~決めるのは誰?~
理乃は確かに相談者には向いているかもしれない。
他人との関係性が薄れ、その場限りの浅い関係。
そんな中、真面目に向き合い、話を聞いてくれる人間がどれだけいるだろうか?
だが、一部の人間には猛毒にしかならない。
価値観を根底からひっくり返される。
ちゃぶ台返しの如く。
または、彼女の「是」がないと不安になる人間も現れる。
彼女の母親のように。
まぁ、あれはごく少数だとは思うが。
母親は良くも悪くも彼女に近過ぎた。
友人関係を望んだ母親は理乃によく愚痴や相談をした。
理乃の提案に「そんなの私には出来ないもん!」と喚き「好きに動けば良い。自分で選び、決めれば良い」と答えれば「なんでそんな酷い事いうの?!見捨てないで!!」と泣き着いた。
武田の元へ訪れては「娘が冷たい。出来ない事ばかり要求するんです。夫や息子は話なんて聞いてもくれない」と泣き崩れた。
「大変だね。そのままで良いよって、なんで言ってくれないの?」と。
女性は共感して欲しくて会話をする。
それがコミュニケーションとなる。
だが、男性は相談されたら、その解決策、もしくは対策案を考える。
それが信頼関係などのコミュニケーションとなる。
女性と男性が会話したら、女性から見たら「そんなの求めてない。話を聞いてくれればいいだけ」という女性が多い。
最も、深く聞くと、そこに労わりやら賞賛が欲しいというのが分かるのだが。
反対に男性は「何でその話したの?意味あるの?どうして欲しいの?」と混乱する人が多いだろう。
慣れれば、適当に上辺だけ合わせた返事をするようになるだろうが。
理乃はどちらにも対応が出来る。
根本的には男性よりの思考回路だが、慣れと経験、分析でどちらも理解出来る。
だが、肝心の感情には無頓着だ。
「ダイエットがしたい。途中でつい挫折しちゃう」という話には「間食辞めれば?」と答える。
「夫が…」という愚痴には「どうしても我慢出来ないなら別れれば?」という。
正論だが、極論すぎる。
相手が母親だろうが、それは変わらない。
母親が父親の愚痴を言うと「なら別れれば良いだろ」と答える程だ。
大真面目に答えているから厄介だ。
「理乃、そろそろ話てもいいかな?」
「好きにしろ」
食べるのはひと段落着いたらしい。
良かった。
「まず、忠告、というよりは進言かな」
「あ?」
昔の方が口数は多かったな…。
「真知子君にいつまで雑用をさせるつもりだ?いくら就職難とは言え、弁護士資格があるならば、どうとでもなるだろう。こんな所で腐らせていては勿体無い。真知子君がいなければ、今までの仕事量で食べていけるだろう。何も今直ぐ追い出せとは言わない。新しい勤め先が見つかるまで面倒を見るくらいなら構わないが、彼女の居場所はここだけではないだろう?」
「それで?」
「真知子君には転職を勧める。そして、理乃。君は今抱えている案件はキャンセル、もしくは真知子君に対応させなさい。新しく予約を受付るのも無しだ」
僕や兄さんからの依頼で充分なほど稼いでいる。
それに、別件でも稼ぎがある。
「俺は構わないが。マチの件はお前が言え」
「雇い主はお前だろう?」
「提案者はお前」
「他所の社員に指示出来るか」
「じゃあ言うな」
そうなんだが。
それではお前の為にも真知子君の為にもならないだろう。
そんな事くらい、理解しているだろうに。
「反対なのか?」
「いや。俺もいつまでも雇うつもりはない。落ち着いたら復職するだろ」
その真知子君が、復職する気がないと気付いていないのか?
居場所をここに定めようとしているのを。
文句を言いながらも、ここでやっていくと元気に宣言していたのを。
それとも、付き合いが長い理乃には別の未来でも見えているのか?
「同じ意見なら、何故言わない?」
「決めるのは本人だろ」
タイミングも何もかも。
マチの性格では、いつまでも凹んだままでいたりはしないだろう。
就職先がなければ、起業する気概くらいあるだろ。
マチの選択肢に諦めはない。
死を選ばない。
選択肢にすら浮かばない。
なら、どうとでもなる。
その時期がいつかは知らない。
それを決めるのは本人で俺じゃない。
「わかった。この件は僕がそれとなく言っておく。ただし、お前が他の案件に関わるのは無しだ。真知子君を置いておくのならば、経験を積ませる為にもその方が良いだろう。お前が対応するより、両者の為にもなる」
どうしてこうも頑ななのか。
兄さんにも事前に相談した。
「変わらないね。あの子は」と月を見上げて終わり。
今日の事も含めて、改めて相談しよう。
僕ではまだ届かない。
兄さんと理乃しか知らない何か。
二人だけに通じている何か。
僕にはそれを聞く権利はない。
けれど、何かを知っている兄さんなら、理乃を説得する方法も知っているかもしれない。
「さて。仕事の話だ。週明けに時間は取れるかい?」
「んー…。まぁ、昼間なら大丈夫だろ」
なら良かった。
この時期の理乃は何かと忙しい。
スケジュールの確認をし、家に帰った。
家に帰り、兄さんに電話で今日の事を掻い摘んで話した。
その上で、真知子君についての処遇を相談し、理乃の背中を押して貰えないかと頼んだ。
兄さんの事だ。
上手いことを言って納得させてくれるだろう。
そう思った。
どう考えても、今の状況は理乃の為にも真知子君の為にもならない。
兄さんだって分かってる筈だ。
それなのに…
「相変わらず、お前はバカだね。いつになったらマシになるんだい?お前はあの子の何を見ているの?そんなことあの子に言わせようだなんて、残酷にも程があるよ。ま、どうしても邪魔なら、お前からその子に、自分の考えとして伝えるなら構わないとは思うけれどね。余計なお世話と言われてお終いだよ。じゃあね。俺はお前と違って忙しいから。良い加減、身の程を弁えなよ」
一方的に電話を切られた。
僕が間違っている?
確かに、リストラされたばかりの女性に転職を勧めるのは酷かもしれない。
だが、折角苦労して弁護士になったのだ。
ただの雑用で終わらせるのは勿体無いだろう。
活かせる場所は幾らでもある。
元気で前向きな彼女の事だ。
それこそ可能性はいくらでもある。
だが、その可能性は時間が経てば経つ程狭くなる。
女性ならば尚更。
結婚や出産も待っているだろう。
あの二人の見ているの場所は、世間から遠く離れている。
ならば、それを少しでも正すのが自分の役目だ。




