105話 暴露配信
数分後、奈那さんだけが戻って来た。
「あの人のお迎えと見送りありがとうございました」
「来る時はついでだし、見送りもすぐの距離だからな。気にしなくていい」
「それで、メッセージで言っていたやつなんですけど」
「それを待っていた」
「はい、魔核を砕いたやつです。こっちがゴブリンの魔核のみを使っていて、もう片方はいろんなモンスターの魔核がごちゃ混ぜになっています」
そう言って、奈那さんに魔法陣の為に作った魔核を砕いたやつを渡した。
奈那さんはそれを興味深そうに見ている。
「その目で見て何か違いあります?」
「いや。どちらも魔核砂という名前の物体のようだ。説明は魔核を細かく砕いて砂状にしたもの。錬成魔術などの材料に使われる、だな。それ以上の情報は出てこなさそうだ」
「錬成魔術?」
「私も初めて聞く単語だ。これでも世の中で使われているスキルは大体把握していると思っていたのだがな。なかなかワクワクするワードじゃないか」
錬成魔術なんてスキル、俺も見たことも聞いたこともない。
ダンジョンショップでは入手できない向こうの技術なのだろうか。
にしては何も隠されてなかったけど。
「どういうものか想像つきませんね。錬金術の魔法が絡まったバージョンでしょうか」
「どうだろうな。魔法陣を作るような事を錬成魔術と呼ぶのかもしれないし、ダンジョンでドロップするような不思議なアイテムを作る事を錬成魔術と呼ぶのかもしれない」
少なくとも魔法陣は関わってこないかな。魔核は魔法陣作成に必要な材料、魔粉じゃないってAIに言われたから。
ただ、ここら辺のことはまだ奈那さんは話していない。
魔力とか魔法とか話すのにはまだ早すぎる気がして。下手したら俺より先に魔力を扱い出しそうだし。それはなんか困る。
だから魔法陣を作ろうとして失敗したが原因は全くわからないとだけ伝えてある。
「いろいろ試してみないことにはわかりませんね。何か使用用途がわかったら教えてください」
「あぁ。もちろんだ」
奈那さんがあの人を出口まで送った後に戻ってきたのはこの砕いた魔核を渡すためだ。
ということで、今日の用事は全て終わった。
思いの外時間がかかったな。
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あれから2日後。本当に大手暴露系配信者の所で匿名の対策局職員が派閥争いでまともに仕事を行えていないということと、ドラゴンの時に自衛隊の派遣が遅かったのは派閥争いの所為だと暴露していた。
いつもは芸能人やインフルエンサーの暴露を扱っているからか、政治系の暴露の反応はそこそこで、その日は配信を見た人にのみ対策局の悪評が伝わった。
ただ、数日経てばその配信の切り抜きがSNSで広まり、じわじわと対策局について取り上げる人が増え始めた。
事前に話を聞いていると取り扱った人たちはもはや全員仕込みに見えてくるな。中にはちゃんと自分の意思でやってる人もいるんだろうけど。
仕込みの人が誰かわからないけど、燃え上がり方からして少なくとも1人や2人の人数では無さそうだ。
俺も約束通り配信を取る。
金曜のいつもの時間だ。
挨拶をして、雑談に入ろうとしたところでさっそくちょうど良いコメントが来た。
しばらくはいつも通りの雑談して後で自然に話を切り替えるつもりだったが、これに乗っといた方が楽だな。
「対策局についてどう思うか?普通に嫌いです」
[嫌いか]
[即答で草]
[嫌いなんだ]
[ダンマスが好きと言うわけないか]
[おれもきらいだわ]
[コメ読んでから回答まで早かったな]
[質問主は最近炎上してる事について聞きたかったのでは?]
[なんで嫌いなん?]
