#5-19.不死の巨人ジオマグス
【前回までは】
ヘルファイア倶楽部の資本家たちがコープスシンジケートだった。
謎の巨人に捕らわれたモリーは、アジトの死体工場でドクター・ハーバードと対面。そしてなぜかジョアンナの意識とシンクロする。
死体をイモータル8に加工するプロセス。そこにフェイが殴り込んできた──
1
「な、なんだこのガキは?」
乱入してきたフェイにホワイトは目を剥いた。
フーっ! と怒りの息を吐いてフェイは死体工場の中に入る。その後ろにルーが続く。
「取り押さえろ! 八つ裂きにしてしまえ!」
死体の加工をしていたイモータルたちが、ホワイトの命令でフェイとルーに向かって行く。
フェイは近くにあった蒸気自動車を持ち上げると、
「っりゃあっ!」
気合いと共に、迫るイモータルの群れに向かって投げつけた。
3,4体がまとめて下敷きにあるいは吹っ飛ばされる。近くにまで転がって来た自動車に資本家たちが悲鳴を上げる。
残ったイモータルの中にルーが飛び込み、手刀で、蹴りで、片端からノドを潰してゆく。
舞うような優美な動き、そして機械のような精確の攻撃だった。
たちまち死体を加工をしていたイモータルは全滅した。
「くそ! 出てこい! ヤツらを殺せ!」
霊波通信機の金属帽をかぶったホワイトが叫び、蒸気トラックから、そして奥の扉から続々とイモータルたちが現れる。
ほぉお……ほぉお……。
何十というイモータルの上げる呼吸音がルーとフェイを押し包む。
さしものふたりも数に圧倒される──と、思いきや、
「邪魔をするなぁああっ!」
押し寄せるイモータルの群れにフェイは正面からぶつかった。5体、10体とまとめて押し返してゆく。とんでもない怪力だ。
その横では、ルーが優美な動きで1体、また1体と確実に倒して行く。
奥から出て来たイモータルには女性も数体いた。ジョアンナの世話をするための言わば侍女のイモータルだった。
その中の1体に、ルーの目が見開かれた。
ほぉお……ほぉお……。
乾いた呼吸音とともにルーに迫るのは、連れ去られた娼婦のメアリーだった。
ギリ…っとルーは歯を噛みしめると、メアリーのノドを手刀でつぶした。
──ごめんなさい。
心の中で詫びた後、ルーの顔から一切の感情が消えた。
感情を押し殺し、ルーは眼前のイモータルを殲滅することに注力する。
ノドから血しぶきを上げ、次々とイモータルたちが倒れてゆく。
優美な動きはそのままに、鋭さを増したルーの手足は刃と化してイモータルを殲滅していった。
「なんなんだこいつらは?」
「に、逃げよう!」
資本家たちが、フェイたちと反対側、奥に、裏口へと向かって逃げようとしたところに砲声が轟いた。
大扉がぶち破られた入り口に真紅の大型モーターサイクルが現れた。
「薔薇の騎士!」
車体右側面のリボルバーライフルから硝煙がたなびかせ、薔薇の騎士のランサーが工場に入って来る。
「動くな金の亡者ども。悪行の報い、受けてもらうぞ」
機械加工された冷たい薔薇の騎士の声に、ホワイトたち7人の資本家は震え上がった。
2
ランサーを駆る薔薇の騎士の登場に資本家たちは腰を抜かした。
しかしハーバードはまったく動じていなかった。
「信じられない! この2体もセブンじゃないか!」
いや彼の目にはランサーは映っていなかった。死の医師は目を輝かせ、ルーとフェイを見ていた。
「お前は703-A、そっちは704-Cだな。僕は手がけた実験体を忘れないんだ」
イモータルと戦うルー、フェイを指差してハーバードが言う。
「何があった? どうやってお前たちは自我を得た? こいつらを調べれば、最後の壁が突破できるかもしれない。完全なるイモータル、ジョアンナの完全復活が!」
両手を広げハーバードは歓喜に震えた。
「それは無理というものよ。ドクター・ハーバード」
「お前をここで八つ裂きにしてやる!」
戦いながらルーとフェイが言う。
「出来損ないが…僕に逆らうか!」
ハーバードの眼鏡の奥にある瞳が怒りに染まった。
