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ぐうたら主の相談所  作者: 日下みる
56/63

~お披露目 4~

さてと。愚弟は灰になったし、そろそろ良いかな。

「女性陣に固まられると、男だらけで華がないんだけれどね?」

野郎の顔見て飲んでも酒の味が落ちるだけだよ。

何が悲しくて、むさい愚弟の泣き顔を近くで見ながら飲まなきゃならないんだか。

結菜君がクスクスと笑いながら二人に声を掛けて中央テーブルを通り過ぎこちらへ。

呼んだのは結菜君じゃないんだけどな。

一緒に連れて来てくれても良いだろうに。

あの子は真知子君の相手に集中。

そりゃね、君が離れたら知らない連中に囲まれて可哀想だとは思うけれど。

こちらも忙しい中、時間を作ったんだから、少しは相手してくれても良いと思わない?

「あら。だってウチの人が鬱陶しいと思って」

流石、あの子が気に入っただけの事はあるよ。

愚弟よりも余程食えない性格をしている。

「それなら灰にしておいたよ」

「その程度で良いんですか?てっきり裏に捨てるくらいはするかと思ってたんですけど」

女性って怖いよね。

にっこり可愛い顔して言う事がエグいよ。

「君もお怒りかい?」

「当然でしょ?理乃ちゃんの折角のお友達だもの」

あの子は付き合いが長くて、歳の近い同性の友人が少ないからねぇ。

学生時代から友人には困らなかっただろうけれど、何だか奇妙な事になってよく疎遠になってたものね。

男友達なんて、告白された時点で修復不可能な程叩っ斬るだろうし。

俺も病院行けとか言われたし。

跪いて、ど凹みしてる愚弟をこっそりと葛西と結菜君が踏んでるなんて俺には見えないよ。

結菜君がこちらに来た事で空いた席に、中央テーブルから拝借した食べ物が乗っている皿を一つ取り、失礼する。

後ろで葛西が睨んでるのがわかるけれど、気にしない気にしない。

そんなことしたら、あの子に気付かれちゃうよ?

「やぁ。飲んでるかい?」

「あ。はい」

「・・・」

そうだね。君は酒飲まないもんね。

そっと置いた皿にもぐもぐと箸を運ぶ。

「これから先、俺も職場で会うと思うから、よろしくね」

「あ、はい。聞きました。こちらこそよろしくお願いします」

真面目な子だねぇ。

「そんなに固くならないでもいいよ?上下関係とかもないしね」

理乃自身が割と社会から外れているのもあって、好んで傍に置くのが比較的普通な子が多いんだよね。

真面目で普通の感覚を持っている子。

そして、理乃に(わずら)わされない図太い子。

おかげで友達が少ない少ない。

本人が気にしないから余計に。

俺達みたいに損得勘定込みの上下の繋がりも持たないし。

「えーと。頑張ります?」

「そうだね。徐々に打ち解けてくれれば嬉しいな」

にっこり笑いかけたら、照れながらも笑い返してくれた。

素直な子だねぇ。

理乃、足踏まないで。

口説いてる訳じゃないから。

心配しなくても君の友達になんて手を出さないよ。

コレがヤキモチだったら嬉しいんだけどなぁ。

って、痛っ!蹴るのも辞めてくれるかな?!

「理乃、ドタドタ行儀悪いよ?」

ドタドタしてる訳じゃないんだけどね。

俺に何回も踵落とししてただけで。

まぁ、辞めてくれたから良かったけど。

理乃の口が忙しい間に連絡先を交換しておこう。

仕事が絡まないと返事をしてくれないし。

何かあっても絶対に連絡して来ないからね。

外堀は埋めておかないと、どこに行くかわかったものじゃない。

「良かったら、連絡先交換しないかい?理乃はしょっちゅう携帯を放置するからね。君が近くにいるなら、連絡が取れると便利だし。あ。勿論、嫌なら断ってくれていいよ?初対面のおっさんに連絡先教えるのに抵抗があるのもわかるしね」

「いえ!そんな滅相もないです!理乃と連絡が取れないのはよく分かりますし。えーと。番号だけで良いですか?メッセージも送れますし」

「勿論。ありがとう。助かるよ」

素直な良い子だね。

おじさん嬉しいよ。

でも、異性に軽々しくプライベートナンバー教えるのは感心しないよ?