[ハッキリ言うじゃん]
「冗談です。いえ、嫌いなのは本当ですけど。炎上についてですよね?ぶっちゃけざまぁとしか思えないです」
[くさ]
[相当嫌いじゃん]
[嫌いなのが冗談なのかと]
[だからなんでそんな嫌ってるん]
[やっぱ嫌いなんだ]
[対策局って結局なにしたんです?]
[詳細はなして]
「炎上のこと知らない人に話すと、暴露系配信者の言ノ葉コトハのところで先日対策局の職員が内部の情報を暴露しました。内容は派閥争いで仕事どころじゃないとか、派閥争いの所為でドラゴン出現時に自衛隊の派遣が遅れたとかですね」
[知ってる]
[酷い話だ]
[今時派閥争いってあるんだ]
[最近ずっとその話題流れてくる]
[自衛隊の派遣が遅れたのって相当致命的だよな]
[この話って結局ガチなん?]
[派閥争いってなんだろうね]
[人様の税金で適当な仕事しやがってって思うわ]
「で、なんで俺が対策局のこと嫌いなのかわからない人向けに話すと、シンプルに俺が表に出てくることになったのは、友人が対策局の人にちょっかいかけられたからです。詳しくは初投稿の動画見てください」
[そうなんだ]
[あれをちょっかいって]
[初配信から見てるから古参名乗っていい?]
[友人が追いかけ回されたんだっけ]
[ダンマスの存在隠して裏でどうこうしようとしてたやつね]
[あの時も派閥ってあったの?]
[今詳しく話せよ]
[そういえば最初の時以来あんま当時の話をしてくれないよな]
「今詳しく話したらそれだけで今日の配信終わるけどいいんですか?」
[いいよ!]
[詳しく聞きたい]
[別にいいよ]
[してして]
[最初から全部話してほしいな!]
[今日なんの話題にするつもりだったのかは気になる]
[対策局の話題をするなら今だよ]
[自分は別にどっちでも]
いくつか否定するコメもあったが、大多数が話を聞きたそうだった。
今振り返ると大した話じゃない気がするけど、印象悪くするためにものすごく悪く伝えよう。
対策局の人が来て、友人がダンマスなら保護すると上から目線で言われたことと、ダンマスじゃなかったら対抗派閥の人間に害されようと関係ないと言われたことを話す。しばらく付き纏われ、実際に友人が連れ去られそうになり、もし連れ去られていたら馬淵のように殺されていたかもしれないとも言えば、大多数が俺に同情的になった。
[うわぁ]
[友人って品谷のこと?]
[その時からすでに派閥ってあったんだ]
[録音ってまだ残ってる?]
[やっぱり対策局ってクソだな]
[馬淵ってだれ?]
[対策局って隠蔽体質だよな]
[ある意味対策局のおかげでダンマスの存在が公になったってことか]
「そもそも隠さなきゃよかったのではと思いますけどね。まぁ対策局からちょっかいかけられなかったら表に出てこなかったのは事実です。録音はまだあるんですけど……」
瑛士がダンジョンマスターではないってことにするために、普通に俺が嘘ついてるからあんまり流したくないんだよな。それに改めて聞くと恥ずかしいこと言ってた気がするし……さっきだいぶ内容を脚色して話しちゃったからな。
ただ、あると言えば聞きたがるのが普通である。コメントが録音流してほしいって内容で溢れた。
「じゃあ友人から助けを求める電話かかって来た後の会話を載せますね。たぶん派閥の話が出てた気がするので」
一旦配信をミュートにして、パソコンに保存してあった録音を飛ばし飛ばしで聞く。
……この辺だな。
「じゃ、流します」
『瑛士の家に黒服の2人組が来たようです。あんたたちの仲間ですか』
『いいえ、我々は証拠がない限りは本人と接触しないよう言われています』
『じゃあ瑛士のところの2人組はダンジョンを完全に消滅させたい派閥ってことですかね』
『おそらくそうでしょう。どうします?彼を保護してあげましょうか?』
『こっちでなんとかするので保護の話は大丈夫です。今日は帰ってください』
うーん。思ってたより短くなった。
けど、世間で今騒がれている派閥がどうのこうのって話は補強されるだろう。
派閥の話を聞いたのは最初の訪問だったから、本当はその時の会話の録音があればよかったんだけど、当時はそこまで気が回らなかった。今思うと大変惜しいことをした。
[みじか]
[もうちょっと前の部分も聞きたかった]
[あれ、初めて聞いた内容な気がする]
[これだけ?]
