#3-15.ストリグーン
【前回までは】
パロヴォイ・サーカスのテントはそれ自体が巨大な怪物マシンだった。犯罪サーカス団がモスマン奪回のため警官たちに襲いかかる──
1
対峙するガラードと投げナイフ使いのシューマン。
両者の距離はおよそ3メートル。
チャクラムを使うシューマンに対し、素手のガラードは不利だ。距離を詰めねばガラードに勝機は無い。
最初に動いたのはガラードだった。
いきなりシューマンに向かって踏み込んだのだ。
機先を制したつもりかっ!
シューマンはあえて自らも踏み込み、右手のチャクラムを放った。
空気を切り裂き、リング状の刃がガラードに迫る。
かわしようのない距離──しかしガラードはサイドスップでチャクラムをかわした。とんでもない動体視力と反射神経だ。
だがシューマンは左手のチャクラムを放っていた。
1投目のチャクラムはガラードの体勢を崩すため、時間差で投げた2投目が本命だった。
王手!
シューマンは勝利を確信した。
「ッ!?」
驚愕に目を見開いたのはシューマンだった。
なんとガラードは、チャクラムを左の手の平で受け止めたのだ。
「おぉッ!」
気合いと共に、ガラードの右の拳がシューマン顎に叩き込まれる。
かわしようのない間合いであり、速度だった。
顎への衝撃は脳にダイレクトに伝わる。一撃でシューマンの意識は消し飛び、その身体はくるりと半回転し、石畳の上に倒れた。
「イテテテ……」
顔をしかめたガラードの左手から血がしたたっていた。
その手にはチャクラムが食い込んだ手帳が握られていた。
いつも持ち歩いている手帳でチャクラムを受け止めのだ。
しかし分厚い手帳でもシューマンのチャクラムを完全には防げず、手の平を浅く切られていた。
「手帳は剣より強し! …ってわけにはいかねぇな」
ガラードがつぶやいた直後、石畳が砕ける音が響いた。
× × ×
シューマンをガラードに任せたパーシーは、サーベルを鞘に収め、クリスを追った。
しかしその眼前に、ストリグーンが立ちはだかり、鉄の脚が振り下ろされた。
まるで巨大なツルハシだ。地面が揺れ、石畳が砕ける。
あやうく飛び退いてかわしたパーシーだが、テントの怪物に行く手を完全に遮られてしまった。
電灯を点滅させ、けたたましい陽気なオルガン曲を流しながらストリグーンのハサミ状の腕がパーシーに迫る。その時──
砲声が轟き、ストリグーンの腕がはじかれた。
「薔薇の騎士!」
いつの間に現れたのか、広場の入り口に人型形態──ナイトフォームとなったランサーが、リボルバーライフルを手に立っていた。
真空フロギストンエンジンが咆え、背部のエンジンユニットから高圧噴流が吹き出す。
地面すれすれの高さに浮いた機械の騎士が、滑るようにストリグーンに向かって行く。
ヘルメットの中で、ヴィヴィアンは唇をつり上げて笑った。
「待たせたわね──主役の登場よ!」
2
ランサーのリボルバーライフルが咆える。
2発、3発…巨大マシン・ストリグーンを覆うサーカスのテントに穴が開く。しかしそれだけだ。
ストリグーンは小揺るぎもせず、ランサーに向かって来る。
「中身は空っぽ?」
ヴィヴィアンは小さくつぶやくと、リボルバーライフルの回転弾倉を回し、6発目の弾丸をセットした。
「これなら…どう?」
ランサーを旋回移動させてストリグーンの注意を引き、ライフルを放つ。
今回のはただの弾ではない。
「なっ!?」
ストリグーンの操縦席でマーカス団長は驚愕した。
ランサーの放った弾丸が着弾すると同時に炎がはじけたのだ。
──火炎弾。
弾頭に燐とマグネシウムを詰めた特殊弾である。着弾時に弾頭が壊れ、燐が空気に触れて自然発火。マグネシウムがその火力を高めるのである。
