102話 派閥
その日の夜、試しに瞑想してみたが1mmも身体はポカポカしてこなかった。ここ1週間の無駄な苦労が思い浮かんでしまって、思考を無にできなかった所為だと思う。
これに関してはもうしばらく時間が必要だ。
次の日。
俺はまた自分のダンジョンに訪れていた。
奈那さんが話をつけたという政府の人間と会うためだ。
約束の時間より1時間早めに来て、隠し部屋の改造を行った。
若干部屋を広くして、椅子を増やし、奥の部屋に繋がる扉は隠し扉に変えた。昔に作っていたカメラを設置する台の場所を移して、ここには東畳さんに貰ったカメラのAタイプ。つまりダンジョン産カメラを少し改造しただけのものを置く。
ただ、このままだと電源をつけたら勝手に浮いて付いて来るのでカメラのレンズが被らないように木の枠で囲う。電源をつけて見て、その場から動けないのを確認した。
あとは雑面をつけて顔を隠せば準備完了だ。
まぁ向こうは俺の顔なんて知ってるだろうけど念の為ね。撮った映像公開するかもしれないし。
15分ほど待つと、2人が来た。
「こんにちは、まっちー」
俺が顔を隠しているのを見て本名で呼ぶのを辞めたようだ。
顔と同様向こうには名前なんてバレてるだろうけど、今はカメラつけてるからありがたい。
「こんにちは、奈那さん。それで、そちらが」
「例の政府の人だ」
パッと見は若そうな女性の人だ。とても官僚の偉い人だとは思えない。
「初めまして。成谷と申します。今日はお時間を割いていただいてありがとうございます」
「いえ。奈那さんから聞いていると思いますが、今日話を聞いたからといって手伝うとは限りませんので」
「えぇ、わかってます」
目の前の女性はなにやら覚悟の決まっている目をしている。そりゃ軽い気持ちで特殊建造物対策局を解体させたいなんて言うわけないか。
とりあえず2人を椅子に座らせて、早速内容を話すよう促す。
「私が解体を望む理由をお話しするには、まず特殊建造物対策局内にある派閥の説明をしなくてはいけません。
ご存知かもしれませんが、特殊建造物対策局は大きく分けて3分化されています。ダンジョンを全て無くしたい派閥、消滅派。ダンジョンを残して資源として利用したい派閥、保存派です。そしてそのどちらにも属していない人達の中立派があります。
私はもともと消滅派の人間でした。消滅派は国民の前でダンジョンの攻略を行うと宣言したのだからそれを実行すべきだ、という言い分のもと活動しています。しかしその実態はダンジョンができたことによって損なわれた利益をダンジョンを消滅させる事で取り戻そうとしているだけにすぎません」
政府が会見で言ったダンジョン防衛宣言というやつだな。
確かにダンジョンの攻略を行うと言っていた。
実際に完全攻略したのは渋谷のダンジョンだけだけど。いや、群馬のも攻略したに含まれるのか?消滅はしたし。
「一方で保存派の言い分はダンジョンから取れる資源が国を豊かにするのだから、完全攻略すべきではない、です。
ただこちらもダンジョンの資源を利用したい奴らが集まっているだけ。本当に日本のことを考えてダンジョンと向き合っている人はごく少数です。
しかしなにも最初から派閥があったわけではありません。元々政治家や官僚の間でダンジョンの扱いをどうするのか揉めていましたが、少なくとも記者会見を行い、対策局を設立するまではうまく進んでいました。とある事が起きるまでは」
「とある事?」
「馬渕基久の死ですよ」
「まっちーが最初の配信で名前が出た奴のことか」
奈那さん俺の配信1番最初のやつから見てたのか。
最初のあれ、今振り返ると色々拙いところがあってやり直したい気持ちになるんだよなぁ。
「はい、そうです。私は当時馬淵から情報を聞き出した情報をまとめる役を行っていましたので、その現場にいました。
彼は殺され、すぐにその場で実行犯と思われる男が逮捕されました。命令されたんだと仕切りに叫んでいましたよ。ただ、その男は証拠不十分で不起訴に。命令者は誰なのかは黙秘したようで、元凶は今も普通に政治家をやっています。
命令に従った理由は情報の精査はしなくてはいけない、だから本当にダンジョンマスターを殺したらダンジョンが消失するのか確認する必要があるという意見に納得したからだそうです」
