#1-5.暴走装甲車団
【前回までは】
式典に乱入したサンダーボルト団の怪自動車。鉄の装甲をまとい驚異的なスピードで疾走する。刑事パーシーと記者ガラードは、最新鋭の蒸気自動車ソードフィッシュでこれを追う──
1
キャメロット市の幹線道路は、南北のものが奇数、東西に走るものは偶数の番号がつけられている。
南北と東西の幹線道路同士が交わる大きな交差点では、警察官が手信号で行き交う馬車や蒸気自動車の流れを誘導している。
三号と八号の交差点では、ちょうど東西の道路に「止まれ」の合図を出し、南北には「進め」の合図を出したところであった。
八号側では二台の馬車が並んで止まった。その二台の間に、サンダーボルトが突っ込んだ。
鋼鉄の怪自動車は2台の馬車を吹き飛ばして交差点に突入し、北から来た蒸気トラックのフロントにも接触。トラックを弾き飛ばして交差点を通り抜けた。
「なんてことを!」
怒りの声を上げ、パーシーは交差点の手前でソードフィッシュを停めた。
2台の馬車は車輪とドアもバラバラの半壊状態。蒸気トラックは接触した左フロント部分がひしゃげていた。
一方、サンダーボルトのほうは何事もなかったかのように走り去っている。
見た目通り、あの装甲化された車体はおそろしく頑丈だ。
幸運にも、馬車の御者たちとトラックの運転手は無事だった。誘導していた警官がそれを知らせてくれた。
「ひでぇことしやがるな」
ガラードの声にも怒りがにじむ。
「必ず捕らえてやる!」
ケガ人と事後処理を警官に託し、パーシーはサンダーボルトの追跡を再開した。
ほどなく、サンダーボルトの後ろ姿が見えた。
怪自動車は停止していた。
行く手を警察車両が塞いでいたからだ。
ポリスカーだけではない。バスほどもある護送車を横にして道路を塞いでいる。そのそばには10人ほどの警官たちがいた。全員ライフルを構えている。
パーシーは、ソードフィッシュの速度を人が歩くほどに落とし、ゆっくりと接近させた。
「さしものサンダーボルトも、ここは突破できねぇな」
ガラードがつぶやいた直後、サンダーボルトが突進した。
同時に警官隊が発砲する。
生物めいた装甲板に銃弾がはじかれ、火花を散らす。
ライフルの弾幕をものともせず迫るサンダーボルト。警官たちはあわてて左右に散ってその進路から逃れた。
金属と金属がぶつかり合い、引き裂かれる音が鳴り響いた。
護送車にサンダーボルトがその先端を突き立てていた。護送車の側面は大きくヘコみ、車体は歪んでいる。
しかし、それだけだった。
護送車を破壊することはもちろん、押し退けることもできない。
サンダーボルトは力任せに護送車を押し退けようとするが、空転するタイヤが煙を上げるだけだ。
諦めてサンダーボルトは後退した。鋭い先端が護送車から引き抜かれる。
ソードフィッシュとサンダーボルトの距離は、もう自動車4、5台ぶんほどになった。
転進してこちらに来るか? パーシーは緊張した。そこに──
「おい、あれ!」
ガラードが叫んで左のほうを指差した。
護送車両の向こう側に、もう1台のサンダーボルトが現れたのだ!
2
2台目の怪自動車が、その先端に仕込まれたハープーンガンを発射した。
砲声と共に放たれた巨大なモリには太いロープが付いていた。
護送車の後部に突き刺さったロープ付きのモリ。新たなサンダーボルトは後進しつつそれを巻き上げ、護送車を引きずって仲間の進路を開けた。
すかさず、停止していたサンダーボルトが走り出した。2台目もロープを切り離して後に続く。
「逃がすか!」
叫んでパーシーはアクセルを踏み込んだ。蒸気を噴き出し、ソードフィッシュが走り出す。
護送車とポリスカーの間をすり抜け、ソードフィッシュは2台の怪自動車の後を追う。
ライフルを手にした警官たち、その何人かもポリスカーに乗り込み、ソードフィッシュに続いた。
2台のサンダーボルトを追って、ソードフィッシュとポリスカーが石畳の幹線道路を東へと疾走する。
事件を知った警察の交通整理により、進路を遮る一般の馬車や蒸気自動車はほとんどない。
2台のサンダーボルト、そしてそれを追うソードフィッシュの速度も増してゆく。
ソードフィッシュの速度計がぐんぐん上がってゆく。
時速60キロ…70キロ……。
しかし2台の怪自動車には追いつけない。
ソードフィッシュが速度を増す都度、サンダーボルトも増速する。
ソードフィッシュはアルバトロスと並び欧州最速と謳われる高速車だ。それが怪自動車に追いつくどころか引き離されている。
気が付けば、ソードフィッシュの後に続いていたポリスカーたちはずっと後ろに引き離されていた。
「くっ…!」
パーシーがアクセルを床板に押しつけるように踏む。
時速80キロ…85キロ……。
しかしサンダーボルトとの距離はじりじり開いて行く。
突然、ソードフィッシュが一際激しい蒸気を吹いた。がくんと、速度が落ちる。
「ちっ」
パーシーが舌打ちする。
汽罐の圧力が危険レベルに達し、安全弁が作動したのだ。蒸気圧が下がり、みるみる速度が落ちてゆく。
「最新鋭のこのソードフィッシュでも太刀打ちできねぇとはな……」
ガラードがため息をつく。
「あんな化け物に追いつけるとしたら──」
「おい」
ガラードの言葉を、パーシーの低い声が遮った。
「その名前を言うな」
「へいへい」
ガラードが肩をすくめる。
「まだ勝負が付いたわけじゃない。あれだけの速度だ。走行距離はそう長くはないはずだ。見失いさえしなければ──」
──その時。
重く、大きな排気音が後ろから迫って来た。
それは蒸気エンジンとは明らかに異なる排気音であった。
ガラードそしてパーシーも後ろを振り返った。
1台の車両が、すさまじいスピードでやって来ると、あっと言う間にソードフィッシュを追い抜いていった。
巨大な赤い二輪自動車。その乗り手は、白い甲冑を身にまとっていた。
「アイツは…!」
「薔薇の騎士!」
パーシーとガラードがうめくように叫んだ。
ソードフィッシュというと複葉機を思い浮かべる方がいるかと思います。
「鈍足過ぎて敵弾が当たらない」と言われた複葉機に、どうして高速で泳ぐカジキ(ソードフィッシュ)の名がつけられたのか、謎ですよね。
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