表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
87/89

#5-20.灼熱の一閃! エクスカリバー

【前回までは】

ドクター・ハーバードの死体工場に乗り込んだルー、フェイ、薔薇の騎士のランサー。

彼女たちに、ハーバードが作り上げたイモータル7の軍団と不死の巨人ジオマグスが襲いかかる──



     1



 ジオマグスの両手がフェイの小さな身体を握りしめる。

 骨が軋み、ひび割れる。


 だが、そんな音はフェイの耳には届いていない。いま彼女に聞こえているのは、あの日の声──


 ──あなたの名前はフェイよ。あなたは小さいけれど誰よりも強い。


 自分に名前をくれた、幼い少女の声だった。


「がぁああああっ!」


 フェイの口から絶叫が上がる。

 だがそれは断末魔の叫びなどではなかった。


 怒れる獣の咆吼、敵を打ち倒さんとする戦士の雄叫びだった。


「ば、馬鹿なっ!」


 ハーバードの眼が驚愕に見開かれた。


 フェイを握りつぶさんとするジオマグスの両手が押し広げられている。

 圧倒的な体格差と筋力のジオマグスが、小さなメイドに力で負けているのだ。


 次の瞬間、フェイの姿が消えた。ジオマグスの手から脱した彼女は大きく跳躍し、


「っりゃあっ!」


 ジオマグスの首筋に回し蹴りを叩きつけた。


 砲弾が撃ち込まれたような音とともにジオマグスの巨体が吹っ飛び、壁際の資材の山に突っ込んだ。


「あり得ない…!」


 驚きに目を見張るハーバード。その視界の隅に銀色の閃光が走った。


 そちらを見たハーバードはまたも驚愕した。


 12体いたイモータル7のうち6体が、首や四肢を切り落とされ、地に伏しているではないか。


 イモータル7がルーに襲いかかる。

 だがそれは速いだけの直線的なものだ。


「動きが雑」


 ルーは容易く、優雅に攻撃をかわす。同時にその手から細い銀の光が放たれ、イモータルを斬り裂いた。


 ──多節刃(フレキシブルブレード)


 ルーが手にしているのは多節鞭と呼ばれる中国の武器を改良したものだ。

 オリジナルは短い金属棒を鎖でつないだ武器だが、ルーが手にしているものは長さ3メートルの内、先の1メートルほどが金属棒ではなく刃になっていた。扱う側にとっても危険極まりない武器だ。


 ショルダーマントを翻し、イモータルたちが襲いかかる。


「能力はあっても中身がない」


 ルーは軽々とかわし、両手の多節刃を振るう。

 変幻自在の閃光は、絡みついた四肢を血と肉片を散らして切り落し、叩きつけるように振るえば脳天から股間まで唐竹割りにする。


 凄まじい威力。そしておそろしく(むご)い。そのためルーはこの武器を滅多に使わないのだ。


「避けも防ぎもしない木偶(でく)の坊」


 ルーの言葉の通り、イモータル7たちはただ正面から向かって来るだけだ。

 血煙を上げ、四肢を首を切り落とされてイモータル7は次々と斬り伏せられて行く。


 身体能力が高いだけでは、何年も技を磨き、実戦で鍛えられたルーの敵ではなかったのだ。


 最後の2体がまとめて首を切り落とされ、イモータル7は全滅した。

 ルーは左右の多節刃を優美に振るって血を振り落として両手を軽く上げた。しゃらら…と微かな金属が触れあう音を立て、多節刃は左右の袖の中に吸い込まれるように仕舞われる。


