82話 ババ抜き
まさか怪我人にもこの掛け方してないよな?と思ったが、いったん今は置いておく。
異常状態回復薬を掛けた数秒後、蓮見のまぶたはゆっくりと開いた。目を何回かパチパチさせ、ぽつりと呟く。
「……どこ」
睡眠薬で眠らせたら異常状態扱いになるという俺の予想はあっていたらしい。
「起きたね!あー……えと」
瑛士がこちらを見ている。どっちで呼べばいいか迷っているらしい。
事前に言っておけば良かったな。
「まっちーで」
今の俺は雑面をつけていない。
顔を隠すことで無駄に警戒されても困るからだ。あとダンジョン攻略時にどうせ見られてるだろうから今更隠してもな。
今の状態で本名を呼ばせなかったのは、たぶん後々俺がダンジョンマスターだってバレるから。
話の流れでドラゴンを倒したと言えば、その方法を聞かれるだろう。ダンジョンマスターだと伏せた状態では説明できないし、そんな話の流れがなくても、たぶん報道ヘリに撮られた映像から顔を隠したやつが俺だと判断することは簡単だ。そこから俺がダンジョンマスターと予想するのも。
ここまできたら別に本名を言っても良いのだが、念の為伏せておく。
「まっちーの言う通りだったね!」
「は?……品谷瑛士?と、誰だよお前ら」
「初めまして。私の名前は弥竹奈那。後ろにいるのが妹の寧音。隣にいるのがまっちーだ。私のスキルによって君の名前も種族もわかっているが、見ての通り敵対する気はないので安心して欲しい」
「それで警戒心を解く馬鹿はいないと思います。とりあえず俺らは君から話が聞きたくて連れてきた。国の人間に連れてかれると面倒な事になりそうだったしな。帰りたいなら止めないが、最低限ドラゴンを出すまでの経緯だけ話してくれると嬉しいかな」
まぁ本当に帰りそうになったら全力で止めるんだけど。話聞かないと連れてきた意味ないし。
「こんなところまで連れてきて帰りたいならって、信じられるわけないだろ。本当の目的はなんだよ」
「ドラゴンを倒すには君を殺した方が手っ取り早いのに、わざわざ安全なところまで連れてきたって点から敵意はないことだけは信じて欲しい」
「そうだよ!俺らは同じダンジョンマスター仲間じゃん?何か困ってる事があるなら助けたい」
「街中にドラゴンを放つような危険人物、私はさっさと国に引き渡した方がいいと思うけどね。残念なことに私以外はそのつもりが無いみたい。協力できるもんもできないからさっさと事情話してくれるかしら」
蓮見は黙り込んだ。
予想だと“国の人間に車で誘拐されそうになったからドラゴンを出した”だけど、それがあってるなら車の中でドラゴンを出して気絶して起きたら豪華な内装の部屋にいたというだいぶ訳のわからない状態にいることになる。どうすればいいのか迷っているのだろう。
少なくとも蓮見はすぐ攻撃の意思を見せなかったので、こちらに敵意がないという判断はしている。
でも口を開かせるにはもう少し後押しが必要だな。
「我々はただ君から話が聞きたいだけなんだ。嫌なら帰っていいと言うのも嘘ではない。ただ、君の状況から察するに、帰りづらい理由もあるのだろう。だからと言って我々を信じていいかわからない。そんなところだろうか。このまま君の決断を待っても構わないのだが……黙って見てるだけじゃプレッシャーをかけるだけになってしまうな。そうだ、一緒にトランプをしないか?」
「は?」
俺と瑛士がさっきまでやってたから机にはトランプがある。それを見てやろうと言い出したんだろうけれど、蓮見にとっては予想外な誘いだったんだろう。とても驚いている。
このまま対面状態で説得を続けても、意固地になって話さないと言う選択をされてしまうかもしれない。トランプをして警戒心を解かせるというのは案外ありな気はする。
「なに。単なる暇つぶしだ。ゲームに勝っても負けても何か条件をつけるわけではない。ババ抜きならやり方を知っているだろうか?」
