優雅に降り立つ銀翼
ヘルヴィにコツを教わり、深々とした森に転移出来た。
「……エルフをどうされるおつもりですか?」
「溺れて意識を失ってるみたいだし、まずは水を吐き出してやらないと」
こういう時って人工呼吸?
だけどエルフ相手に上手く出来るかどうか。
そうなると私に出来ることと言えば――何が出来るんだろう。
「アリーア様なら心肺蘇生術が使用可能でございます」
「心肺蘇生……治すことを思い浮かべる感じで?」
「そのとおりです。アリーア様がエルフに直接触れる必要などございません」
この世界じゃ魔法が基本ってことだよね。魔法に慣れる為にも使っていくしかないか。
頭の中で彼女が息を吹き返すイメージを浮かべ、その状態で両手をかざす。
「……ぅ」
青白くなっていた彼女の血色が良くなって来た。
良かった。大したことは無かったみたい。
「アリーア様。わたくしは周辺の様子を確かめてまいります」
「え?」
もうすぐエルフの女性が目を覚ましそうなのに、ヘルヴィってもしかして……。
それはともかく、気づいたらどうすればいいんだろう。
「エルフは警戒心が強く、簡単に心を開きません。ですが、アリーア様であれば心を開く可能性がございます」
エルフに関する知識といえば、人見知りが激しくて違う種族と仲良くなることが無い。それでも心を開けば忠実な態度になる……だったっけ。
「それにアリーア様はとても可愛らしいお姿をされておいでです。思うままに行動されても問題ありません。――ではわたくしはそろそろ」
可愛らしいって言われても子供っぽいって意味だろうけど。気にしても仕方ないし、エルフさんに向き合うしかない。
「……はっ!? こ、ここは?」
「あっ、気がついた――じゃなくて、気がついたようね。フフフ……ここはどこかの森ですわ」
外に出たら女王っぽく。
そう決めていたけど誇張するつもりは無いし、自分的に偉そうな態度くらいで勘弁。それにしても細長い耳にサラサラな髪。スタイルもいいしエルフって羨ましい。
「何者!?」
ようやく気付いたかと思えばいきなりの足払い。でも回避に優れた下衣のおかげで、軽く飛び跳ねてあっさり回避出来た。
避けられるとは思わなかったのか、勢いでエルフの彼女は体勢を崩しその場に倒れ込んでしまった。
「……くっ!! お、おのれ」
もしかして悪い人間に捕まっていたからこんなところにまで来ていたのかな。そうなると、どこかの村から連れて来られて船に乗せられた?
それにしても今の私って外見的には人間に見えているのかな。中身はなんちゃって女子高生だけど、黒の制服に黒髪に灰色なスパッツ。冷静に考えるとやっぱり恥ずかしい。
「私が何者かなんて知らないわ。そういうあなたは恩知らずのエルフかしら?」
多少語気を強めて言った方が、女王らしいはず。
「も、もしかして、あなたがわたしを?」
倒れた姿勢を正し、彼女は慌てて頭を下げる。
私の態度はともかく、恩人ということに気づいたみたい。
「――あなたは?」
「申し遅れました。わたしはセラド漁村から参りました、ラフォリと申します」
「漁村? 森の住人ではないのね」
漁村のエルフかぁ。不思議でも何でも無いけど、期待しすぎた感じがする。
「故郷は遠くの森にあり、今は漁村でお世話になってるんです」
「そう、ラフォリね。漁村から孤島へは何しに?」
絶海孤島は少なくとも魔法で守られていた場所。
そこに船が近づけるようになったということは、イグロニアが弱まっていることを意味する。
「わたしは漁村の者と協力して船を造り、あの孤島を目指していました。ですが、魔物に襲われ……気付いたら――」
船を造ってイグロニア。
そうなるといずれ上陸を目指されてしまうのかな。
居城の力が弱まっても、守護者さえ揃っていればどうとでもなりそうだけど。
「――手を貸すわ。起き上がってくださる?」
「あ、ありがとうございます!」
「私はハドリーよ。よろしくお願いね」
「はい!」
友好はいいとしてこの森がどこなのかも分からない。私の力を見せつけるわけにもいかないし、こういう時に攻略本を頼るべきかどうか。
「ハドリーさん。わたしは近くに道が無いか探して来ます!」
「分かったわ」
ひとまずラフォリには、辺りの様子を見て来てもらうことにして。
「お待たせしました。アリーア様」
ラフォリが離れた隙にどうすればいいのか悩んでいると、上空からヘルヴィの声が聞こえてくる。空を見上げるとそこには銀髪なヘルヴィではなく、銀翼なフクロウが優雅に降りて来た。
「まさか……?」
カーグはカラスだったけど、ヘルヴィもそういうこと?
「隠していたつもりは無かったのですが、空を飛ぶ以外はあの姿でいることが多く、真の姿をお見せするのが遅れてしまいました。申し訳ございません」
フクロウにしても女性の姿にしても、美しい銀色の女性であることは変わらない。
「ヘルヴィ・アウルール……綺麗な銀翼なのね」
「勿体ないお言葉にございます。アリーア様」




