第7話:深淵の眠り娘 2
届きもしない武器を次々と沼に落としていく村人たち。その度に濁りを増していく沼。そこから尋常じゃない音とともに、大量の水が噴出して来た。
そして、
「ああー!! うるさーい!!! 何度も何度も頭にぶつけて来るなんて、絶対許さないんだからーー!!」
濁りの水の中から水膜に包まれた少女が姿を現わした。はっきりと見えるわけじゃないものの、透き通るようなターコイズ色の服をまとって見える。
「な、何だ!?」「沼の水が溢れていくだと……?」「に、逃げないとやばいんじゃないか」などなど、何を今さらなことを口々に言い出しているのか。
逃げるといっても二つの村は沼を隔てた位置にあり、村に入る以外に逃げ場は無い。もし沼の水が全て噴き出してしまえば、今まで捨てて来た武器もろとも洪水となって押し寄せてしまう。
「あの子が……?」
「はい。水神シグリエスでございます」
「……相当怒ってるけど、村人というか村を全て流してしまうんじゃ……?」
「仕方ありません。自業自得ということになるかと」
直接の関わりは無く、何事かと思って様子を見に来ただけの村同士の争い。そこにたまたま配下の水神が眠っていた。
それだけのことなのに、何となく放っておけない。シグリエスは私たちに気付くことなく、大量の沼の水で村人たちを襲っている。
「ヘルヴィ」
「はい、アリーア様」
「村人のしていたことは許せないけど、村を救うことは出来ないのかな?」
ラスボス女王が世界を支配する……かどうかは置いといても、世界地図を知らないまま地図が変わる。そんなのは悲しいし、山や森への被害は食い止めないと。
水神が私の配下なら、言うことを聞かせるしかない。
「あぁっ……何と慈悲深いアリーア様! シグリエスと一戦交えることになると思いますが、もしかして完全に目を覚まさせ、お叱りを与えるおつもりでしょうか?」
やはり戦うことになるんだ。でも初めから城にいたヘルヴィたちと違って、素直に配下として復帰してくれるとは限らない。それなら実力行使するしかない気がする。
「迷惑をかけてるのは村人たちだけど、このまま見過ごせないから!」
このままじゃ周辺どころか、遠くの土地にまで影響を及びかねない。
「さすがでございます!! そういうことでしたら、思う存分にお叱りを与えてくださいませ! あの娘も素直になるに違いありません」
「へ? そ、そう? じゃあえっと――」
人間のことは無関心なのに、私が言うことにヘルヴィは何の疑いも持たない。それどころか、私が言うこと全てに喜びを感じているような……。
「わたくしは村の入口に大木を置き、水の流入を防ぎましょう」
流されている村人たちは屈強そうなので、少しだけ辛抱してもらうとして――
「お願いね、ヘルヴィ!」
まずは沼の水を全て消失させるところから。
「ほぉら、ほらー! 散々沼を汚して"挑発"して来たくせに、シグには手も足も出せないのかー? つまんないぞー人間!!」
水神の少女は逃げまどう人間たちに夢中で、私の気配に全く気付いていない。まずは自由にさせている水を止めさせる。
「――そこのあなた! 水遊びをいい加減にやめなさい!!」
「はぁ……? いきなり話しかけといて何よ、その言い方! そんなに早死にしたいなら、そうさせてやるんだから!!」
そう言うと少女は矛先を私に向けて来た。人間たちに向けていた生ぬるい水流を止め、自分の周囲に浮遊させている水膜を一か所に集め出している。
水神というだけあって、自在に水を操っているようだ。
「シグの邪魔をするなー!! 喰らえー《アクアボール》!」
水の塊を"ボール"のように投げつけて来る。
水神といっても、そこは何となく子供っぽさが残っている感じ。そのボールにどれくらいの威力があるのか確かめても良かったものの、こっちも遊んでられない。
「しょうがないわね。あなたの遊び道具もろとも吸収させてもらうわ!」
繰り出すのは特別な動作でも無く、あらかじめ持っていたゲーム知識で言葉を作り出すだけ。それでも手の平だけは相手に見せつけるくらいはするけど。
「大人しくなさい! 《アブゾースト》であなたの力を全て吸い取ってあげるわ」
「えっ? えぇ? な、何でぇぇぇぇ!? ち、力が出ないよぉ……」
「いい子ね……そのまま私の下へおいでなさい」
「あうぅぅ」
全身の力が抜けたのかへなへなとさせながら、シグリエスという少女は私の元に向かって歩き出す。少女が出していた水はもちろん、沼の水ごと全て吸収した。
その結果、辺り一帯からはすっかり水気が失せている。この娘を通して村には後で注意してもらうとして、まずは私のことを教えてあげよう。