[当然のように派閥の話してるやん]
[してあげましょうかって言い方なんか嫌だな]
[そもそもダンマスを保護ってなんなんだよ]
[このことについても政府はずっと釈明ないままだよな]
[職員の暴露内容全部ガチな気がして来た]
[黒服が来るのも怖いし保護しようとして来るのも怖い]
「少なくとも対策局ができる前からダンジョンを利用したいのか、それとも消滅させたいのかで揉めていたのは事実だと思いますよ。対策局の職員に初めて会った時に聞いた話なので。特殊建造物対策局って名前の割にダンジョンに来るわけでもなく、なんの対策もしてないのは内部争いの所為なのかなぁと思います。それに……」
[それに?]
[ダンジョンの扱いは人類の永遠の課題]
[揉めるのはわかる気がする]
[いつまで揉めてんのって話]
[対策をしない対策局とは]
[噂ではダンジョンを攻略する部署があるって話だけど]
[初めにあった時の会話の録音ないの?]
[それに、なに?]
「これ言っていいのかわかんないのでやっぱり辞めときます。あと初めに会った時の録音は残念ながらとってなかったのでないです」
[気になるなぁ]
[言いかけたなら最後まで言えや]
[そりゃあるなら出してるよな]
[言ってよかったのかは話してから決めよ]
[いいから教えて!]
[言っちゃダメな話を持ってんの?]
[言って楽になろ]
[責任は俺らが取るから話してみて]
「えー……いや、少しでも匂わせた俺が悪いですね。あくまでもこの前対策局の職員から聞いた真偽不明の噂話という前提で聞いてください」
[了解]
[いいからはよ]
[さっさと言いなよ]
[無駄に引き延ばすじゃん]
[あくまでも真偽不明の話ね]
[そこまで前置きするなら一周まわってガチの話なのでは]
[で、内容は?]
「ドラゴン騒動の時、派閥争いの所為で自衛隊の派遣が遅れたって話あるじゃないですか。その時1番最初に現場に来た自衛隊の方々は待機命令に逆らったって事で処分を受けたらしいですよ。あくまでも噂なのでここだけの話にしてくださいね」
[ま?]
[ガチ?]
[うわ]
[誰から聞いたんだそれ]
[ガチだとしたら普通に可哀想]
[いや流石にありえんだろ]
[本当だとしたらコトハのところに凸った職員がこの話をしなかった理由がわかんない。よって嘘]
[絶対無いだろって言えないのがな]
不思議と配信者のところで暴露した職員はこの事は言わなかった。後で小出しにするつもりだったのか、処分された自衛官に配慮したからなのかはわからないが、俺でもこの話を聞いた時に同情したんだ。普通の人ならもっと問題視する。
この件は別に口止めされてなかったので、たぶん言っても問題ないだろう。真偽不明の話をしたとしてもしかしたら俺が炎上するかもしれないけど。
「何回も言うけどあくまで噂ですからね。証拠とかないですし、内部情報を暴露した職員がこの事言ってなかったので普通に嘘かもしれません。俺は対策局が激ヤバの組織だと認識してるので信じてますけどね。とりあえず今日の話はこれで終わりです。最後に今日の一枚を紹介します」
ということで、いつもの写真紹介コーナーで今日は探索者達がオークと戦っているシーンの写真を紹介して配信を終わらせた。
この配信で火に油は注げたんじゃ無いかなぁ。




