103話 内部争い
俺と奈那さんに促されて、成谷は続きを話し出した。
ダンジョンマスターが表に出てきて、見た目は人間と変わらず、言葉も通じ、感情もあると国民に知らしめてしまったことで消滅派は窮地に立たされたとか、それでも消滅派は保存派の邪魔をする事に躍起になったとか、そんな話だ。
確かに小嵜はダンジョンマスターになんてなりたくなかったと訴えたことによって、人類から同情を得ていた。コアなファンも出来たし、ファンとまでいかなくても応援する声は多くあった。
瑛士は友人と楽しそうに遊ぶ動画をあげたことによって、人類に親しみを感じさせていた。あいつは自分の親しい人に敵意を向けられない限りは唐突に会いにきた人でも普通に元気よく対応する。なんなら遊びに誘う。だから人類からはダンジョンマスターというよりは友人思いのただのアホ、と認識されていた。
小笠原ダンジョンマスターの動画は普通に面白いし、仙台ダンジョンマスターは声が可愛いという理由でファンが多い。
アンチも当然いるけど今じゃ擁護する人の方が多いだろう。
消滅派はこうなる前にもっと情報操作をしてダンジョンマスターは悪だと国民に認識させるべきだったな。まぁそうするならまずはダンジョンマスターの存在を認めないといけないから出来なかったんだろうけど。
「消滅派が劣勢になったタイミングで、保存派はここぞとばかりにダンジョン関連の法案を次々提出し始めました。それを消滅派が見逃す訳がありません。当然、法案が通らないよう邪魔をします。
ただ、ここで出された法案は全て消滅派の目を誤魔化すためのものでした。保存派は水面下で中立派だった政治家達へ根回しを行い、隙を見て本命である“特殊建造物の管理人への対処に関する法律案”を提出。わずか1日の異例の速さで可決まで持って行きました」
なるほど。
この法案でダンジョンマスターの人権が認められると同時にダンジョン内の物は最初に獲った人の物になると定められている。今考えればダンジョンを利用したい奴らに都合の良い内容だ。
ダンジョンマスターの人権が認められたのは少し変だなと思ってたんだよなぁ。だってわざわざ定める必要ないし。曖昧にしといた方が国的には都合が良かった筈だ。
実際に、ダンジョンコアを破壊した時どうなるのかは定められていない。
それなのに人権を認めたのは消滅派への牽制が大きかったんだろう。強引に馬淵は殺されたのだから、国民感情を無視してまたダンジョンマスターが殺される可能性があった。それはダンジョンを利用したい者としては困るわけだ。
「法案の可決が大ダメージとなって、消滅派は虫の息となりました。それでもまだ消滅派の人間はいますが、多くの人が保存派に流れていきました。ダンジョンは無くなった方が国のためになる、と思ってたんですけどね……」
「今は違うんですか?」
「そうですね……馬淵の死を目の当たりにした私は漠然と人類に紛れ込んでいる人でないナニカを排除しなければならないと考えました。今ではダンジョンの存在が国を豊かにするとわかっています。それでも、それでもあの死体の消える瞬間を見てしまった以上、この先もずっと貴方達を人として見る事はないでしょう。ただ、敵対したいとはもう思っていません」
まぁ敵意を持っているなら俺に手伝って欲しいことがあるなんて言い出さないか。
俺も国の人間に追い回されるのは嫌だから無闇に攻撃をすることはしない。向こうから来たら別だけど。
「では今は消滅派というわけではないんですね」
「そうですね。中立派になるかと思います」
「それは良かったです」
「あの時の私は愚かだったんです。派閥なんて入るべきじゃなかった。でも、それに気づくのが遅すぎました……」
成谷は悔いるように広島に出現したドラゴンの件を話し始めた。
優勢になった保存派は人数が増えすぎてさらに内部分裂を起こして、身内同士の蹴落としあいが始まり、ダンジョンについての政策は停滞化。成果を急いだ職員が強引にダンジョンマスターに接触したことがきっかけで、広島の府中市でドラゴンが出現してしまったと。
この対策局の人がきっかけって話は表に出てない情報だよな?