最高強度を誇るネオロンも炎には抗えない。テントにはじけた炎はみるみる燃え広がってゆく。
さすがのストリグーンもひるみ、後退した。
「刑事さん、今の内だ」
ヴィヴィアンがパーシーに言う。
その声は機械で加工、拡大されて広場全体に響いた。
はっとしたパーシーはモスマンの次男クリスへと眼を向けた。
するとそっくり同じ姿のモスマンが二人、クリスの両脇で彼に肩を貸そうとしていた。
いや違う、クリスの背中、二枚の羽型マントの内側に噴射装置を取り付けていたのだ。
噴射煙が上がり、三人のモスマンが肩を並べて空へと舞い上がる。地上15メートルほどの高度で滑空に転じ、西のほうへと向かう。
「後は頼む!」
ランサーに叫びながら、パーシーは、ガラードが乗ってきたポリスカーに乗り込んだ。
蒸気を噴き出し、パーシーを乗せたポリスカーはモスマンたちを追って走り出す。
「あちゃあ、乗り遅れた!」
走り去るパーシーのポリスカーを見送り、ガラードがボヤく。
「……いや、こっちのほうが面白いか」
思い直してガラードはランサーとストリグーンの対決に眼を向けた。
炎に包まれた天幕が膨らみ、はじけて飛んだ。
「なんだあれは…!」
破れたサーカス天幕の中から、巨大な怪物がその本体を現した。
天幕の中に隠れたストリグーン本体が巨大化し、繭を破ったたかのようであった。
──ストリグーン。
この名はロシア語で「クモガニ」とでも言う意味になろうか。
その姿は、異様に手足の長い鉄のカニともいうものだった。
6本の細長い脚に支えられた楕円形の胴体。そこから細長い2本の腕が伸びている。
ある意味、ストリグーンは大きくなっていた。
走行モード用に折りたたんでいた脚を広げ、戦闘モードになったのだ。脚を広げた幅は40メートルはあろうか。脚の長さに比して胴体は小さいが、それでも長径9メートル、短径6メートルはある。
ガラード、そして警官たちもストリグーンの異様な姿に息を呑んだ。
ランサーがリボルバーライフルの回転弾倉を回し、4発目と5発目を放った。
ストリグーンの脚、そして胴をかばった右腕に弾丸がはじけて火花を散らす。それだけだった。
「これは中々……」
ヴィヴィアンが感心したようにつぶやく。
頑強な暴走装甲車サンダーボルトを一撃で破壊したランサーのライフル弾。それが通用しないとは。
ガシャガシャと尖った脚で石畳をたたきながら、ストリグーンがランサーに迫る。
いつもは頼もしく見える機械の騎士が、その巨大な怪物の前にはとても小さく見えた。
つかみかかる右手をかわしたランサーは、ストリグーンと距離を取りながら右手のライフルを立て、カラの回転弾倉が排除した。
広場の端でランサーは右の膝を突いた。左足の装甲殻が開き、中にある予備の回転弾倉を左手で取り出し、ライフルにセットする。
この弾倉は通常弾が6発だったわね……。
両腕を振り上げ、迫るストリグーンをにらみながらヴィヴィアンはその攻略法を探した。
腕と脚は鋼鉄の塊…関節でも狙わない限り破壊は難しい。胴体ならいけるか? そのためには……と、ヴィヴィアンが考えを巡らせた時──
「そこまでだ! あれを見ろ!」
ストリグーンの拡声器からマーカス団長の声が流れた。
ストリグーンのハサミ状の右手、その指す先にあるものを見て、その場にいた者たちはみな息を呑んだ。
ルーカン本部長が、グリズリーのバルカンに組み敷かれているではないか!
「武器を捨てろ! さもなくば本部長を引き裂くぞ!」
巨大メカ登場、そして主役機の参戦!
メカ戦は書いていて楽しいです。
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