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#5-17.水底の怪物

【前回までは】

記者ガラードは編集長からタイタン海運の一斉解雇を取材するよう命じられる。やって来たバージハウスで、ガラードは、タイタン海運のホワイトと資本家たちがコープスシンジケートだと知る。彼らの目的は、蘇らせた死者を「理想の労働者」として使うことだった──



     1



「これはイモータル8。蘇った死体です。彼らは痛みを感じない故にその力は生前の3割から4割増しです」


 ホワイトが得意げに語る中、港のジグクレーンが動き、船からパレットに載せられた麻袋や木箱を陸の小型の台車(トロッコ)へと下ろした。


 トロッコのロープをシーム──いやイモータルたちが5,6人で引いて貨物列車の元へと運んでゆく。

 クレーンが動き、次のトロッコに貨物を下ろす。


 ほぉお……ほぉお……。


 トロッコを引く何十というイモータルの呼吸音が、夜の埠頭に満ちる。

 イモータルたちはよどみなく貨物の乗ったトロッコを引き、貨車に荷物を積む。


「ミスをせず、文句を言わず、ストライキを起こすこともない。何より給料が要らない! これぞ資本家にとって理想の労働者です!」

「これだけの死体をいったいどこから?」


 資本家の一人が尋ねた。


「死体なぞ貧窮院や植民地でいくらでも手に入ります。生きていても何の役にも立たない連中ですが、我らと国の利益に貢献できるなら生まれてきた意味があるというものです。いや死んだ意味がある、というべきかな?」


 ホワイトの言葉に、資本家たちから笑い声が上がる。


 こいつらがコープスシンジケート。

 これが大量の死体の使い道だったか!


 物陰から伺っているガラードは強い怒りがこみ上げた。


 ホワイトはブラックボイラーの前に移動するとそのドアを開けた。

 黒い馬車の内部、その半分は奇妙な機械で占められていた。


 多くの歯車が噛み合う複雑な姿はディファレンスエンジンを思わせる。違いは機械上部にいくつものガラスの円筒があることだ。円筒には液体が詰められており微かな光を放っている。蒸気機関はこいつの動力源だったのだ。


「より複雑な仕事をさせる場合はこの機械を使います」


 ホワイトは馬車に上がると、金属でできた帽子のようなものをかぶった。金属帽はコードで機械と繋がっている。


「これは霊波通信機。見えない力でイモータルの脳に繋がっており、彼らを思うままに動かすことができます。──お前、こちらに来い」


 ホワイトの命令で、近くのイモータルが馬車の前にやって来た。痩せ細ったその身体は、生前は貧民かホームレスだったのだろう。


「そこで四つん這いになれ」


 馬車のすぐ前で四つん這いになったイモータル。ホワイトはその背中を踏みつけ、馬車から降りた。


「生身であればこのやせっぽちの男は潰れていたでしょう。しかしイモータルはご覧の通り。120キロの私が乗っても大丈夫!」


 四つん這いにしたイモータルの上で笑うホワイト。資本家たちも笑い声を上げる。

 醜悪なんて言葉では足りない。おぞましい笑顔だった。


 ガラードは怒りと嫌悪で胸が悪くなった。


 貨物の積み込みが終わり、イモータルたちはぞろぞろとまた貨物船へと帰って行く。


「次はこのイモータルを製造し、教育する現場をお見せしよう」


 ホワイトはそう言うとまたブラックボイラーに乗り込んだ。資本家たちもそれぞれの馬車や蒸気自動車に乗り込み、後を追う。


 馬車や蒸気自動車のランプやライトが列を作り、埠頭から離れて行く。


 ガラードは物陰から出ると、その資本家たちの車列を追って駆け出した。


「案内してもらおうじゃないか。そのアジトにな!」



     2



 埠頭を出た資本家たちの車列は北へと向かった。


 ガス灯が少ない場所だからアセチレンランプを灯す車の列は遠目にもそれと分かる。また暗いためそれほどスピードを出していない。

 おかげでガラードが走って追いかけることができた。


 10数分ほどして馬車と蒸気自動車の列は運河沿いの道へと出た。


 ──バージカット。


 キャメロットの北を流れるレイガン河とホムズ河とをつなぐ接続運河だ。

 幅25メートル弱の運河の両岸には大きな倉庫と工場が並んでいる。工場の多くは液化石炭、消毒剤といった化学・可燃物関係のものだ。


 かつては造船業が盛んであったが、近代化でより大きな船が求められるようになった今、造船所の大半はドッグランズへと移っていた。


 ブラックボイラーに先導された車列が停まったのは、その閉鎖された造船所の前であった。


 大きな鉄の扉が開き、ホワイトら資本家たちは巨大な廃墟へと入っていった。


「ここがコープスシンジケートのアジトか」


 ガラードは息を整え、物陰伝いに近づいた。


 昼は両岸にある化学・燃料工場の操業音であふれる運河は、夜の闇の中で静まり返っている。液化石炭や消毒薬の化学薬品臭だけが昼間と変わらない。


 アジトに入ったホワイトが資本家たちに説明しているが、屋内にいるためか、ガラードにはよく聞こえない。


 ガラードはアジトの前に停めてある蒸気トラックに目を付けた。

 運河のすぐ近くに停めてあるそのトラックの荷台には幌がかかっている。あそこに潜めば会話の中身が聞き取れそうだ。


 ガラードは足音を忍ばせ、目標のトラックへと向かう。

 幸い、資本家たちの蒸気自動車と馬車からは離れていて、御者や運転手たちは背中を向けている。


 トラックにたどり着いたガラードの耳に、


「ドクターは外しているようだ。しばしお待ちを」


 というホワイトの声が聞こえた。


 ドクターというのはハーバードのことか? 留守なのか?