「忘れたのか? 僕はお前たちの創造主だぞ!」
ハーバードが霊波通信機にあるスイッチのひとつを操作した。
目に見えない力が放たれた。
薔薇の騎士のヘルメット内にザリザリという電気ノイズが鳴る。霊波通信機に異常が起きているのだ。
その場にいたイモータルたちが硬直し、次々と倒れる。
鎖で吊されたモリーが声にならない悲鳴を上げ、気を失った。
「何の備えをしていないと思ったか? 愚か者め!」
イモータル6──暴走し、獣と化した失敗以降、ハーバードは死者たちにある仕掛けを施していた。
ハーバードは白衣のポケットから、コインほどの小さな金属プレートを取り出した。それは工場の照明を受けて鈍い銀色の光を放った。
「ヒドルミナのプレートだ」
「霊波に感応する金属を埋め込み、イモータルの脳を受信機にしたのか」
薔薇の騎士がつぶやく。
15年前、ベンウィック邸で研究していた際、ハーバードは霊波通信機の存在を知り、それを死者のコントールするのに利用していたのだ
「よく知っているな。イモータル7以降、すべての実験体の前頭葉にはこのコントロールプレートを埋め込んである。もし暴走しても、スイッチ一つで脳を強制停止するためにな。死者を操ったり、特定の労働を書き込むことが出来たのは思わぬ副産物だったよ」
モリーたちの頭痛の原因はこれだった。
ハーバードがイモータルたちを操る霊波が、モリーたちの脳に干渉して不調を引き起こしていたのだ。
「お前の手下たちは、どういうわけか自我がある。そのため僕のコントロールを受け付けない。だがこの通り、行動不能にすることができるんだ」
得意げに語るとハーバードは、
「お前の負けだ! 薔薇の騎士!」
と、宣言した。しかし、
薔薇の騎士──ヴィヴィアンは笑った。
「邪魔ものを片付けてくれて感謝する。ドクター・ハーバード」
その言葉が終わると同時に、ルーとフェイが動いた。
ルーは大きく跳躍すると配管や装置を踏んで更に跳躍。溶解槽の上に吊されたモリーへと跳んだ。
キンっ! と微かな金属音が鳴って鎖が断ち切られる。モリーを抱いたルーが溶解槽の横に着地した。
「そりゃあぁっ!」
フェイが近くにあったドラム缶を持ち上げ、イモータルの製造施設に投げつけた。
タンクと配管の集合体に投げつけられたドラム缶がひしゃげ、その中身の液化石炭が飛び散る。電気の火花で発火し、化学プラントが炎に包まれる。
「何故だ? 何故効かない!?」
驚愕するハーバードに、ルーとフェイは前髪をかき上げて見せた。
ふたりの額には真新しい縫合痕があった。
「あの穢らわしいものなら、とっくに取り出してるわ!」
× × ×
ブロンズストリートで回収したシーム──イモータルを、ドクター・マーリンが解剖し、その脳にヒドルミナのプレートが埋め込まれているのを見つけた。
確認のため、マーリンがフェイの頭を開くと、はたして脳には鈍い銀色のプレートが埋め込まれていた。
「件の頭痛の原因はこれであったか! ヤツは霊波通信で死者たちを操っておったのじゃな。おぬしらは自我がある故操られることはなかったが、脳に負荷がかかり、それが頭痛と身体機能の低下を招いたのだ」
「寿命じゃなかったんだ…!」
フェイは安堵し喜んだが、ルーは激怒していた。
「私たちはヴィヴィアンさまの姉妹。ハーバードの操り人形じゃない!」
自分の中にハーバードが仕込んだ装置があることが、ルーは許せなかった。
ルーはメスとノコギリを手に取り、自ら頭を開いてヒドルミナのプレートを取り出すと、それを床に叩きつけたのだった。
3
プラントが燃え、爆発音が上がる。
ホワイトたち資本家が悲鳴をあげた。
今やイモータルのすべては倒されるか昏倒しており、残っているのはハーバードの傍らにいるジョアンナだけだ。
しかしハーバードは動じるどころか、歓喜の笑い声を上げた。
「大したものだ! ますますお前たちを調べたくなったぞ!」
狂気に眼をぎらつかせハーバードは叫んだ。