「2対12ですって? 1対12でも余裕よ!」



    2



 ジオマグスの出現で、薔薇の騎士のランサーが工場の奥へと移動した。


「い、いまだ!」


 今なら入り口からに逃げられるとみたホワイトが駆けだし、他の資本家たちもその後に続いた。


 太った巨体でできる限りの全力疾走でホワイトはブラックボイラーにたどり着き、乗り込んだ。


「出せ! バージハウスに行くんだ!」


 ホワイトの命令で、それまで微動だにしなかった御者が馬車を出した。

 この御者もイモータル8だったが、幸いハーバードが発した停止信号の範囲外にいた。


 一方、他の資本家たちはそうはゆかなかった。

 彼らの運転手と御者はとうに逃げだしていて、馬車と蒸気自動車だけが残されているだけだ。


「待ってくれ!」

「おいてかないでくれ!」


 泣き声を上げてホワイトのブラックボイラーを追う。


 ところがホワイトを乗せたブラックボイラーも、死体工場を出ていくらもしないところで大きく揺れた。


「なんだ?」


 ホワイトが客車の窓から見ると、御者台に若い男が乗り込んでいた。


 男は御者を蹴り落とすと手綱を引いて強引に馬車を止めた。


「ミスター・ホワイト! モリーは無事か?」


 ガラードが客車のドアを殴り、叫んだ。


「おのれ! 記者ふぜいが…!」


 ホワイトは歯ぎしりする。

 しかしすぐに邪悪な笑みを浮かべると、霊波通信機につながる金属帽をかぶった。


「そいつは…!」


 ほぉお……ほぉお……。


 冬の風のような乾いた呼吸音が迫って来る。


 破られた死体工場の入り口から、何十というイモータルたちがやって来る。


 先ほどハーバードによって行動不能にされたイモータルたちだ。停止信号が停まっていることをホワイトは車内の霊波通信機を見て知ったのだ。


「この野郎っ!」


 御者台から降りたガラードはホワイトの乗る客車のドアを開けようとした。だが内側から掛け金がかけられたかドアはびくともしない。


 ほぉお……ほぉお……。


 死者の軍団が迫って来る。


 ガラードは覚悟を決めると地上に降り立ち、イモータルたちと向かい合った。


「我が忠実なる労働者たちよ。この記者を捕らえて引き裂け!」


 ホワイトがイモータルたちに命じた。



     3



 エーテル血清を製造するプラントから大きな炎が吹き上がる。

 死体工場の炎は勢いを増してゆく。


「勝ったつもりか! 薔薇の騎士!」


 ハーバードが叫んだ直後、ジオマグスが立ち上がった。


「言ったはずだ! ジオマグスは不死身だと!」


 フェイの一撃でジオマグスの包帯はあちこちがたわみ、外れてその中身が見えている。


 ジオマグスの顔には目も鼻もなかった。それどころか皮膚もない。むき出しの筋肉の中、大きな裂け目のような口があるだけだ。


 皮膚がないのは全身もだった。あちこちゆるんだ包帯の隙間から赤黒い筋肉がのぞいている。エジプトのミイラのように全身に包帯が巻かれているのは皮膚の代わりだ。むき出しの筋肉を乾燥から守っているのだ。


