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#4-7.出撃、Mk4

【前回までは】

ついにソイヤー技師を見つけた記者ガラードとメイドのモリー。だがソイヤーは重機リフターに乗り、ギャングたちの抱囲を突破、逃走する──



     1



 キャメロット市を貫く大河ホムズ河。


 およそ100キロ下流で海とつながるこの大河は、古来より水運が盛んで、産業革命期には工業用水を求め多くの工場が沿岸に建ち並ぶようになった。

 河沿いの道路は数多の港や船着き場、工場に面しているため、普段であれば蒸気自動車や馬車でごった返している。


 しかし基準時計のビッグ・ペンと計算機関ディファレンスエンジンが停止した現在、通りには馬車の1台、人の1人としていない。


 静まり返った無人の通り。

 その静寂を破り、2台の蒸気自動車が疾走している。


 ひとつは騒がしい音を立てて走る荷役自動車リフター。もうひとつはそれを追うボクサーと呼ばれる蒸気自動車である。


「道がガラ空きで助かったな」


 助手席のガラードがつぶやく。


 蒸気自動車ボクサーはひどい有様だった。致命的な損傷はないものの、あちこちヘコみ、こすって傷だらけである。


「他に車両がいたら大惨事でした」


 運転しているメイドのモリーが言う。


 彼女の荒っぽい運転のせいでボクサーは傷だらけだというのに、まるで他人事のように淡々とした口調である。


 行く手にソイヤーが運転するリフターが見える。


 トラクターであるリフターの最高速度はぜいぜい時速30キロ。対してモリーが運転するボクサーの最高速度は50キロ。その距離はどんどん縮まっている。


「ソイヤー氏は何故追われているのでしょう?」

「借金でないことは確かだな」


 ハンドルを握るモリーの問いにガラードが答える。


「さっきのヘリン一家はソイヤーのアパートに来たヤツらじゃなかった。別働隊だ。たぶん一家総出でソイヤーを追っている。たかが借金の取り立てでそこまではしないはずだ」

「他の勢力もいましたね」

「ああ、ブラッド・ユニオンもいたな。ヤツらは仕事のために集められたゴロツキたちだ。背後に必ず依頼主がいる。問題は、その依頼主とその理由だが──」


 話しているうちにリフターに追いついた。


 馬車の時代から左側通行のキャメロットでは自動車の運転席は右側にある。

 モリーはボクサーをリフターの右側につけ、並走させた。


「ソイヤーさん! 話しを聞いてくれ!」


 身を乗り出してガラードが叫ぶ。


「オレはラウンドの記者ガラード・クロスだ! あんたに聞きたいことがあるんだ!」

「記者だと?」


 ソイヤーがガラードを不審の目で見た。


「あんたなんで追われているんだ? ビッグ・ペンとディファレンスエンジンが停止したことに関係してるのか?」

「それは──」

「前を!」


 ソイヤーの言葉はモリーの声に遮られた。


 横道からトラックが現れ、リフターとボクサーの行く手を塞いだのだ。




     2



 突然、行く手を塞いだトラック。

 モリーがブレーキを踏み、遅れてソイヤーもブレーキを踏む。

 かん高いブレーキとスリップ音が通りに響く。


「うおおっ?」


 急ブレーキにスリップしたボクサーがリフターにぶつかりそうになり、ガラードが声を上げる。


 ギリギリのところでリフターへの激突は避けられた。先にモリーがブレーキを踏んだのが幸いした。


「おいおい…っ!」


 しかし危機は終わっていなかった。


 ボクサーはまっしぐらにホムズ河に向かって行く。

 このままでは大河に飛び込む──と思われた直前、ようやくボクサーは止まった。

 すぐ近くにあった船着き場では、小型蒸気船の船頭たちが、前輪をはみ出して止まった蒸気自動車に目を剥いていた。


 その直後、車同士がぶつかる衝突音が上がった。

 ソイヤーのリフターがトラックに激突したのだ。


「うぬぬぬっ!」


 ソイヤーはリフターの荷下ろし用アームでトラックをどかそうとした。ところが、バキンっ! と破断音が上がり、アームが折れてしまった。衝突で損傷していたのだ。


「やった! ついてるぜ!」


 わらわらと集まって来たヘリン一家のギャングたち、その先頭にいた男が声を上げて笑った。

 数時間前、ソイヤーのアパート前にやってきた「アニキ」と呼ばれていた男だ。

 倉庫裏に来た連中の応援に駆けつけようとしてリフターを見つけ、道を塞いだのだった。


「じじい! 観念して下りて来い」


 立て続けに銃声が上がった。

 ねらったのはリフターの右の前輪。続いて後ろのタイヤが撃ち抜かれる。穴だらけになったタイヤから空気が漏れ、たちまち車体が右に傾いた。


「おのれ…!」


 怒りと無念にソイヤーが顔を歪める。


「くそっ! マズいな」


 ガラードがうめいた。しかし、


「いえ、大丈夫ですよ」


 モリーがいつもの感情のない声で言った。

 しかしその顔には微かな笑みが浮かんでいた。


 ガラードははっとなった。


 轟くような重い排気音が近づいて来る。

 この音をガラードは何度も聞いて知っていた。


 ガラードの顔にも笑みが浮かんだ時、横道から滑るようにして機械の騎士が姿を現した。