「……知ってるけど」
「それはよかった!では早速やろう。まっちー」
「わかりました。瑛士も寧音もやるよな?」
「うん!もちろん!」
「……仕方がないわね」
俺はトランプを5人分に分けて配った。
蓮見は大人しくカードを受け取った。完全に奈那さんの勢いに飲み込まれてる。
カードを配り終わると、蓮見を寝かせていたベッドにみんなで円になって座った。無駄に部屋が広くてベッドもデカかったおかげで5人座っていても余裕があるな。
「では最初に引く人を決める決めるジャンケンをしようか」
ジャンケンをして瑛士が勝ったので、時計回りにカードを引いていくことになった。順番は瑛士、寧音、奈那さん、俺、蓮見だ。
「ラッキー!最初から揃った!」
「よかったわね」
「寧音、引いてくれ」
「急かないでよ。じゃあこれ……あ」
今の反応、ババを引いたな。
寧音はなんでそう運がないんだろう。
奈那さんは俺からカードを引き、俺は蓮見からカードを引いた。特にペアは作れていない。
そのままババ抜きを続けて、1回目は瑛士が一抜けしてその次が俺、奈那さん、蓮見の順で抜けていった。
「もう一回やるわよ」
最初は渋々といった様子だったのに、負けたことで寧音に火がついた。行きのリニアと新幹線で見た光景である。
結局2回目も3回目も寧音が負けた。
なんだろうな。デジャヴを感じる。
「もう一回!!」
「……なぁ、ゲーム変える?別にババ抜きじゃなくても」
何回も負けている寧音に気を使ったのか、蓮見がゲームの変更を提案した。
今までただ流されるまま黙ってババ抜きをやっていただけだったのに。
寧音の負けっぷりはすごいな。
ただ、ババ抜き以外でも寧音は何故かゲーム全般弱いんだよなぁ……
「次は勝つからいいわ!」
あ、断るんだ。
4回目もやっぱり寧音が負け、5回目。
「……うそ」
最初に配られた時点で残り2枚まで減らせた寧音が1番に抜け、最終的にこの回は蓮見が最後まで残った。
「もう一回やってあげてもいいわよ?」
たった1回勝っただけなのにものすごい調子に乗っている。次は惨敗する未来が見えるのはなんでなんだろうな。
「……オレは別に仕方なくトランプやってるだけだし」
「ふぅん。負けたままでいいんだ」
「たった一回勝っただけなのになんで上からこれんの?」
「はぁ!?一回でも勝ちは勝ちでしょ?そもそもあんたは今までビリじゃなかっただけで、1位ではまだ上がってないじゃない。むしろこの中で1番弱いのはあんたでしょ」
「は?どう考えてもお前が1番弱いだろ。4回連続ビリだったんだから」
「そういうのは1位上がりを一回でもしてから言ってよね」
「うるさい雑魚」
「はぁぁぁ???だったら次も私が勝つから!そしたらあんたの方が雑魚だって認めなさい。まっちー!早くカード配って!」
ということで6回目のババ抜きが始まった。
寧音と言い合いをする程度には心を開いてきてくれたようで何よりだ。
それからしばらくババ抜きを続けた。
それでわかったのだが、蓮見もなかなか運が悪いタイプのようだった。ただ、寧音と違って感情が顔に出にくいので、寧音よりは強い。
何回か蓮見がビリになって、寧音が5回連続で負けたところでキレてついにゲームを変えると言い出した。
「ゲームを変えるのは良いが、そろそろ夕飯の時間だ。つづきはご飯を食べてからにしないか?」
「もうそんな時間経ってたのね。わかったわ」
「俺もお腹すいた!」
そういえばダンジョンで携帯食を食べてから何も食べてない。言われると俺も空腹を感じてきた。
ただ、このままビュッフェ会場には行けないよなって思ってたら寧音がフロントに電話して普通に5人分の食事を部屋に持ってくるよう指示してた。その時ついでに蓮見の分の部屋も取ってた。
そういうこともできるんだ、このホテル。
いや、何回も良い部屋に泊まってる上客の特権だろうか。