「出てこい! ジオマグス!」
直後、微かに工場が微かに震えた。床の一部が扉のように開いてゆく。
かつて造船所だったこの建物は、ドック部分を床板で覆い地階とした。そこには蒸気機関、発電機と共にハーバードのおそるべき研究成果が隠されていたのだ。
開いた穴から、巨人が身を起こした。
その身長はおよそ6メートル。全身を白い包帯に巻かれた姿はエジプトのミイラを思わせる。
ブロンズストリートで闇の中にいた巨大な存在、そして運河でモリーを捕らえたのはこいつだったのだ。
「これがジオマグス! 100体以上の死体の筋肉、骨、臓器を合成して作った完全なる生命体だ!」
ジオマグスの頭がランサーとメイド姉妹たちのほうを向いた。
包帯に包まれたその顔に目はなく、牙が並ぶ裂け目のような口だけがあった。
「──っ!」
異様な殺気。
ヴィヴィアンは咄嗟にランサーを走らせた。
その直後、ランサーがそれまであった場所にジオマグスが地響きを立てて着地した。
身を起こした状態から予備動作なしで10数メートルの距離を飛んで、ランサーを踏み潰そうとしたのだ。
工場の奥に進んだランサーは高圧噴流を吹き出して前輪を持ち上げ、変形する。
車体中央部が折れ、カウルが移動して乗り手を覆う。エンジンブロックは背面に移動し、後部ユニットが手足へと変わる。
180度ターンしながら、ランサーはモーターサイクルから機械の騎士へと変形、ジオマグスへ向き直った。
「わぁっ!?」
フェイが驚きの声を上げた。
ジオマグスの右腕が10メートルほども伸びてフェイに襲いかかったのだ。
予想外の攻撃にフェイは回避できず巨大な手に捕まってしまう。
右腕はフェイを捕らえたまま、あっと言う間に元の長さに戻った。手の中のフェイを見て、ジオマグスの裂け目のような口が笑いの形に開かれる。
「フェイ!」
助けに駆け出そうとしたルーの前に、天井から人影が降り立ち、立ちはだかった。
頭に縫い目があるイモータルだが、これまでの者たちとは違った。警官が着るようなショルダーマントを身に着け、大型のナイフや手斧を手にしている。
何よりの違いはその身のこなしだ。10メートル以上の高さから着地したのに、よろめきもしない。
天井の梁を走り、やって来た新たなイモータルたちが、ルーとモリーを囲むように降り立つ。その数12体。
「こいつら──!」
「私たちと同じ…!」
身構えるルーと、いまだ身体が自由に動かずなんとか立ち上がるモリー。
ふたりには分かった。
こいつらはイモータル7だ!
「そうだ。2対12、お前たちに勝ち目はない」
ハーバードがせせら笑う。
同じイモータル7なら女が力で男に勝てるはずがない。まして2対12では勝負にすらなるまい。
「殺しはしない。手足を切り落とし、何故自我を持ったのか、後で詳しく調べてやる」
ハーバードが目を輝かせて言う。
ランサーのリボルバーライフルが火を噴いた。
肩の辺りに一撃をくらったジオマグスがよろめく。
だが、それだけだった。フェイを放すこともなく、肩に受けた傷もみるみるふさがって行く。
「ムダだ! ジオマグスは不死身! イモータルが目指すもうひとつの究極、完全なる生命体だ!」
高らかにハーバードは言って命じた。
「──握りつぶせ」
ジオマグスはフェイをつかんだ右手に左手を重ね、握りしめる。
フェイの口から絶叫が上がった。
ついにその全貌を露わにした謎の巨人ジオマグス。
モデルのひとつはTVアニメ『ガッチャマン』のopにちらりと出て来るミイラ巨人です。古いっ!^^
もうひとつはバロウズの火星の巨人ジョーグ。死体を集めた巨人というとグインサーガの外伝にも出て来たっけ。
ここから最終決戦!
どのように逆転するか、乞うご期待!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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