継承者の目覚め
「女王様。そろそろ玉座においで下さいませ」
「ぎょっ……玉座?」
「どうぞ、こちらへ」
玉座って、偉い王さまが座る椅子のことだよね?
それにしても――
「――ええと、ヘルヴィさん?」
「はい!」
「あなたは素敵な白銀のドレスを着ているのに、私の格好っておかしくない?」
黒の制服に灰色の下衣ってだけでも恥ずかしいのに、その組み合わせってどうなの?
目覚めてすぐはヘルヴィの瞳の色に目を奪われていた。だけど、今は彼女のドレスにしか目がいかない。見た目だけなら彼女の方がよっぽど女王様のような感じがする。
「そんなことはございません!! わたくしのは見せかけ、そう見せかけに過ぎないのです。ですが、アリーア様の制服は唯一無二のお召し物! 下衣もよくお似合いでございます」
「そ、そう……?」
「当然でございます!」
こんなに褒められることってある?
ちょっと私が想像していたのと違うけど、落ち着いて玉座に座る――というか、よくよく見たら今いる場所って古びた書庫にしか見えないんだけど。
中央にふかふかなソファがあって、長時間座っても疲れなさそうな。ひじ掛けの所には本を置くブックホルダーがあって、趣のある図書館というより寂れたネットカフェ。
「えっと、座ればいいのかな?」
「どうぞおかけください」
「じゃあ……」
自分の部屋にあったリクライニングシートに似ているのは偶然?
「あれっ?」
「どうしましたか?」
「さっきまで何てことのない空間だったはずなのに、着席した途端に外が見えてる!!」
見えない所にプロジェクターでもあったのかと思うばかりに外の様子が映し出された。壮大なドッキリにしては鮮明すぎるんだけど。
「ああぁっ! この時をどんなにお待ち申し上げていたか!! アリーア様が玉座にお座りになられるなんて!」
「へ?」
私が座っただけでヘルヴィが大げさに感動している。玉座にしてはやけに埃っぽいけど。
「その玉座、ここに眠る書物。全て女王様が目覚めるまで閉じておりました。それがとうとう開かれたことに感無量なのでございます!!」
つまり私が転生でもしてこなかった限り、玉座の間は開かずの間に?
「この、ホルダーに入ってる本は?」
「わたくしは書物が読めません。ですので、ぜひお取りになってお読みいただければ」
外の様子が気になりつつも何が書かれているのか。
とりあえず興味本位で読んでみる。
「わわっ!?」
古びた本を手にすると、一瞬目の前が眩く光った気がした。もしかして本にも魔法がかけられていたりして?
【女王の居城イグロニア。何者をも寄せ付けない強い魔法により守られている絶海孤島に存在する。だが、長らく主のいない空位時代があったことで、その力が弱まりつつあることも事実である。
イグロニアには忠実で狡猾な配下と誠実で可憐な配下の他、眠り続ける配下その他があり、最終的女王の目覚めを待つのみである。
我が書物が目覚めし時、全てが眠りから呼び覚まされるだろう。
継承者とともに、強き力の顕現を――】
「あっつぅぅ!?」
読み終えた所で僅かながら熱を感じた。
熱さで本を落としてしまったうえ、拾ったら今まで書かれていた文字が消えていた。女王の居城紹介に配下の紹介。読了ですぐに私の知識になったから?
もしゲームの攻略本みたいなものだとしたら、にわかゲーマーな私がスキルを身につけるのは至難の業のような気が。
「アリーア様。読み終わりましたか?」
「ヘルヴィさん、文字が消えちゃいましたけど……」
書かれていたのが本当だとすると、配下である彼女たちは相当長くこの城に住んでいる。
「ご安心くださいませ。原初の書物を手にされた時点でアリーア様のスキルとなられたはずです」
「そ、そうなんだ。それじゃ次は別の本を読まないとだよね?」
「全ての書物に目を通さずとも、次の書物さえ手に取れば事足りるかと思われます」
良かった。玉座が書庫になってるから全部読まなきゃいけないかと思った。でも、ゲームの攻略本を読むのは好きだし苦じゃないからいいかな。
それにしても継承者だなんてね。継承したから全てが目覚めるって意味でいいのかな。
「こほん、アリーア様」
「はい?」
「わたくしはもちろん、カーグなぞにかしこまる必要はございません。ご遠慮なく、呼び捨てでご命令くださいませ」
異世界だからいわゆる年功序列とかは無いってこと?
にわかだけど、女王っぽく振る舞って慣れていくしか。
「あれっ? 魔物が船を襲っている!? しかも船首の方にいるのって、もしかしてエルフ?」
エルフというと、確か森の住人。森から海というか船に乗るなんて滅多にないはずなんだけど。だけど、もし人間に捕らわれていたのだとすれば。
そもそも人がいる島までどれくらい離れているか見当がつかない。
「海の怪物が暴れているだけのようですね」
「溺れてるように見えるし、助けを求めてるのかも」
「その必要はございません。それとも、エルフごときを助けに行かれるおつもりですか?」
中身が人間な私からしたら見過ごせない。しかも、ヘルヴィたち以外で初めて会う種族がエルフの女性とか。もし助けを求めての行動だとしたら助けたい。
「えっと、これは私の……女王としての慈悲! だからヘルヴィ。あそこに急いで!」
「かしこまりました。ではあの場所へ転移いたしましょう!」
「どうやって?」
「見えている風景にご自身を溶け込ませることをご想像ください。たとえば、空に浮く自分を客観的に思い浮かべるのです」
海の上空に自分がいるようなイメージ――目を閉じて、えっと海が眼下に見える、見える~。
「あ、あれっ!?」
何となくイメージを浮かべていたら、あっという間に海を見下ろす上空に浮かんでいた。空に浮かんでいるのも不思議だけど怖さはない。
海の怪物の姿はすでに無く船の残骸だけが見えている。近くの岩陰を眺めると、そこにはしがみついたまま意識を失ったエルフの姿があった。
今度はそこに近づくつもりで、頭から地上に向かって飛び込みのイメージを浮かべる。すると、空を自在に飛べるような感じで何となく体がふわふわし始めた。
そして、近づいたところで自分の手をエルフの首筋に当ててみることに。
「い、息はあるかな」
確かに触れているし脈を感じる。イメージと言いつつ、実際その場に存在してる感じ。
「アリーア様。転移の感覚は覚えられましたか?」
そんな状況の中、ヘルヴィはエルフではなく私の状態を訊いてくる。
「うん」
「それでは次に、深い森を思い浮かべて転移をお試しください」
イメージ――登山に行った時に迷い込んだ深々とした森。そこに連れて行くことだけを思い浮かべて、早く介抱する。




