになるかもしれない。ただ、新しく作る予定の組織は特殊建造物対策局とは別の目的をもった組織にする予定です。そうですね……ファンタジー物におけるギルドってわかります?」
「冒険者ギルドとかそういやつですか?」
昔はそういうものは読まなかったが、ダンジョンを作るにあたって、何かの参考になるかと思ってファンタジー物と呼ばれる作品の中で、ダンジョンが登場する作品をいくつかを見た。異世界でダンジョンを運営したりとか、現代でダンジョンを攻略したりとかそういうのだ。
冒険者ギルドだったり、商人ギルドだったり、魔法ギルドだったりと、どの作品も“ギルド”が当たり前のように出てきていた。ファンタジー物における定番の存在なのだろう。
「えぇ、そうです。作品によって多少の誤差はありますが、主に依頼の仲介、素材の買取り、魔物やギルドに所属している人の等級設定などを行う存在です。私はいわゆる探索者ギルドを作りたいと思っています」
「ほう。それはなかなか面白そうだな」
ダンジョン以外のことに奈那さんが食いつくとは珍しい。
確かに特殊建造物対策局なんていう、探索者ライセンスと特殊素材取扱ライセンスの発行の時しか役に立っていない組織よりはよっぽどマシそうに思える。
探索者に向けて仕事を出す人もいくらでもいそう。
魔核が欲しい企業はいっぱいあるし。
創作物でよくあるギルドが現実にできたら、喜ぶ人が多いだろう。
「現実的にやるとなったら、誰が運営していくかとか運営方針とかでまた揉めそうですけどね」
「ライセンス発行業務を対策局から受け継ぐつもりですので、運営するのはやはり国になるかと思います。しかし作るのはあくまでも探索者のための組織です。
魔核の買取価格を安定化させ、現在ではグレーゾーンになっている武器の貸し出しを行い、ダンジョンで取得した素材やアイテムの鑑定をし、ライセンス取得の際は地上だけではなくダンジョン内でも講習を実施。もし探索者が怪我で引退した時はサポートを行う。そんな組織にしたいです。
最初から全て揃った状態の運営は大変難しいでしょう。しかし具体的な目標を設定する事である程度職員の意識を統一化させることができると思います。それに、争いの元凶だった政治家達は逮捕させますから、ダンジョンを利用したい人たちも、対策局の時より大人しくなるでしょう」
「講習はどんなものを予定しているんだ?」
「え?そうですね。スキルの使い方を教えて実際にやってもらったり、職員のサポートがある中でモンスターを倒させたり、ですかね。以前から講習には実践的な要素が少ないと指摘されておりましたので、それを補えたらと思っています」
「外部講師を雇う予定はあるだろうか」
「いずれは雇えるようになればと思いますが、まずは運営を安定させる事が最優先ですからしばらくは難しいでしょう。そもそも探索者ギルドが設立できないと意味のない話なんですけどね」
「それもそうだな。外部講師を雇う時が来たらぜひ私を呼んでくれ」
「貴女が探索者の育成に興味を持っているとは知りませんでした」
「良質な探索者が増えたらそれだけ攻略が進んで、新たな事実がわかる可能性が増えるだろう?それに、私の知らないスキルが見れるかもしれないんだ」
「あぁ、なるほど」
要は自分の知的好奇心を満たすためか。いつも通りの奈那さんで安心した。
「それでですね、物語で出てくるギルドのように、モンスターと探索者にランク付けも行いたいと思っています。
探索者はどれくらい依頼をこなしたかでランクをつけるつもりですが、モンスターのランクはシンプルに強さで決めたいと思っているのですが、それを手伝っていただく事は可能でしょうか?」
「俺に手伝って欲しいことってそれですか?」
「あ、いえ。モンスターのランク付けの他に手伝っていただきたい事は別にあります」
まぁそうだよな。
モンスターの強さは必要ポイントが大きいほど強くなっている。あとは魔法を使う系のモンスターも高めに設定されてるかな。
実際に戦わないと強さを測れない人類と違って、これがわかるダンジョンマスターにとってモンスターのランク付けは簡単すぎる。
密入国の交換条件が量が多いだけの簡単作業なわけないか。
とはいえ面倒な作業なことには変わりない。
「メインがこれじゃないならモンスターのランク付け作業はお断りしておきます。どうしてもと言うなら考えますが、俺以外のダンジョンマスターでもできる作業ですよね?池袋のダンジョンマスターなら報酬を出せばたぶんやってくれますよ」
お金すごく欲しそうだったし。
あー、でもどうだろう。
最近あそこはモンスターとの触れ合いコーナーを1階層に新設していた。モンスターを攻撃しないように設定した上で、可愛い系のモンスターを配置しただけの部屋の前にボックスを置き、入場料500円をとってる。
新設されてすぐに話題になり、今は女性探索者はもちろん男性探索者からも人気だ。
人が集まりすぎてその対応に忙しいから政府からの面倒な依頼は断るかもしれない。
「なるほど……わかりました。検討します」
……どうせ1度でも動画を投稿したダンジョンマスターの素性は掴んでるだろうから、断られたら他の奴に頼むか。
「じゃあ、本題の俺に手伝って欲しいことってなんですか?」
「率直に言いますと、特殊建造物対策局を解体する第一段階。評判を落とす工程を手伝っていただきたいです」
「というと?」
「方法はなんでも構いません。動画でダンジョンマスターを名乗り出るきっかけをお話しするでもいいですし、配信でシンプルに嫌悪感を示すでもいいです。とにかく対策局のイメージを悪くし、世間から対策局は解体すべきという声が上がるように仕向けて欲しいのです」
別にあの時のこと話すのも国の人間も好きじゃないから嫌いって言うのもいいけど、そこからみんなが解体を望むようにするというのは流石に無理があるのでは?
