表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/89

#3-4.潜入、警察本部

【前回までは】

教会の聖杯ばかりを盗む謎の怪盗現る。警察、そしてヴィヴィアンは調査に乗り出す──



     1



「こちらフェイ。これから警察本部に潜入するね」


 薔薇の騎士の〈眼〉となってサポートするベンウィックのメイド三姉妹。その三女フェイは、心の中でつぶやいて、キャメロット警察本部へと入った。


 現在、フェイはいつものメイド服ではなく男の子の格好をしていた。

 紺色のジャケットを着て、帽子にはツバメの形のピンバッジ、肩にキャンバス布の肩掛け鞄をかけている。典型的なメッセンジャーボーイの格好だ。


 フェイの見た目は12~13歳くらい。栗色の髪は短く、目深にかぶった帽子で愛らしい顔を隠せば男の子にしか見えない。


 正面から警察本部に入ったフェイだが、見とがめる者はいない。

 メッセンジャーボーイはこの街のどこにでもいるからだ。


 電話が普及したとはいえ、それは公共施設や企業、工場などに限られている。

 電信で届いた遠隔地からの情報。本日中あるいは数時間以内で知らせたい用件。そうした伝言を届ける手段は未だ人力に頼っていた。


 それを担っているのがメッセンジャーボーイである。

 彼らの年齢は10歳から14歳くらい。センターと呼ばれる集配所で電信、手紙、連絡メモ、小包みを受け取り、届けるのだ。

 センターでは自社のメッセンジャーボーイであることを示すため、お仕着せのジャケットとピンバッジ、肩掛け鞄を持たせていた。


 ロビーを抜けたフェイはまっすぐ階段へと向かい上がって行く。

 慣れたものである。彼女はすでに何度もこの姿で警察署に入り込み、情報収集をしていたのである。

 目指すは3階。刑事たちのデスク、取調室などがある。


 3階に来たフェイは、さも届け先に向かうように早足で廊下を歩きながら耳を澄ませた。


 モリー、ルー、フェイ。3人のメイドたちは、常人を遙かに超える身体能力と五感を有している。

 集中すれば、締め切られた扉の向こうの囁き声さえも聞き取れるのだ。


「フロッグマンも聖杯をねらっていたのかよ!」

「ひゃっ?」


 耳を澄ませる必要のない大きな声に、フェイは思わず身をすくませた。

 新聞記者ガラードの声だった。


「ヤツが言うには、聖杯と名がつく物を高値で買う御仁がいるとのことだ」

「聖杯を買い集めているヤツ…オカルティストか? いや科学者というセンもあるな」


 刑事課のドアが開き、パーシー刑事とガラードが出て来た。聞き込みにでも行くのだろう。


 フェイは廊下の端でしゃがみ込み、靴紐を直す姿を装った。


 フェイはこの二人と話したことはないが一、二度顔を合わせている。

 特にパーシー刑事は観察眼と記憶力がすごいと聞いていたから、念のため顔を見られないようにしたのである。


「科学者が聖杯に興味を?」

「いつだったか、王立科学アカデミーが教会にある聖杯の調査を申し込んだことがある。奇跡の力が存在するのかを科学的に調査したいってな。もちろん断られたがな」


 話しながら、パーシーとガラードが、しゃがんだフェイのそばを通りすぎて行く。

 メッセンジャーボーイは街の至る所にいる。警察本部でもいつも数人は見かける。だから誰も気にも留めない。


「それに科学者だからってマトモとは限らないからな。〈アフターズ〉がいい例だ……」


 ガラードの言葉が途中で止まった。


 え?


 フェイはその背中に視線を感じた。

 ガラードに見つめられている。


 まさか、バレちゃった?



     2



 これってマズい状況?


 ガラードの視線を背中に感じながら、フェイは立ち上がった。

 ガラードとパーシーに背中を向け、自然な動きを装い、二人から離れるよう廊下を進む。


「どうした?」

「……珍しいな」


 フェイの背中にパーシーとガラードの声が届いた。


「あのメッセンジャーボーイ、女の子だ」


 ぎくっ。

 ガラードの言葉に、フェイは少しばかりアセった。


「どうして分かる?」

「記者の観察眼をナメるなよ。体つきを見れば分かるぜ」

「骨格か?」

「ケツだよ。言わせるなよ」


 フェイとパーシーは同時にため息をついた。一方は安堵、もう一方は呆れたものであったが。


「おい、待てよ」


 ガラードの声にフェイは足を止めた。


 視線を合わせないよう、うつむきながらに振り返ると、ガラードは階段を下りて行くところだった。声を掛けた相手はパーシーだったのだ。

 フェイはほっとして、耳をすませた。


「故買屋から黒幕を辿るのもいいが、例の怪盗を待ち受けたほうがいいんじゃねぇか?」

「どこを狙うかも分からないのにか?」


 二人のやり取りが届く。


「フロッグマンが捕まり、警戒に割いていた人員を聖杯教会の警備に回すようにしている。だが被害に遭っていない教会すべてに万全の警戒を敷くほどの人数はいない」

「有望な場所があるんだよ」


 パーシーの肩を抱き、ガラードが小声で言った。


「有望な場所だと?」

「スモークエンド教会だ」

「三番目──セント・ジョージ教会の前に被害に遭った教会じゃないか」

「そうだ。だが奪われた聖杯はニセモノだったんだ」

「どういうことだ?」


 ガラードから身体を離しながらパーシーは尋ねた。


「奪われた聖杯は観光客向けの見せ物。儀式に使う本物は無事だったんだ」

「それを知れば、再度盗みに入るはず…というわけか」


 パーシーは思案した。しかしすぐに決断した。


「本部長に上申しよう。売人の捜査と平行してスモークエンドで網を張る」

「さすが名刑事!」


 パーシーとガラードのやりとりは、少し離れれば聞こえない小さな声で交わされた。


「なるほどね」


 しかし集中したフェイの耳にはしっかり届いていた。



     ×   ×   ×



 ──ランサーの基地。アーセナル。


「警察は故買屋の捜査と平行して、スモークエンド教会で怪盗を待ち受けることにしたようです」


 フェイからの報告をモリーがヴィヴィアンに伝えた。

 しかしヴィヴィアンは黙ってお茶を一口、口にしただけだった。


「ランサーの準備をさせますか?」

「たかが泥棒。薔薇の騎士が出るほどの相手じゃないわ」


 モリーにヴィヴィアンは気のない返事をした。


 ご機嫌斜めですね。モリーは心の中でつぶやいた。


「パーシーに私の協力なんか不要でしょう」


 このところカラ回りばかりで、すっかりへそを曲げているヴィヴィアンなのである。


「ドクターに言って、ランサーの準備はさせておきます」

「使わないわよ」


 立ち去ろうとしたモリーにヴィヴィアンが言う。


「よろしいんですか?」

「行かないわ」


 重ねて否定するヴィヴィアン。


 しかしモリーは分かっていた。

 本当は行きたくてウズウズしていることが。


 ほんと、めんどくさいお嬢さま。


「お茶のおかわりをお持ちします」


 そう言うと、モリーはドクター・マーリン──ランサーの整備場へと向かうのだった。



フェイの活躍回でした。

この第3話ではメイド3姉妹があちこちで活躍しますよ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

よろしければブクマ、評価、リアクション、感想、レビューなどをお願いします。

質問やツッコミも大歓迎ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