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#4-0.メイドと記者と銃撃戦

今回も1章で1話完結スタイルです。

文字数はおよそ5万8千。

よろしくお付き合いのほどを。




 どうしてこうなったのでしょう……。


 メイドのモリーは心の中でつぶやいた。


 右からも左から銃声が上がり、飛び交う銃弾が赤レンガの壁にはじける。

 通りを挟んで三つの勢力が銃撃戦を繰り広げている。モリーたちはそのただ中にいるのだ。


 私は、ヴィヴィアンさまからお使いを頼まれただけなのに……。


「モリー! こっちだ!」


 左腕を三角巾で吊った新聞記者のガラードが叫ぶ。


 ガラードはモリーの手を引いて近くの建物同士の隙間に入る。その間にも数発の弾丸がふたりをかすめた。


 撃ち合いをしている連中の射撃はあまりにヘタクソだ。だがそれだけにどこに弾が飛んでくるか分からない。


「野郎! 食らいやがれ!」

「死ねっ! 死ね!」


 モリーたちからみて右側、威勢の良いかけ声を上げて撃ちまくっているのは地元のギャングたちた。身なりは労働者階級のそれである。


「チンピラどもが! くたばれ!」

「クソがっ! このクソどもがっ!」


 左側で通りを挟んで撃ち返しているのは、黒のベストに赤いネクタイの一団だ。その特徴的な服装は犯罪者組合ブラッド・ユニオンから派遣されたチンピラたちに違いない。


 同じくモリーたちのいる通りの向かいにいる一団は、黙々と撃ち返している。ボウラーハットをかぶり、身なりはそこそこ良い。謎の連中だ。


 モリーのすぐ近くに弾丸が2発、撃ち込まれた。

 赤レンガの壁にはじかれ落下した弾丸を、モリーは空中でキャッチした。


 撃ち合いをしている三つの勢力、その力は拮抗している。そして見た目はハデだが誰も負傷していない。


 それなら、その一角を崩せれば……。


 また流れ弾が飛び込んで来た。ガラードが思わず首をすくめる。


 今だ…!


 ガラードが自分を見ていないことを確認し、モリーは先ほど手にした銃弾を親指ではじいて撃ちだした。


 中国武術で指弾と呼ばれる技である。

 モリーの手の中から放たれた弾丸は右側の地元ギャングの一人に命中。脚を撃たれたそいつは悲鳴を上げて地面に転がる。

 はた目にも当人にも撃たれたとしか思えない傷である。


 清楚可憐なメイドが、その細い指ではじき飛ばしたと誰が分かるだろうか。

 モリーの指弾は大口径の拳銃弾に等しい威力であった。


 もう一発。


 モリーの細い親指が銃弾をはじき飛ばし、またギャングの一人が脚を撃たれて倒れる。


「おい、今だ!」

「やっちまえ!」


 ブラッド・ユニオンと謎の一団が攻勢に出た。特にブラッド・ユニオンは拳銃を撃ちながら距離を詰めて行く。


「待て! 置いてくな」


 負傷した仲間を置いてギャングたちは逃げにかかった。かさにかかってブラッド・ユニオンたちが追撃する。


「今の内だ!」


 銃撃戦の包囲網が破れたのを見て、ガラードがモリーの手を引いて駆け出す。


 彼がいなければ、とっくに抜け出せたのに。


 黙ってガラードに手を引かれて走りながら、モリーは内心ため息をついた。

 彼女の怪力と身体能力を持ってすれば逃走はもちろん、あの場にいた連中を制圧することも容易い。


 しかし今は日中。人目がある。そんなことをしたら──


 ──私が人間ではないことが知られてしまう。


 それは絶対に知られてはならないことだった。



     ×   ×   ×



 銃声は次第に遠くなり、やがて聞こえなくなった。


「やれやれ街じゅうの悪党どもに追われているみてぇだ。どうなっちまっているんだ?」


 足を止め、ガラードがつぶやく。


 私は、いつまで彼に手を引かれていればいいのでしょう……。


「おっと、ワリぃ」


 モリーの視線に気づいたガラードが、あわてて彼女の手を放した。


「別に、気を悪くしてはいないのだけど」


 モリーは小さくつぶやいた。


 私が感情を表に出さないたちだから、怒っているように見えたのでしょうか。


 無表情でいることが多いモリーは、他人からは冷たい、怒っているとみられることが多い。


「なら良かった。しっかし、ここはどこだ? 走り回っているうちに分かんなくなっちまったぜ」


 ガラードは笑うと辺りを見回した。


 モリーは無言で一方を指差した。


 その先、ずっと遠くに、蒸気と煤煙にかすかに霞む巨大な時計塔があった。


「ビッグ・ペンがあそこってことは…こっちだな」


 ガラードが先に立って進む。その後に続きながら、モリーは巨大な時計塔に目をやった。


 ──ビッグ・ペン。


 キャメロットのすべての時計の基準にして、あらゆる計算、集計を一手に引き受けている巨大な計算施設。


 三日前、あのビッグペンが止まった。


 そしてキャメロット市のほぼすべての行政、産業、経済が停止した。


 以来、キャメロットは静寂に包まれている。


 しかしその静寂の中で何かが起きていた。


 モリーとガラードはそれに巻き込まれたのだ。


 それはキャメロットを揺るがす大事件へとつながってゆくのであった。



第4話、開幕です!

今回は趣向を変えて、無表情メイドのモリーとお調子者の記者ガラードのふたりがメインとなります。あ、ヴィヴィアン、パーシーそしてランサーも登場しますからご安心を。


よろしければブクマ、評価、リアクション、感想、レビューなどをお願いします。

質問やツッコミも大歓迎ですよ!

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