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#5-0.怪奇! 死者の叫び

スチームキャメロット5話、死者の軍団のはじまりです。

今回も1章で1話完結のスタイルです。

全23話、8万3千文字とちと長いですが、どうかお付き合いください。


それでは、異能のメイド姉妹たちの背景、狂気と愛が交錯する大活劇のはじまりはじまり~。



 その日は、朝から小雨の降る不快な日であった。


 8月に入ったばかりだというのに肌寒く、それでいて少し歩けば汗と湿気でシャツが肌に貼り付く。


 この日、ストランドにある大学クイーンズ・カレッジには大勢の人が集まっていた。


 この大学は早くから医学部が置かれたことで知られ、病理学、精神医学、そして解剖学に力を入れていた。


 医学部の半円形の講堂、その階段状の座席はほぼ満席で30人以上が着いていた。


 講堂の中心には大きなテーブルが置かれ、その上に若い女性の死体が乗せられていた。


 ──公開解剖。


 医学生への授業あるいは研究の成果や新たな学説を発表する場として公開解剖は行われていた。


 しかし今回はそのどれとも違った。


 階段状の席の最前列には様々な大学の医学教授、大病院の医師たちが。その後ろにはキャメロット警察の幹部が座っている。その他の見学者は新聞、雑誌の記者たちである。


 これから行われるのは検屍解剖。死因を特定するための解剖である。


 キャメロット警察は、科学的な視点で捜査を行う「科学捜査」ともいうべき部署を立ち上げようとしていた。

 大学や病院と連携して死因の特定をする検屍解剖もそのひとつだ。


「今日の死体は新しいな。まるで生きているみてぇだ」

「最近の保存技術は進歩しているからな」


 見学する記者たちがヒソヒソとしゃべりだす。


 地下鉄の遅延か、解剖を行う教授の到着が遅れており、退屈しているのだ。


「死体といえば…あの話しを知っているか?」


 タブロイド誌の記者が言った。


「その御者は、送り届けた客からジンをもらい、ご機嫌で馬車を走らせていたんだと。時間は真夜中。家に帰るのを待ちきれず、御者はジンが入ったフラスコに手を伸ばした。一瞬のよそ見…御者は道に出てきた婆さんに気がつかなかった」


 タブロイドの記者は「バンっ!」と言って自分の拳を手の平にぶつけた。


「婆さんをはねちまった。御者はご用となったんだが問題はその後だ。警察が婆さんの身元を調べたら、なんとその婆さんは何日も前に死んでいたんだ」

「死んだ婆さんをはねたってわけか?」

「記録のミスだろ。よくあるオチだ」


 近くの記者たちが言い合う。


「いいや違う。婆さんの遺族が認めたんだ。これは3日前に葬式を出して葬ったウチの祖母ですってな」

「まさか!」

「まあ、噂だけどな」


 タブロイドの記者はそう言って笑った。


「最近、その手の噂が多くねぇか?」


 別の記者が言った。


「オレが聞いたのは、夜の霊園で歌声が聞こえるってヤツだ」

「それ、確かめに行ったら、死んだオペラ歌手が歌ってたというヤツだな」

「先にネタバレするなよ!」

「墓荒らしが、暴いた棺桶の死体に噛みつかれたとかいうのもあったな」


 盛り上がる記者たち。その声はヒソヒソしたものから次第に大きくなっていった。


「下らん!」


 厳めしい声が記者たちのおしゃべりを遮った。


 解剖を担当する教授だった。

 到着したばかりで、その革靴は泥がこびりついている。


「ここは科学の殿堂だ。これから行うのはその実践だ。つまらぬ記事が書きたいなら他所へ行きたまえ」


 教授に一喝された記者たちは、校長先生を前にした子どもみたいに首をすくめ黙った。


 解剖のためのエプロンを着けた教授は、聴衆へと顔を向けた。


「かつて解剖はおそろしく、おぞましい行為と思われてきた。時に糾弾され、あるいは好奇の対象とされた。──間違いである」


 教授がじろりと記者たちを見つめると、彼らは居心地悪そうな苦笑を浮かべた。


「解剖は純粋なる科学の探究である。人体の仕組みを知り、病の正体を探り当て、医学を大きく発展させた。発展した医学は寿命を延ばし、乳幼児の死亡率を大きく下げた」


 その言葉に、最前列の医師、研究者たちが大きくうなずく。

 教授は続けて警察関係者たちの席へと顔を向けた。


「これから医学は犯罪捜査の力にもなりましょう。死因の特定は発覚しなかった殺人を見つけます。不幸にして殺人と間違われ、かけられた冤罪を晴らすことにもなるでしょう。このメスが切り開くのは、科学が警察の助けとなる、新たな時代なのです」


 芝居がかった演説の後、教授は解剖台の遺体に向き直ると、その首、頸動脈に手を触れた。


「脈拍なし。体温も生者のものではない。この検体は間違いなく死亡している」


 万が一を考えたか、記者たちへの当てこすりか。教授は死体であることを確認した。


「見たところ外傷はない。自然死か否か、それはこの遺体を開くことで分かるだろう」


 教授が検体の胸にメスを入れた。その直後──


 ──死体が目を見開き、絶叫した!


 かすれた笛の音のような、絞り出すようなおぞましい叫びを死体が上げたのだ。


 教授はメスを取り落とし、医師たちも警察幹部らも記者たちも恐怖にその身をすくませた。


 叫びは一瞬で終わり、検体は沈黙した。しかしその目は見開いたままだ。


「ば、バカな!」


 腰を抜かした教授が呆然とつぶやいた。


 見学する医師も警察関係者も記者たちも、たった今起きたことが現実だと信じられなかった。


 外の雨はいつしか強くなっていた。


 煤煙と蒸気に隠れた遠い空から遠雷が響く。

 暗い空から轟く遠い雷鳴はひどく不吉だ。


 それは、これから起きるおぞましい事件のはじまりを告げているかのようであった。



メスを入れられた死体が叫び声を上げる…!

今回、5話はこのイメージからスタートしました。

季節は夏ということでホラーテイストでお送りします。


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質問やツッコミも大歓迎ですよ!

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