 心の中でつぶやいて、ガラードはすばやく荷台に上がった。


 トラックの荷台は闇に包まれていた。帆布の幌その左側だけがアジトからの光に照らされて明るい。


 ガラードがその幌の隙間をのぞき込もうとしたその時だった。


 闇の中で、音も無く何かが動いた。


「──っ!?」


 ガラードがその気配を感じた時は遅かった。

 何かが首にからみつき、彼の動きを封じてしまっていた。


 ──マズい!


 ガラードがそう思った時──


「……ガラードさん?」


 感情を欠いた美しい声が耳元でした。


「……モリー?」


 後ろからガラードの首を絞めていたのは、メイドのモリーだった。



     3



「ガラードさん…どうしてここに?」


 ガラードが潜り込んだトラックの荷台。そこにはなんとモリーが潜んでいた。


「タイタン海運が大量解雇をしたっていうんでその取材をしていたら、ヤバいものを見てさ。──ところで、そろそろ放してもらっていいかな?」

「失礼しました」


 言われてモリーは両腕でガラードの首を絞めたままだったことに気づいた。


「君こそどうしてここに?」


 モリーの腕から解放されたガラードが尋ねる。


「ヴィヴィアンさまのお使いで、たまたま通りかかった所、怪しい男たちがいましたので隠れていました」


 自分でも苦しい言い訳だと思いながらモリーは答えた。見た目はいつも通り無感情だが、割と動揺しているのである。


「君なら制圧できるんじゃないか?」


 ガラードの言葉に、モリーは、正体が知られたのかと緊張した。


「いや冗談。君がバーディツの達人でもあいつらは不死身だ。隠れて正解だよ」


 ガラードの冗談だった。ついでに心配もしている。


「ガラードさんが見たヤバいものとは何ですか?」


 ほっとしたモリーは、ガラードがどこまで知っているのか確認した。


「タイタン海運のホワイトが仲間の資本家たちにシームを披露していたんだ。ヤツはシームをイモータル、給料の要らない理想の労働者だって言っていた」


 吐き捨てるようにガラードが言うと、幌の隙間からアジトをのぞいた。

 ホワイトたちは奥に行ったのか姿は見えない。


「ヤツらがコープスシンジケートだったんだ。目的は、蘇らせた死体を奴隷にして労働者と入れ換えるためだ。ここがそのアジトってわけさ」


 そこまでつかんでいましたか……。


 モリーは心の中でつぶやくと、霊波通信でヴィヴィアンに連絡した。


「ドクター・ハーバードのアジトと思われる場所を見つけました。場所はバージカットにある廃墟の造船所です」

「すぐにランサーで向かうわ。相手の人数は分かる?」


 すぐにヴィヴィアンからの〈声〉がモリーの頭に届いた。邸でランサーの出撃準備をしていたのだ。


「その前に、ひとつ問題が」


 モリーは横目で、アジトの様子を窺うガラードを見た。


「ガラードさんが一緒にいます。彼はホワイト氏たちを追って、偶然、ハーバードのアジトを見つけ──」


 突然、モリーを重い頭痛が襲った。


 こんな時に!


 それはこれまでになく激しい痛みだった。モリーは意識を失わないようにするだけで精一杯だった。


「どうした? 具合でも悪いのか?」


 ガラードがモリーの異変に気づいた。その時だった。


 ふたりが潜む蒸気トラックが大きく揺れた。


「うおっ?」


 ガラードは反射的に右手でモリーを抱き、左手で荷台の(へり)をつかんだ。


 その直後、トラックは横倒しになり、運河へと落下した。押し寄せてくる暗い水にガラードとモリーは飲み込まれる。


 くそ…がっ!


 ガラードは右手でモリーを抱いたまま荷台から泳ぎ出た。


 幸いアジトからの灯りで水面は明るい。ガラードは水面を目指して必死に水をかいた。


 そのガラードの腕の中にいるモリーが、突然、身をよじった。


 彼女はガラードの腕を振り払うと、両脚でガラードを水面へと押し上げた。


 モリーっ!


 水面へと押し上げられながら、ガラードは信じられないものを見た。


 真っ暗な水底から巨大な腕が伸びてきたのだ。

 手の平だけで60センチ四方はあるその巨大な腕は、指の先まで包帯が隙間なく巻かれていた。


 その巨大な手が、モリーの細い身体をつかんだ。


 水底の巨人は、モリーを捕らえたまま岸に近づき、吸い込まれるようにして消えた。シンジケートのアジトがある方向だ。


 次の瞬間、ガラードの身体が水面に出ていた。


「モリーっ! くそぉおおっ!!」


 暗い運河にガラードの叫びが響いた。



ついに明らかにされたコープスシンジケートことヘルファイア倶楽部の目的。

これの原点は漫画版パトレイバーの


「資本家の夢って?」

「給料の要らない従業員」


のやり取りからでした。


『屍者の帝国』は原作を読んでいましたが、初期プロット作っている時はまったく頭にありませんでした。無意識に影響はあったかも?

小説本文書く際に、アニメも視ておこうと思ったのですが、サブスクにありませんでした。

残念…。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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質問やツッコミも大歓迎ですよ!

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