#3-16.聖杯の守護機士
【前回までは】
パロヴォイ・サーカス団と警察の戦いに薔薇の騎士が駆るランサーが参戦。しかしルーカン本部長が人質になり──
1
「警官の諸君、武器を捨てろ! 薔薇の騎士! 貴様もだ」
ストリグーンの拡声器から放たれるマーカス団長の声に、警官たちが武器を下ろそうとした。
「捨てるんじゃない! 悪党に屈してはならん!」
グリズリーのバルカンに組み敷かれたままルーカン本部長が叫んだ。
「あら。意外」
ヴィヴィアンがつぶやいた直後だった。
バルカンが牙を剥いて咆えると、ルーカンは白目を剥いて失神した。
「あ、やっぱり」
苦笑しながらヴィヴィアンは、ランサーが手にしたリボルバーライフルを石畳の上に放り出した。警官たちも武器を捨てる。
「オレたちは聖杯さえ手に入ればいい。警官諸君、君たちが大人しくしてくれれば危害は加えない。しかし──」
ストリグーンがランサーに向き直った。
「薔薇の騎士! 貴様はここで死んでもらう!」
「なんだと!」
ガラードが声を上げる。
長大な2本の腕を振り上げてストリグーンがランサーに迫る。
「名高い薔薇の騎士とランサーを倒したとなれば箔が付く。今後の仕事もやりやすくなろうってものだ!」
4本ヅメの右腕、ハサミ状の左腕がランサーに襲いかかる。ストリグーンの巨大な両腕をランサーも左右の腕で受け止めた。
しかし相手はあまりに巨大である。
ランサーの身長は4メートル。対するストリグーンは脚の差し渡しが40メートル。そのほとんどが細い脚だとはいえ、大きさ、そして重量に圧倒的な差がある。
「くそ…っ!」
ガラードは悔しさに歯がみした。
彼だけではない。ランサーがひねりつぶされようとしているその光景に、警官たちも無念を噛みしめていた。
この時、誰もがランサーとストリグーンに目が釘付けになっていた。
広場に面した建物と建物の間。その暗闇から、しゅっ、と一条のロープが放たれ、ルーカンを組み敷いているグリズリーの首に巻き付いた。
ネオロンのロープ。それを投げ縄にして投げたのは、薔薇の騎士に仕えるメイド三姉妹の三女フェイだった。
「よいしょおぉ~っと」
ちっとも力が入っていないかけ声。
しかしフェイがロープを引くと、450キロもあるバルカンの巨体が引き倒された。いや、正しくは引き倒されたのではない。空中を7,8メートルは飛んで地面に叩きつけられたのだ。そのままズルズルと路地へと引きずり込まれてゆく。
おそるべき怪力。
見た目13歳ほどの小柄なメイドが、カラのバスケットでも引っ張るように巨大なグリズリーをなんなく引きずっているのである。
バルカンはパニックに陥った。前脚でかきむしるようにして首にからむロープを外そうとした。しかしロープは外れない。
為す術もなく、あっと言う間に路地に引きずり込まれたバルカンを、
「いらっしゃい」
三姉妹の次女ルーのやわらかな笑みと手刀が迎えた。
首筋に叩き込まれた一撃に防弾殻が砕ける。
大口径の拳銃弾も通さない防弾殻もルーの一撃には何の意味もなかった。首筋への強烈な一撃に、グリズリーは白目を剥いて昏倒した。
「何が起きている?」
「タイガ!」
リード姉弟が異変に気づき、アムールトラのタイガを路地に差し向けた。
タイガが路地に飛び込んだ時、バルカンはネオロンのロープで縛られているところだった。
牙を剥き、タイガは2人のメイドに襲いかかる。
その頭上に、美しい影が現れた。
三姉妹の長女モリーである。
黒のドレスが翻り、モリーの回転蹴りがタイガの脳天に叩きつけられる。防弾殻が砕け、トラは叩きつけられるように落下した。
「殺しちゃったの?」
「手加減はしたわ」
「生きてはいるみたいね」
フェイ、モリー、ルー、三人のメイドたちは、昏倒した獣たちを手早く縛ると、闇の中にその姿を消した。
2
灰色の夜空の下、広場の石畳でストリグーンとランサーが組み合う。
蒸気エンジンと真空フロギストンエンジンがうなり、鉄の軋む音が鳴る。
巨大、長大なストリグーンの腕がランサーをひねりつぶさんとし、受ける機械の騎士の腕がそれに抗う。
大きさも重量もストリグーンはランサーを遙かに上回っている。誰の目にもランサーが不利であることは明白だった。
「なかなか頑張るではないか」
ストリグーンを操るマーカスが、嘲笑いながらエンジンの出力を上げた。
安全弁を解除して出力を最大にまで持って行く。
「このストリグーン、元は金鉱採掘のマシンだ。エンジンは大陸横断鉄道の機関車のものを使用している。その出力、700馬力だぜ!」
拡声器でマーカスが勝ち誇る。そこに、
「獣たちを無力化。本部長は無事です」
薔薇の騎士のヘルメット内にある霊波通信機からモリーの声が流れた。
ヴィヴィアンは唇をつり上げた笑みを浮かべた。
真空フロギストンエンジンが回転数を上げ、轟くような排気音が上がる。
「700馬力とは、たいそうな出力だな。だが──」
機械で加工された金属質なヴィヴィアンの声が、ランサーの拡声器から流れた。
「バカなっ!?」
マーカスが驚愕の声を漏らした。
彼だけではない。広場にいる警官たち、パロヴォイサーカスの一味も驚きに目を見張った。
巨大なストリグーンが、ランサーに押し負けている!