「……難易度高いですね」
「そんなに難しく考える必要はありません。他にも何人か声をかけていますので。明後日にはうちの職員が大手暴露系配信者の所で対策局の実情を話す予定となっておりますし、著名インフルエンサーにもお願いしています」
本当にただ話すだけどいいなら逆に簡単すぎないか?
「他にも何人かいるなら俺要らなくないですか?」
「そうでもない。印象操作は多数人でやるから意味がある。有名人の声や多数派に流される人間の方が多いからな。商品のステマと同じだ」
「なるほど」
奈那さんがそう言うならそういうもんなんだろう。
さてどうするか。
内容的に手伝うのは全然良いけど……
「配信上で特殊建造物対策局を悪く言うのは全然構いません。けど、それだけで本当にイギリスから人を密入国させてくれるんですか?」
「えぇ。ただ、口止め料も含まれています。この会話を公開するとしたら、全てが終わるまで待って欲しいです。我々が自分達の組織を解体させようと上の人間にはバレたら計画は頓挫してしまいますから。また、該当の人物を密入国させるのも全てが終わった後になります。少しでも弱点を作りたくありませんので」
つまり失敗した時は密入国させてくれなくなるってわけか。
そして仮に失敗しても、俺が国の人間を嫌ってるのはわかりきったことだから、印象操作を手伝ったことがバレても傷は浅いかな。たぶん。
ただ、何回も似たような内容を話すのは性に合わない。
「一度だけ配信で話すだけでもいいんだったら手伝いましょう」
「本当ですか!?」
「こんなところで嘘は言いませんよ。今までの会話も特に公開はしません」
「ありがとうございます。まさか受けてくれるとは思いませんでした。若島様はダンジョンマスターの中でもファンが多い方ですので本当に助かります」
そこまで感謝される内容でもないんだけど、まぁ威圧的に来られるより全然良いか。
「キミが国の人間の手伝いを承諾するとは思わなかったぞ」
「紹介して来た人が何言ってるんですか。ただ俺も探索者ギルドに興味を持っただけですよ。探索者は増えた方が俺的にも助かりますから」
探索者が増えれば、探索にガチな人も出て来て、長時間ダンジョンに潜る人も増えてくるだろう。
30階層あたりに宿泊施設を作ることを目論んでる身としては、そういう人がいっぱい増えると嬉しい。
それに、ライセンスを取る際の講習がダンジョン内で行われるようになるなら、俺のダンジョンでもやるだろう。そしたら攻略目当てじゃない人がたくさん訪れるようになる。
ポイント得るにはダンジョンに人が来てもらうしかないので、探索者はぜひ増えてもらいたい。
「ふふ、なるほどな」
「お二人が探索者ギルドに興味を持ってくださるとはなんだか心強いですね」
「むしろ特殊建造物対策局には良いイメージが全くないのでそうなるのは必然かと」
「我々の組織が度々ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「別に貴女から謝罪をされても」
最初に接触をして来た奴らの片方はもう死んでるし。
ドラゴン討伐の後に接触して来た奴らの片方はずいぶんと腰の低い態度だった。
となると後は両方のタイミングでいた男だけだな?
対策局なくなるならあいつもクビとかになってくれないかな。特に恨みはないんだけど、なんとなく。
「まぁ、とにかく配信を一度だけ行います。タイミングはたぶんその暴露系配信者が取り上げた後になると思います」
「えぇ、それで構いません」
「他に何か話したいこととかってありますか?」
「いえ。全て話したい事は話せました。今日はお時間をいただきありがとうございます。この場を設けてくださった弥竹様にも感謝を」
「なかなか興味深い話を聞けたからな。問題ない」
よくよく考えたら、奈那さんと寧音は蓮見のことで国相手にどうこうしようとしているんだから、今回の話って相当都合がいいんじゃ……?
口止めも奈那さん相手にはしてないよな?奈那も口外しないって一言も言ってないし。
このこと向こうは気づいてるんだろうか。
……奈那さんが今の話をどう扱おうが俺には関係ないから気にしないでおこう。少なくとも密入国の邪魔になることはしないだろう。
「では、今日はもう解散ということで。奈那さん、出口まで見送りお願いします」
「あぁ、わかった」
「改めて本日はありがとうございました」
外に誰もいないことを確認してから2人を見送る。