なんだかとても闇深い話だな。
警察の偉い人の中にもグルがいなきゃ、こうはならないだろう。
「君はダンジョンマスターが殺される瞬間はみたのか?」
「見ました。取り調べ中、ペットボトルの水を飲んだ彼は急に苦しみ出し、そしてそのまま……」
「死んだダンジョンマスターはその後どうなったのだろうか。遺体は残ったのか、それとも」
「ダンジョンのモンスターみたいに遺体は崩れるように消えていって、なにも残りませんでしたよ。それを間近で見た私は、ダンジョンマスターは人じゃない何かだと思い、消滅派に属する事になったのです」
「何も残らなかったってことは馬淵が身につけていた服も全部消えたってことか?」
「はい。最初から何もいなかったかのように一才の痕跡を残さず消失しました」
ダンジョンマスターの死後には興味がある。
他人事じゃないからな。
服も消えるとは、いったいどういう原理なんだろうな。
……あぁ、だめだ。今考え出したら一生話が外れ続ける気がする。話を戻そう。
「なるほど。それで、馬淵が綺麗さっぱり消えたことで何があったんだ?」
「そうですね、馬淵が死んだ事で情報源がなくなり、ダンジョンを利用しようにもできなくなりました。その隙にダンジョンはやはり全て消滅させるべきだと声をあげ、消滅派が誕生したわけです。
それに焦った保存派のトップは急いで人材の囲い込みを行い、ダンジョンには利用価値があると声をあげ、今度は保存派が誕生しました。ただ、馬淵の死がなくてもそのうち派閥は生まれていたでしょう。あくまでも彼の死はきっかけにすぎません」
全員が全員余計なことを考えずダンジョンを攻略しようと考えていればよかったのにな。
馬淵という情報源があった所為でダンジョンの情報が伝わってしまい、変な気を起こした奴が現れてしまった。
「両派閥はとにかく新たなダンジョンマスターを探す事に必死でした。消滅派はダンジョンマスターを殺してダンジョンを消すため、保存派はダンジョンマスターを保護して利用するため。そして両派閥は相手の派閥を出し抜くために各々が勝手に対策局の人間に命令を出すようになりました」
「そうは言っても普通命令系統は決まっているだろう?」
「えぇ。でも名前を騙って命令する事はできますし、見返りを用意して人を動かす事も容易です。その結果、強引にダンジョンマスター候補者への接触が行われ、政府が必死に隠してきたダンジョンマスターの存在が表に出てきてしまった」
「ダンジョンマスターの存在が隠されていたのってなんでです?」
「ダンジョンマスターの存在が公になる事で治安が悪化するのを防ぎたかった、ダンジョンの完全攻略とはダンジョンマスターの命を奪うことでもあるという事実を隠したかったなど、理由は色々ありますけど、1番はそれが両陣営にとって都合が良かったからだと思います。
消滅派は密かにダンジョンマスターを殺す事でダンジョンの攻略が行えてると見せかけることができますし、保存は表立ってダンジョンを利用してるなんて言えないですからね。裏でダンジョンマスターとやり取りする必要がありました」
「逆に聞くがまっちーはどうして表に出てきたのだ?動画ではたしか瑛士くんのついでだと言っていたが……」
「政府の所為で迷惑を被っていると先に言えば、世間は同情的に見てくれるじゃないですか」
俺と瑛士が名乗り出たのはダンジョンマスターの存在を隠してひっそり動きたい政府への対抗手段だ。
あの時、先に政府がダンジョンマスターの存在を暴露していたら、ダンジョンマスターは悪だと誘導されていたかもしれない。
そうなったらきっと今のように自由には過ごせていなかった筈だ。
それに2人で一緒に名乗り出れば片方に何かあった時世間に訴えかけることが出来るようになるし、ダンジョンマスターという名のいわゆる“活動者”になれば人類に受け入れやすくなる。あと表に出れば探索者からの声が届きやすくなるし。
まぁ、でも……
「今は俺のことより政府側の話でしょう。気になるなら後でいくらでも話しますよ」
「あぁ、そうしよう。では成谷さん、続きを話してくれ」