俺が教えるのも仕事用の方だしね。

それより、理乃から向けられてくる視線が痛い。

物凄く痛い。

それ、物凄く汚ないモノを見る目だよね。

世間で嫌われているGに遭遇しても顔色一つ変えない癖に。

今の俺ってそれ以下って事?

口の中の物を飲み込む為か、グラスに手を伸ばす。

うわぁ。嫌味のオンパレード?

平坦ながらも侮蔑の籠った罵倒?

勘弁して欲しいなぁ。

完全に誤解だし。

にこにこと営業スマイルで真知子と他愛ない会話を続けながら、頭の隅で釈明する。

一人を除き、和やかな雰囲気で会話が繰り広げられる。

元々、騒いだり笑ったり、あまり喋る事がない理乃なので誰も気にしない。

そんな中。

バチバチバチッ!!!

「きゃっ!?…今、凄い静電気だったけど、大丈夫?痛くない?」

「・・・(コクン)」

真知子へと大丈夫な旨が伝わる頷きを返し、無言でグラスの水を飲む理乃。

対面に座っている昌信は音がするほど血の気が引いた。

背中には冷や汗がダラダラと落ちているのが触らなくても分かる。

今の季節は秋。

確かに空気は乾燥しつつあるが、静電気が起こる程でもない。

それも、紫電が走る様を肉眼で視認出来る程の静電気。

真冬でも早々見掛けるものではない。

バチバチッと弾けるのが一般的な静電気である。

紫電が走る事象はたまにテレビで見掛けるくらいだろう。

天候による雷でも見るが。

(ウソ!?アレって使えなくなった筈じゃ!?)

唯一、理乃の全力火力を見ている生き証人は昌信だ。

監視カメラすら燃やし尽くし、記録すら残っていない。

あの部屋にあった機械は、全て繋がっている回線ごと燃やし尽くした。

監視パネルや機械も相次いでショートした程である。

それ等は火災の影響と処理された。

昌信以外の者はスタンガンレベルの軽いもの(・・・・)しか見ていない。

それですら、古参の研究員に限られている。

「びっくりしたぁ。もう静電気の季節?」

「そ、そうだね…。びっくりだねぇ…」

真知子は知らない。

知るべくもない。

あの時を境に使えなくなった筈なのだから。

最も、帯電体質は変わっておらず、昔からバチバチと静電気だらけなのだが、弾ける程度のもののみ。

「そう言えば、飲み会って言っても私達と違いますね。大人の飲み会って感じで」

各々自由に飲んでいるだけなのだが、真知子にはそれが大人っぽいと感じるらしい。

「飲み会に大人も子供もあるか?」

「えー。あるよ。王様ゲームとかしないじゃない?」

「王様?ゲーム?」

「知らないの?!」

合コンだのサークルの飲み会には無縁な人間だ。

それに、世間知らずな上に俗世間とはかけ離れている。

それは本人の性格もあるが、雰囲気として理乃の前で俗っぽい遊びでもしようものなら、子供っぽいと呆れられそうで、誰も出来なくなる。

「…おお勇者よ、死んでしまうとはなさけない?」

「は?」

「うん。間違ってないけど、この場合は間違ってるかな」

大方、子供の頃にでも兄が遊んでいた”ゲーム”と”王様”で脳内検索したら一致したのがソレだったんだろうけれど。

どうやったら、ソレと飲み会が一致するんだろうね?

飲み会っていう前提条件を忘れてるよね。

「…各自、王になったつもりで国を良くする方法を議論するゲーム?」

あー。そういう議論が好きな連中もいるよね。

「それって楽しいの?」

「??千里の道も一歩から?」

国を良くする案を考えて、各々小さな事でもやろうって事?

労働組合認定されないと良いね。

ここまでズレている人間も珍しい。

今まで、生きた中で自然と覚える事である。

どれだけ純粋栽培されればここまで無知に育つのか。

「ちーがーう!!そんな真面目なモノじゃなくって!当たりを引いた人が命令出来るゲームのこと!」

「人に命令して楽しいか?」

まぁ、そうなるよね。

君、どれだけ素直に生きてるの。

「そんな厳しい命令はしないってば。昌信さん、解説お願いします」

え。そこで俺に投げるの?

