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#1-4.怪自動車現る

【前回までは】

地下鉄開通式で「めんどくさいラブコメ」を展開する、伯爵令嬢ヴィヴィアンと刑事パーシー。そこに、奇っ怪な装甲車が現れた──



     1



「なんだあれは?」

「まるで怪物だ」


 突如として現れた怪自動車に、駅前に集まった人々から驚きの声が上がる。

 

 怪自動車の二つのヘッドライトが点灯し、凶悪なまでに強い光を放った。


 広場に集まった人々から恐怖の悲鳴を上がった。


「下がってください」


 片腕で光を遮りながら、パーシーはアーサーとヴィヴィアンをかばって前に出た。


 駅前の広場は騒然となった。


 怪自動車が迫って来る。かなりの速さだ。

 開通式に集まった人々があたふたと広場や通りの端へと下がる。


 怪自動車はその空隙にドリフトしながら入り込むと、とがった車体前部を地下鉄駅に向けて停まった。


 重なり合う甲殻──いや装甲に覆われたその車体側面には、稲妻のマークが描かれていた。


「世の冨を独占する資本家たちよ!」


 奇怪な装甲車両の中から、拡声器を使った声が上がった。


「見捨てられし者たちを代表し、サンダーボルト団が祝いの品を贈る。受け取りやがれ!」


 怪自動車の後部が沈み込み、車体前部が持ち上がった。特殊なサスペンションがあるのだろう。


 次の瞬間、砲声のような音が上がり、車体先端、槍の穂先のような部分が撃ち出された。

 それは地下鉄開通式のために用意された演壇に命中。演壇を木っ端みじんに吹き飛ばして駅舎の石壁に突き刺さった。


 ──捕鯨砲ハープーンガン


 捕鯨船で使われている、巨大なモリを撃ち出す大砲だ。

 サンダーボルトの尖った車体、その先端はハープンガンだったのだ。


 人々は驚き、沈黙し、それから恐怖の声が上げた。


「ぎゃははは! あばよ!」


 逃げ惑う人々を嘲る下品な笑い声を上げ、奇怪な装甲車──サンダーボルトは走り去った。


「──逃がすか!」


 パーシーは、今の砲撃でケガ人がいないことを確認すると、近くに待機させておいたパトカー(ポリスカー)のソードフィッシュに乗り込んだ。こんな時のため、蒸気圧は高めてあった。


「じゃまするぜ」


 助手席にガラードが乗り込んで来た。


「お前、これは警察の──」

「早く出した出した! 逃がしちまうぜ?」

「チッ!」


 舌打ちしてパーシーはアクセルを踏み込んだ。


 車体下部より蒸気を噴き出し、ソードフィッシュは急発進した。


「市長、こちらに」


 会場警備の警官たちが、アーサー市長ら来賓たちの避難誘導と群衆整理をはじめた。


「ケガ人が出なくて幸いというべきかな」


 つぶやいて、ふとアーサーは気づいた。


「ヴィヴィアン?」


 ヴィヴィアン、そしてメイドのモリー。

 アーサーのすぐそばにいたはずの二人の娘が姿を消していた。



     2



 片側二車線、石畳の広い通りを、怪自動車サンダーボルトとそれを追うソードフィッシュが疾走する。


 道の両側には、赤レンガ張りのビルが城壁のように連なっている。


 いつもは馬車と蒸気自動車の群れでごった返す幹線道路だが、交通量はいつもの半分もない。今日は大火の慰霊の日。工場や商店の多くが自粛しているからだ。


「今日が慰霊の日で良かったな」

「いいわけあるかっ!」


 ガラードの言葉に、パーシーはハンドルを右に左に切りながら答える。


「鎮魂と祈りの日を騒がせる不届き者…必ず捕まえてやる!」

「おほうっ! 燃えてるねぇ」


 右に左に、行く手を遮る馬車や蒸気バスを次々とかわし、ソードフィッシュは猛スピードで走る。


 サンダーボルトはソードフィッシュの200メートルほど先を走っている。その差はなかなか縮まらない。


「そういや近頃、深夜の幹線道路を暴走する奇っ怪な自動車の噂があったな。怪物じみた姿で、とんでもない速さで走る。その側面には稲妻のマークが描かれている、と」

「ああ、おそらくヤツのことだろう」


 何週間か前から報告は上がっていた。

 しかし深夜のことで有力な手掛かりは少なく、また特に被害が出ていないため、捜査の優先順位は低かった。


 先夜のアルバトロスの二人組。パーシーたちはてっきり、噂の怪自動車が現れたと思った。だが、あの二人はサンダーボルト団に触発されたお調子者にすぎなかった。


「ああいうヤツらは、いつかやらかすと思ってたが、やっぱりだな」

「嬉しそうに言うなっ!」


 パーシーが怒鳴る。


「捜査が進まないのはお前たちブンヤの責任だ。噂に尾ひれをつけて広めやがって」


 交差点を曲がったサンダーボルトを追い、パーシーはハンドルを大きく切った。


「うほぉ! きーびしーっ!」


 タイヤが悲鳴を上げ、ソードフィッシュは交差点をほぼ直角にターンする。


「ラウンドでは最初、貴族か金持ちのバカ息子の悪ふざけと書いていたな? その次はメーカーが新製品を売り込むためのデモンストレーション。──お前の記事ではフランスのJV社が極秘に開発した車両だったか。あわよくば取材でフランス旅行、とか考えていたんだろう?」

「ご名答。さすがは敏腕刑事。でも編集長がケチでなぁ」

「認めるのか」


 さらにいくつもの交差点を過ぎた。しかしソードフィッシュとサンダーボルトとの距離はじりじりとしか縮まらない。


「あんな重そうなナリしてるのにエラく速いな」

「特殊なエンジンを積んでいるな。蒸気エンジンではない可能性もある」

「またしても〈アフターズ〉か」

「だから、嬉しそうに言うなっ!」


 ──大火の後に現れたものたち(グレートファイア・アフターズ)。略して〈アフターズ〉。


 あの大火と前後して、世界では新たな科学技術が生まれていた。

 欧州や新大陸から新たな思想が流入するようにもなった。

 それは人々に豊かさをもたらすとともに新たな脅威を生み出していた。


 新たな技術を利用する犯罪者が現れた。

 新たな思想のもとに行われるテロがはじまった。


 機械技術者に魔法使いが協力し、化学者が錬金術師に教えを請う。

 新興財閥が王政復活を望む者たちのパトロンとなり、共和革命をたくらむ地下組織を伝統ある貴族が支援する。


 ありえない事件。

 ありえない犯罪。

 ありえない犯人。


 もう大火前の常識は通用しない。


 それが今のキャメロット──いや、19世紀末の世界であった。




スチームパンク、その大元はヴェルヌ。

というわけで、サブタイトルもその辺りの時代にありそうな「古くさい」ものにしてます。

ヴェルヌやホームズ、少年探偵団あたりのサブタイル好きなんですよ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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xから読まさせていただきました。 蒸気いいですね スチームボーイを思い出します。 感想書かせていただきます。 蒸気と機械が息づくキャメロットの世界観がとても魅力的で、物語を読み始めた瞬間からスチーム…
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