マーカスはストリグーンはのしかかるように重量でランサーを圧倒しようとした。
直後、金属が軋むイヤな音を立ててストリグーンの左腕の関節が砕けた。
「──その程度では、このランサーの足下にも及ばない!」
この時代の常識を越えた速度を誇るランサー。その常識外のスピードは、常識外パワーがあるからこそ実現しているのだ。
ストリグーンの背中の蒸気エンジンが破裂した。
出力を上げすぎて限界を超えたのだ。直後、右腕もへし折れ、左腕がねじ切られた。力を失った機械のクモガニが地響きを立ててくずおれた。
「なんてパワーだ…!」
ガラードが驚嘆の声を上げた。
「ありえない! お前…お前は何ものなんだ!?」
力を失ったストリグーンの操縦席で、マーカスは呆然とつぶやいた。
わずかな沈黙の後、
「……聖杯の守護騎士ランスロット」
拡声器から機械加工されたヴィヴィアンの声が流れた。
ランサーは、ちぎれたストリグーンの左腕を手に取ると、地に伏した鉄のクモガニを踏みつけた。そしてストリグーンの左腕を振りかぶり、胴に突き立てた。
広場にいた者すべてが息を呑み、それに見入っていた。
ランサーの真紅のカウルとそれを彩る金色の薔薇の装飾が、広場の端にあるガス灯の光にきらめいている。
その姿は、伝説の「怪物を退治した騎士」そのものであった。
× × ×
遠ざかる排気音にルーカンは目を覚ました。
半身を起こすと、真紅のモーターサイクルが去って行く姿が目に入った。
「なんだ? 何がどうなった?」
広場のまん中には、蒸気エンジンが破裂し、無数の金属管がむき出しとなったストリグーンが倒れていた。その胴体には突き立てられた槍のようにストリグーンの腕が突き刺さっている。
「気がつかれましたか本部長」
声を掛けたのはガラードであった。
「なぜ記者がここにいる?」
「悪党退治のお手伝いをね」
ガラードの視線を追うと、逮捕されたパロヴォイ・サーカスの団員たちが護送車に詰め込まれていた。
「獣どもは?」
立ち上がろうとするルーカン本部長に、ガラードは手を貸そうとしたが拒まれた。
「あっちの路地で気絶してます。ロープでぐるぐる巻きにされてね」
肩をすくめてガラードが言う。
「いったい何ものが?」
「オレのカンですが、薔薇の騎士の仲間ですよ」
その姿は影さえも見えなかったが。
「またしても警察は、薔薇の騎士に助けられたということか……」
不機嫌にルーカンはうなり、そして気づいた。
「聖杯だ! モスマンを追うぞ!」
「しかし、モスマンもそれを追うパーシー刑事はどこにいるのか……」
ルーカンの叫びに、近くにいた警官が答えた。
「行く先はひとつだぜ」
そう言ったガラードをルーカンそして警官たちが見た。
「猟犬は、飼い主の元に戻るものだぜ」
1話の装甲車はスピードと機動力で、2話は水上走行と飛行を見せたランサー。
今回は巨大な敵をパワーでねじふせました。
こういう力比べは人型、ロボもののバトルの醍醐味ですよね!
……次はどうしよう。
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