「?知ってるのか?」

「そりゃ、知ってますけどね」

「命令って何するんだ?各国の情報収集?」

真知子は既に諦めていた。

それに、言い出したのは自分だが、詳しく説明するには抵抗がある。

腹筋何回という様な命令は中高校生まで。

それ以降はちょっとエッチな命令が多くなる。

それを理乃に教えるのは…何だかイケナイ事みたいで恥ずかしい。

理乃も同い年なのだから、当然その辺りの知識はあるとは思うのだが。

「その王様から離れてね」

実際の王様か、もしくは物語に出て来るような王様をイメージされたままでは教えられない。

「?わかった。で?」

「そうだねぇ。定番なのだと…膝枕とか、キスかなぁ?」

「は?」

「だから、キスとか膝枕するように命令するの」

「誰が」

「王様」

「……マチや昌信もした事あるのか?」

汚らわしいモノを見るような視線。

「私はないわよ?!私がしたのは、腹筋何回とか、腕立てとかだもの!後は…好きな人暴露、とか?」

今の理乃の反応では、言えるのはそこまでである。

じっと昌信を見る理乃。

汗を垂らす昌信。

理乃に嘘を吐けばバレる。

バレたら信頼は崩壊。

本当の事を言ったら、軽蔑の眼差し。

どちらも楽しくない。

なるほど。誰も理乃に教えない筈だ。

理乃が俗っぽい遊びから程遠い理由を身をもって実感した。

したくなかったけれど。

そんな無言で何かを察したのか、読まれたのか。

「食器片付けてくる。マチ、飲み物追加は?」

「大丈夫。手伝う?」

「問題ない。座っとけ」

ガチャガチャと皿を纏め、テーブルの上を簡単に片付けて席を立つ。

昌信など目に入らないかのように。

昌信の目の前のグラスにバチバチッと紫電が走るが、誰も気にしない。

「御馳走様でした」

「お。ありがと。そこ置いておいて~」

常連の理乃は、何処に汚れた食器を置くくらいは知っている。

忙しい時には簡単に手伝うくらいには親しい仲だ。

「ドリンクの注文、いいか?」

「ほいよ。いつものか?」

「ああ」

「他は?」

「大丈夫だそうだ」

「じゃ、ちょっと待っててね」

「急ぎじゃなくても構わないが」

「食後の一服するんでしょ?こっちも急ぎじゃないから平気だよ」

先程の事などなかったかのようにいつも通り。

昌信は理乃にプロポーズはしたものの、振られている。

昌信自身、立場や顔立ち、愛想の良さからモテるので大人の嗜みくらいはしている。

人間嫌いの葛西とは違う。

それを理乃に気付かれるようなバカな事もしない。

理乃の友人は一定のグループや個人で纏まっており、理乃を仲介して友人になるという事はまずない。

人種が余りにもかけ離れているので、関わりようがないというのもある。

たまに男友達にフリーの女友達を紹介してくれと頼まれるが、頼んでくる人間の性格上、紹介する事はまずない。

大体はその場限りの付き合いの人間が多く、長続きしないというのもある。

その場の理乃の友人を経由してのグループの人間で、理乃のお眼鏡に適った友人ではない人間が紹介を頼んでくる事が多く、大事な友人を紹介するには問題があると判断する。

好みの兼ね合いも考慮されるが。

理乃には理解出来ないが、酒の場で仲良くなった男女がそういう関係になる事も多いと聞く。

必死に相手を探す人間も多数いるし、何となくそうなる事もあるらしい。

真知子と昌信がくっつこうが、各々ふしだらな遊びにふけこもうが、理乃の知った事ではない。

互いに大人なのだから、合意の関係ならば他人の理乃が五月蝿く言うものでもない。

理乃自身は興味がないが、友人達も大人になっていく。

元から歳上の友人が多い理乃はその辺りの理解も許容も早い。

自分の価値観を押し付ける気が皆無なので尚更。

自分の価値観を理解して欲しいというのもなく「人それぞれ」と纏めてしまう。

合わなければ合わないで問題ないのだ。

許容出来ないのなら離れればいいだけのこと。

懲りた(・・・)理乃は雪以来、誰かに固執も執着もしない。

大事にはするが、それが本人と合致しなければ相手の意志を優先する。

大事な友人だろうが、本人が望んでいるなら、基本的に放置である。

例え不倫だろうが、浮気だろうが、精欲処理の関係だろうが。

大人になれば「女性が一方的に弄ばれている」だけじゃない事を知る。

理乃には分からないが「女性にも精欲があり、男を食う」ポジションの人間も、理乃の知り合いにはいたので「そういうものか」と許容した。

放置されても困らないのは、最初に怯えたことなど忘れたかのように、イケメンエリートに機嫌が良い真知子だけであった。

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