#4-14.最後の切り札
【前回までは】
音響兵器ギャラルホルンでキャメロットの街を破壊するレッドノートの飛行船ザクソン。飛行船に密航していた記者ガラードとメイドのモリーは、ギャラルホルンを止めるべく行動を開始。そこに死の大天使ガブリエルが現れる──
1
「またお会いしましたネ。アナタ何者? 刑事サン? それとも探偵デスか?」
人なつこい笑顔でガブリエルがガラードに尋ねた。
「正義の新聞記者だ」
機関室のドアから足を引き抜き、ガラードはガブリエルに向き直る。
「オウ! 記者は大好きデース。ミーたちの活躍、世の中に広めてくれますからネ」
ゆっくりとガブリエルは後退した。
機関室のドア前は人一人がやっと通れる程度しかない。もう少し広い中央通路で戦おうと誘っているのだ。
ガラードは誘いに乗り、ガブリエルとともに中央通路に出た。広いと言っても人が2人並べば肩をぶつけるほどの広さしかない。
「だから、殺すの、とてもザンネンデース」
その言葉が終わるや否や、ガブリエルの前蹴りがガラードを襲った。
「とか言って、うれしそうじゃねぇか!」
右腕でガードし、ガラードは前に出て反撃の蹴りを放つ。
「ハッハァ! バレました?」
陽気に笑い、ガブリエルは後退してかわした。と思いきや、左右の足の二連続蹴りを放ちながら前に出る。
空中の狭い通路で、一進一退の攻防が続く。
負傷した左腕を三角巾で吊っているガラードは劣勢だった。浅いが拳を1発、蹴りを3発くらった。対してガブリエルは無傷だ。
「思ったよりやりますネ。もっと楽しみたいところですが──」
タンっ、とガブリエルが足を踏みならしてから蹴りを放った。
ガラードは後退してかわした…はずが、右腕に鋭い痛みが走った。
これは…!
右上腕を浅く切り裂かれている。
ガブリエルの靴を見ると、そのつま先から小さな刃が突き出ていた。靴にナイフが仕込んであるのだ。
「そいつがてめぇの切り札か!」
「サヨナラデス。記者サン!」
空気を切り裂き、刃の蹴りがガラードを襲いかかる。
× × ×
ザクソンのブリッジでは、ビッグ・ペンにギャラルホルンの照準を合わせたところだった。
水素を失い続けているザクソンの高度は地上100メートルほどにまで落ちていた。ビッグ・ペンよりわずかに高い程度の高さである。
「どうということはない。むしろ間近でビッグ・ペンの崩壊を見物できるというものだ」
鉄仮面のルーカスがうそぶいた直後だった。
飛行船が大きく揺れた。
そして何かに引きずられるように、横に動いて行く。
「何事か?」
「宮殿の上に何かがいます!」
ルーカスは左舷の観測双眼鏡をのぞき込み、声を上げた。
「あれは薔薇の騎士! ランサーか!」
2
ペンドラゴン宮殿はかつてキャメロット連合王国の国会議事堂であった。
15年前の大火災で半壊した宮殿は、建て直されるのではなく巨大な計算機関として生まれ変わった。
全長約 265 メートル、敷地面積およそ32,400 平方メートル。広大な建物の大半は無数の歯車が組み合わさった機械計算機ディファレンスエンジンとその関連設備である。
ビッグ・ペンの愛称で親しまれている時計塔は、このディファレンスエンジンのマスタークロックであると同時にキャメロット市ひいては全土の基準時計とされている。
そのため『ビッグ・ペン』の名は、財務省計算局の巨大ディファレンスエンジンひいてはペンドラゴン宮殿そのものとして使われるようになっている。
そのペンドラゴン宮殿本体の屋上に、人型形態のランサーがあった。
「モリーを返してもらうわよ」
ヴィヴィアンはつぶやくと、ランサーが両手で構えたロープランチャーを飛行船ザクソンに向けた。
ドンっ! と大砲のような音が上がり、ロープ付きのフックが撃ち出される。
フックがザクソンの外皮を貫き、構造材に引っかかった。
ヴィヴィアンはランサーの足を屋上の胸壁にかけ、ランチャーのウインチでロープを巻き上げた。
たちまちロープがピンと張り、機械の巨人と巨大な飛行船の綱引きがはじまった。
「このMk4、馬力はMk5にずっと劣るけれど、飛行船ごとき…!」
ヘルメットの中でヴィヴィアンが唇をつり上げて笑みを浮かべた。
× × ×
「っ!」
飛行船が大きく揺れ、左に傾いた。ガラードとガブリエルはとっさに手すりをつかみ、踏みとどまった。
「っりやぁっ!」
一瞬早く立ち直ったガラードが左の横蹴り、そして右のパンチを放つ。蹴りは牽制、ガブリエルの懐に飛び込むのがねらいだ。
しかしガブリエルは体を開いてガラードの拳をかわした。
両者の位置が入れ替わる。
ガラードは船首に、ガブリエルは機関室を背負って相対した。
「そろそろカタをつけまショウ」
ガブリエルの猛攻がはじまった。
左右の靴に仕込んだナイフ、刃付きの蹴りが連続してガラードを襲う。
「左ばかりねらいやがって!」
ガラードの三角巾で吊った左腕では攻撃はおろかガードもできない。ガブリエルはそこをねらって攻撃する。
「敵の弱点を突く! 戦いの基本デース」
口には天使のような笑み、眼には殺しの悦びの光をたたえるガブリエル。
フェイントからの鋭い蹴りがガラードを襲う。ガラードは避けられなかった。
つま先のナイフがガラードを切り裂く──!