「うぉおお! ランサー!」


 その姿に、ガラードは歓声を上げた。




     3



 地下の闇を、ヘッドライトが切り裂いて真紅の二輪自動車(モーターサイクル)が疾走する。


 ──ランサー。

 薔薇の騎士が駆るスーパーマシンである。


 基地アーセナルを出たランサーは、キャメロット市内に張り巡らせた秘密の地下道──通称シークレット・ハイウェイを、モリーがいる倉庫街へと向かっていた。


「こちらフェイ。配置に着いたよ!」

「ルーです。C4出口の安全を確保。いつでもどうぞ」


 薔薇の騎士のヘルメットにメイド姉妹たちの〈声〉が届いた。


「ありがとう。3分で行くわ」


 答えてヴィヴィアンは速度を上げた。


 キャメロット市内にはカモフラージュされたシークレット・ハイウェイの出口が数多く存在する。

 ランサーが出動する際、メイドたちがその出口に先行する。出口周辺に人目がないことを確認、安全を確保した上で出口のカモフラージュを解き、ランサーは地上に現れるというわけだ。


 これを支えているのがメイド三姉妹の霊波通信である。


 この世界ではいまだ無線の音声通信は存在しない。音声通信は有線の電話のみ、無線通信はモールス信号だけなのだ。

 無線かつ双方向の音声通信である霊波通信を持つ薔薇の騎士は、情報と隠密に圧倒的なアドバンテージを有しているのだ。


 C4出口は河沿いの古い倉庫の中にあった。

 倉庫の薄闇の中、木箱の山が移動し、地下通路へ続く傾斜路が顔を見せた。すぐにランサーが現れる。


「よいしょぉっと」


 待機していたフェイが重い鉄扉を開ける。走るランサーからヴィヴィアンはフェイに小さく手を振り、真紅のモーターサイクルが表に飛び出す。


 数秒後、木箱がまた移動し、地下への傾斜路を塞いだ。この仕掛けは自動式なのだ。


 ちなみにこの倉庫、普段はちゃんと稼働している。持ち主はヴィヴィアンだが、表向きは別に持ち主がいるダミー会社である。


 こうしたカモフラージュされた出口は市内に40以上ある。その形態も様々で、倉庫、廃屋、廃工場、下水道や地下鉄のトンネルの壁面に隠されたものまである。


「現場は2ブロック先、ギャングは10人前後。トラックで道を塞いでいます」


 ルーからの報告にヴィヴィアンは効果的なルートを頭の中で組み立て、ランサーを走らせた。

 すぐに河沿いの大通りと、それを塞ぐトラックが見えて来た。

 向こうからこちらは死角、絶好の位置だ。


 ヴィヴィアンはランサーを人型──ナイトフォームに変形させると、ホバー移動で通りに飛び出した。


「うぉおお! ランサー!」


 現れたランサーにガラードは歓声を上げた。しかし、


「……いつもと違わねぇか?」


 ガラードが首を傾げた。


 何度も見たナイトフォームのランサー。その姿が違っていた。

 腕や脚を覆うカウルが少なく、全体的に華奢な感じがする。背中に移動したマフラーも4本ではなく2本だ。


 これはMk(マーク)4。試作機ですよ。


 モリーは心の中でつぶやいた。


 薔薇の騎士が駆るランサーはMk5。いま現れたMk4は一つ前の機体で試作型である。Mk5が修理中なのでこれを引っ張り出したのである。


 しかしヘリン一家のギャングたちにはそんなことが分かるはずもない。


「薔薇の騎士のランサーだ!」

「なんでヤツが!」


 と、突如現れた身長4メートルの機械の騎士に驚愕、動揺している。


「ルー、準備は?」

「完了しています」


 間髪入れないルーの返答にヴィヴィアンは唇をつり上げて笑った。


 ランサーがギャングたちに右手の武器を構えた。金色の太く短い銃身…よく見ればその後ろには白いホースがつながっている。


「あれは…?」


 ガラードがつぶやくのと同時に、金色の銃身からものすごい勢いで水が噴射された。


 これは放水銃。

 消火栓につないで強力な水流を放つ武器であった。


 ただの水というなかれ、その勢いは大の男を吹っ飛ばし、5人、10人とまとめて押し流すほどのシロモノなのだ。


 猛烈な水流に、ギャングたちが悲鳴を上げてなぎ倒されてゆく。その悲鳴も水流にかき消され、ギャングたちは片端からホムズ河へと押し流されていった。


「ギャング相手にはこれで十分よ!」


 ヘルメットの中でヴィヴィアンは笑った。



今回はランサーかどのようにして出撃しているのかも描いてみました。

いかがでしたでしょうか?

ちなみにシークレット・ハイウェイは、使われなくなった古い地下水路、計画中止なった地下鉄のトンネルなどを利用しています。(さすがに新規に掘ったものではない)

15年前の大火で記録が失われたのをいいことに、忘れられた地下道を拝借しているわけです。

これを実現できたのは国内屈指の財力があればこそ。

ブルース・ウェインやトニー・スタークと同じ、財力もスーパーパワーなのですw


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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質問やツッコミも大歓迎ですよ!

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