 赤黒い筋肉の中から、ぎょろりと目玉が現れた。ジオマグスの全身に筋肉に埋もれていた何十という眼球が現れた。

 きょろきょろと周囲を見回す眼球、そのすべてがランサーのほうを向く。


 しゅうぅう…ジオマグスが蒸気のような息を吐いた。


 次の瞬間、突き出した右腕が10メートルあまりも伸びてランサーを襲う。伸びるほどに右腕は細くなり、また身体の左側が縮む。


 こいつは身体を自在に変形できるのだ。人型は仮の姿だ。


 伸びてきた右腕をかわし、ランサーがリボルバーライフルを放つ。


 今度の弾丸は焼夷弾だった。

 ジオマグスの胸に着弾すると同時に発火、巨人の胸に炎が広がる。


 体内から焼く炎に、さしものジオマグスも苦鳴を上げる。しかし──


 炎はすぐに消えた。

 急速再生した筋肉が炎を包み込み、酸素の供給を断つことで消火したのだ。


 ジオマグスがランサーに向かって来る。左右の腕が同時に伸び、巨大な蛇のようにランサーを襲う。

 ランサーは右腕をかわし、左腕はライフルで払いのける。


「不死身と豪語してもやはり火には勝てぬようだな」


 ヴィヴィアンのヘルメット内に基地アーセナルにいるドクター・マーリンの声が響いた。


 メイドたちからの霊波通信で戦況を聞いていたのだ。


 両腕をうねらせジオマグスがランサーに迫る。


「ランサーの武器で倒せますか?」


 マーリンのそばにいた執事のボールスが問う。


「施設破壊用に予備の弾倉は焼夷弾と炸裂弾にしてある。すべて叩き込めば倒せるぞ」


 次々とくり出される攻撃をよけ、払いのけながらヴィヴィアンは不敵な笑みを浮かべた。


「そんなのまだるっこしい! ──ドクター、〈エクスカリバー〉は使える?」


 ヴィヴィアンからの通信に、ボールスとマーリンは目を見開いた。


「ヴィヴィアンさま、あの装備は動作テストもまだで──」

「うほほほ! 使える! 使えるとも!」


 たしなめようとするボールスを遮り、マーリンが歓喜の声を上げる。


「ただし可動時間は1秒前後。オーバーすれば最悪、右腕が吹き飛ぶぞ!」

「充分!」


 ヴィヴィアンは操縦席の新たに設けられたスイッチを入れた。


「我が姉妹を侮辱したあの男には、絶対的な敗北を与えてやる!」


 真空フロギストンエンジンがうなりを上げ、背中の排気筒から白煙が吹き出す。


 両腕ばかりか首までも伸ばし、ジオマグスがランサーに迫る。左右の腕、牙を剥く頭、三方からの攻撃だ。


 ランサーはリボルバーライフルを捨て、右の拳を握りしめた。右腕が震え、拳の後ろ、前腕部分のカウルが開く。次の瞬間──


 ──ランサーの右腕から光る剣が出現した。


 それは太陽のようにまばゆく、幻のように揺らめいていた。


「はぁあっ!」


 ヴィヴィアンの気合いと共にランサーが光る剣を一閃した。

 迫るジオマグスの両腕と首がまとめて切り飛ばされ、返す刀で胴体が両断される。強靭なジオマグスの身体が、バターでも切るように簡単に斬り裂かれた。


 ──超エーテル荷電放射装置。通称〈エクスカリバー〉。


 真空フロギストンエンジンの膨大なパワーでエーテルを第四物質状態化し、数万度の刃とする装置である。


 一定の出力で放射し続けることができずお蔵入りしていたものが、時計職人ソイヤーの指導を受け完成した水晶振動同調装置により実用化されたのだった。


 それは太陽の輝きを地上に再現したものであり、この剣に切れぬものは存在しない。まさにランサー最強の装備であった。


 ジオマグスを斬り伏せたランサー、右腕の〈エクスカリバー〉がふっと消えた。直後、装置から火花が上がり、一筋の煙が上がった。


「吹き飛ぶのはまぬがれたようね」


 ふうとため息をつき、ヴィヴィアンは笑った。


 分断されたジオマグスの身体が地響きを立てて倒れた。

 断ち切られた身体はいまだ動いていたが、その動きは弱々しく、すぐに動かなくなった。再生能力以上のダメージを負ったからだ。


「ば、馬鹿な!? 僕のジオマグスがぁあああっ!」


 動かない肉塊となり果てたジオマグスに、ハーバードは膝からくずおれた。



ピンチは力業で粉砕する!


ついに登場、ランサー最強の武器エクスカリバー。

19世紀には「プラズマ」という言葉がないため苦労しました。^_^;


ここまでお読みいただきありがとうございます。

よろしければブクマ、評価、リアクション、感想、レビューなどをお願いします。

質問やツッコミも大歓迎ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