#3-0.謎のサーカス団
今回3話(章)も1話完結スタイルです。
文字数は約5万4千ほど。
よろしくお付き合いのほどを。
サウスウォークはホムズ河南岸にある労働者階級の街だ。
劇場やパブ、市場が集まる賑やかなエリアであり、川岸の広場では16世紀からサウスウォーク・フェアなる祭りが開催されていた。
ある朝、その川岸広場に忽然とサーカスのテントが現れた。
──パロヴォイ・サーカス。
それがサーカスの名だった。
テントは絹のようなつややかな布で、そこから真鍮でメッキされた煙突と大きな歯車、そしてラッパのような機構がいくつも突き出している。
「あのサーカス、いつからあったんだ?」
「昨日はなかったよな?」
工場に、市場へと行く人々は、一夜にして現れたサーカスのテントに目を見張った。
突然、テントから突き出た煙突が蒸気を吹き上げ、真鍮のラッパから音楽が流れた。
驚く人々の前に、陽気な音楽と共に、テントの中からピエロや軽業師、芸人たちが現れた。
「新大陸からやって参りましたパロヴォイ・サーカスでございます」
先頭の、座長らしき小太りのピエロが口上を述べ、他のピエロ、芸人たちがビラを配る。
「蒸気機関のカラクリショーにオートマータの自動演奏。猛獣使いに空中ブランコ。珍奇、驚異、圧巻華麗! 入場料は一般席2ペンス。特別席6シリングでございます」
「2ペンスだって? そりゃ安い!」
2ペンスは、ここらの物価ではパン1コ、ビール1杯程度の値段である。
パロヴォイ・サーカスは初日から長蛇の列ができた。
人々は軽業や空中ブランコ、投げナイフの技に目を見張り、ピエロに笑い、アメリカから来た大クマやシベリアのアムールトラのショーに喝采した。
圧巻は蒸気機関を用いた芝居仕立てのショーだった。
機械のドラゴンが目を光らせ、手足を動かし、口から蒸気を噴き出す。騎士に扮した軽業師がこれと戦い、捕らわれた姫を助け出すという内容である。
ところが救出した姫はなんと機械人形であり、そこから自動演奏がはじまるという二段構えの演出だ。
これには蒸気の都キャメロット市民たちも度肝を抜かれた。
評判は評判を呼び、パロヴォイ・サーカスは連日大入り満員であった。
普段はこの辺りに来ない中流の紳士や上流階級の淑女までやって来るようになった。しかし──
このサーカスには、出し物以外で奇妙な評判があった。
この手の催しにつきものであるスリや置き引き、その被害が一切無いのだ。
「スリや置き引きも、ショーに目が釘付けなんだろう」
「休みに子どもを連れて行くかな」
地元の警官たちは、巡回中にパロヴォイ・サーカスのテントを眺め、そう言い合った。
× × ×
一座がキャメロットに現れて10日が過ぎた夜。
小さなランプだけが灯されたテントに、座長のマーカスは団員を集めた。
「皆の者、よく働いてくれた。おかげで表の稼業は順調だ」
ピエロの化粧を落としたマーカスは、額から右眼にかけて大きな傷が走り、凶悪な面相であった。
「本業のほうはまだですかい?」
「盗みをやらないと身体が錆ついちまうぜ」
猛獣使いと軽業師が言う。
サーカス団とは仮の姿。パロヴォイ・サーカス、その正体は盗賊団であった。
「下調べに手間取ってな。今宵から始めるぜ。──ターゲットはここだ」
マーカス団長は地図を広げ、ニヤリと笑って両手を広げた。
「ショウタイム!」
新大陸から来たというのにパロヴォイ・サーカスのパロヴォイとはロシア語で蒸気を意味する言葉。あやしいですね。
この謎のサーカス団がとのような悪事を働くのか? 乞うご期待!
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