「な…っ!」
ガブリエルが驚きに目を見開いた。
右の蹴りが切り裂いたのはガラードの三角巾だった。ガブリエルの右脚はガラードの左腕、その脇にがっちりつかまれていた。
ガラードはわざと隙を作り、ガブリエルの攻撃を誘導したのだ。
「おらぁ!」
ガラードは軽く飛び上がり、着地と同時に右の肘と左の膝でガブリエルの右脚を上下から挟み込んだ。
「があっ!」
着地の勢いを利用した一撃で、ガブリエルの右膝の関節が破壊された。
たまらずガブリエルは通路に転がった。
「こうなったら死の大天使も形無しだな」
「……ノン、ミーの勝ちデス」
苦痛に顔を歪ませながらガブリエルは笑みを浮かべた。
その手にはいつ抜いたのか、小型拳銃が握られていた。
「これがミーの切り札デス」
3
──ザクソンのブリッジ。
「あれは薔薇の騎士、ランサーか!」
観測双眼鏡をのぞき込んだルーカスは、ペンドラゴン宮殿の屋上に立つランサーを見つけ、目を見張った。
90メートルもあるザクソンが、身長4メートルのランサーに引き寄せられている!
4基の推進プロペラを回し、ザクソンは抵抗するがまるで敵わない。
ザクソンの推進プロペラは電気モーターで、蒸気エンジンからその電力を得ている。今その電力の大半をギャラルホルンに回していた。
何よりザクソンは巨体であるが、その重量は20トンもない。
ロープがウインチで巻き上げられ、どんどんザクソンがランサーに引きずられてゆく。
「引き寄せてくれるなら好都合!」
ルーカスは不敵な笑みを浮かべた。
「ギャラルホルンを最大出力で照射せよ! 宮殿を崩壊させ、薔薇の騎士の墓標としてくれる!」
ルーカスの命で、ギャラルホルンの巨大なラッパのような放射器が旋回し、ランサーが立つ宮殿本体に向けられた。
「ギャラルホルン照射開始!」
「コア・クリスタル起動。固有振動の完全同調まで、約3分!」
飛行船ザクソンからペンドラゴン宮殿に向け、ギャラルホルンの低周波が放射された。
見えざる力、耳に聞こえない音が、全長265メートルの石と鉄の巨大な宮殿を揺さぶる。
「これは…なかなかキツいわ…ね!」
ヴィヴィアンは顔をしかめた。
はらわたが締めつけられ、視界が歪む。
ランサーと甲冑に守られているヴィヴィアンにもギャラルホルンの低周波は届いた。その聞こえざる音が、彼女の身体を内側から揺さぶった。
足下の宮殿も微かに振動していた。
ガラス窓がビリビリと音を立てて震える。
宮殿全体が震えている。
「舞台は整えた。あとは頼むわよ。パーシー」
ヴィヴィアンがつぶやいたまさにその時だった。
宮殿の端に建つビッグ・ペン、その頂上に、ジャケットをはためかせたパーシーが姿を現した。
彼こそ、空の魔王ザクソンを倒す切り札だった。
内と外、ブリッジと場所とキャラが多いため、エピソードを何度も入れ換え、調整しました。うまくできているでしょうかね?
そして文字数も予想を超えて増加…^_^;
そんな4話(章)もあと2つ。
よろしくお付き合い下さい。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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