それをいったら馬淵のあたりもか。あとはその他の内部情報とかもだけど、いくら協力を得るためとはいえ話していい内容なのだろうか。
……俺が考えることじゃないか。知らんふりしとこ。
「そちらの職員がきっかけ、というのは?」
「現地で亡くなった職員達は無断で仕事を休み、広島に向かっていたことがわかりました。パソコンの消されたデータには、府中ダンジョンマスターを調べていた形跡があり、当日の計画書もありました。彼らは全員保存派で、ダンジョンマスターを誘拐して無理矢理協力させようとしていたみたいです。
亡くなった状況からみて、誘拐には成功したのでしょう。けど、府中ダンジョンマスターは抵抗のためドラゴンを出現させた。誘拐なんてことをやらかさなかったらドラゴンは街中には出なかったでしょうね」
「それは……いい迷惑ですね」
「私としては生でドラゴンを見れたから良かったがな」
「見れたというか倒しましたね」
「問題はそこなんです。ドラゴンが出現しても、我々は何もできませんでした。自衛隊を動かすように要請しましたが無視され、許可が降りなかったためうち所属の秘密部隊も動かせませんでした。
消滅派がダンジョンの心象を悪くするのにちょうどいいから、保存派にダメージを入れられるからと邪魔をしたんです。
国民の命がかかっている時にですよ!?そんなの、あり得ません。結果的に貴方達がドラゴンを討伐しましたが、おふたりが居なかったらどうなっていたことか……」
「ふむ。私たちが討伐するまで誰も来なかったのはそう言う理由があったのか」
「ドラゴンが討伐されたあたりで現地に到着した自衛隊は待機命令を無視して向かった勇気のある者達です。命令を無視したとして懲戒処分が下されました」
うわぁ……普通に可哀想。
到着がドラゴンが倒された後だったとはいえ、タイミング的に出動時はまだドラゴンは生きていた。死地に行くようなものだっただろう。
そこはよくやったと褒められるところじゃないの?
なのに、命令に逆らったから処分って……人類は無慈悲だなぁ。
「しかし、彼らのお陰で自衛隊の出動を引き止める意味がなくなり、後続隊が出されました。そして救護活動へ。これも、品谷様達が事前に多くの人の怪我を治してくれていたおかげで、だいぶ助かりました。火災の延焼を抑えたり、瓦礫の撤去くらいしかやることがなかったと聞いています。
あとは助からなかった方々への対応とかもですが……とにかく、倒すべきとしたダンジョンマスター達に救われた形です。逆に特殊建造物対策局の名を持つ私たちは何もできませんでした。
くだらない派閥争いをしていた所為です。もし、消滅派がなかったら、あるいは保存派がもっと一致団結していたら少なくともドラゴンが出現してすぐに自衛隊の派遣はできたでしょう」
去年の元旦にモンスターが出現した時は出動がかなり早かったもんな。
あの時はダンジョンマスターの候補者すら見つかっていない状況だっただろうから、まだ内部争いが活発じゃなかったんだろう。
「今のままだとまた似たようなことが起こっても何も出来ないまま終わります。ダンジョンやモンスターに対してなんの対策も対処も出来ないのに対策局が存在する意味はありません。少し、長くなってしまいましたね。これが特殊建造物対策局の解体を望む理由です」
「なるほど。理由はわかりました」
まとめると国のためを思って消滅派に属したが、くだらない争いばかりで消滅派にも局にも幻滅したってことか。
「一度出来てしまったものを無かったことにするのは難しい。いったい、どうするつもりなんだ?」
「大きく分けて4つの工程で考えています」
理由を話した次はその方法についてか。




