#2-13.大暴れ! 怒れる記者と刑事
【前回までは】
ならず者を引き連れたファイアーティストのパレードに、ライトチャペルの街は大混乱。急行した刑事パーシーと記者ガラードに、ならず者たちが襲いかかる──
1
「てめぇら…!」
ガラードが低い怒りのうなり声を発した。その直後、
「やっちまえ!」
ならず者たちがガラードとパーシーに襲いかかった。
いや、彼らは襲いかかったつもりだった。
「ぶぐぇっ!?」
先頭の男が足を踏み出そうとしたその時、男の顔にガラードの拳が叩き込まれていた。
さらに続けて2発。目にも留まらぬ連撃に、鼻を折られ、折れた歯を飛び散らせて先頭の男は後ろに吹っ飛んだ。
「許さねぇ…!」
ガラードは全身を怒りに震わせていた。
15年前の大火で、ガラードは家と家族、友だちを失った。火災によって大切なものを奪われた人々を大勢見て来た。
この連中はそれを歓迎している。
炎に奪われた者からさらに奪おうとしている。
ガラードは怒りでブチ切れていた。
「うぉらぁああっ!」
ガラードが咆哮を上げる。
何が起きたか分からず、呆気にとられたならず者たち。その中にガラードは飛び込むと、当たるを幸いと殴り倒してゆく。
そのスピードとパワーは尋常ではなく、一呼吸で三発の鉄拳を叩きつけ、回し蹴りで二人まとめてなぎ倒す。
まるで獣だ。
いつもの陽気なお調子者は怒れる猛獣に変わっていた。
「囲め! 囲んで押しつぶせ!」
ならず者たちの一人が叫んだ。その前に、パーシーが立ち塞がった。
パーシーの手には用意してきたサーベルが抜かれていた。
「サーベルなんか持ちやがって! お貴族サマかよ!」
火かき棒を持った男がパーシーに殴りかかった。
パーシーは動かなかった。振り下ろされる鉄の棒がパーシーの頭を叩き割る──誰もがそう思った瞬間、
「いいぃっ!?」
火かき棒の男、その右手首が切り裂かれていた。
いったい、いつ動いたのか、パーシーは男の左横に移動していた。
腕の腱を切られ、火かき棒が地面に転がった。
パーシーもガラードと同じく激怒していた。
彼も大火で孤児となった人間だ。
変わり果てた両親に取りすがる子どもの泣き声。
我が子の遺体を抱きしめる親たちの慟哭。
地平線まで広がる焦土には嘆きと嗚咽に満ちていた。
あれを行う者を許しはしない!
すっとパーシーがならず者たちの間に割って入った。
速い動きではない。なのにならず者たちはまったく反応できなかった。
いくつもの絶叫が同時に上がった。
パーシーのサーベルで腕や脚の腱を切られた男たちが、地面に転がり、苦痛にのたうち回る。
大胆にして精密。機先を制し虚を衝く。
トリスタンから叩き込まれた古流剣術であった。
冷徹な刃に、ならず者たちが倒されてゆく。
パーシーの怒りはガラードと正反対で静かで重い。
「次」
手にした刃よりも鋭く冷たいパーシーの眼ににらまれ、ならず者たちは震え上がった。
怒りの鉄拳で、冷徹な刃で、ならず者たちは次々と倒れ、地に這わされてゆく。
10秒と経たず、20人はいたならず者たちの半数が戦闘不能になっていた。残りは戦意を喪失して逃げ出した。
炎のごとく怒りを燃やすガラード。
怒りで氷よりも冷たい眼のパーシー。
迫る二人にファイアーティストは腰を抜かし、トラックの荷台にへたり込んだ。
「お手伝いしようと思いましたのに…必要ありませんでしたね」
ファイアーティストのトラック、その近くの屋上に移動していたルーがくすりと笑った。その直後、
「あら? あれは……」
ルーは、路地から様子を窺う黒いジャケットの男たちがいることに気づいた。
2
「動くな」
ファイアーティストの蒸気トラックに向かうパーシーとガラード。
その間に、路地から現れた5人の男たちが割って入った。
全員、黒のジャケットに赤いネクタイという姿。ファイアーティストのアジトに来た男たちと同じだ。
5人のうち2人が安物の拳銃を手にしている。他はナイフとこん棒を持っている。
「こいつはオレたちの獲物だ」
拳銃を持つ2人がパーシーとガラードに銃口を向けて牽制し、他がトラックの荷台からファイアーティストを引きずり下ろした。
震える銀ののっぺらぼうは両腕を押さえ付けられ、そのノドにナイフが突きつけられた。
「よせ! そいつは違う!」
パーシーが叫んだ。
えっ? とガラードがパーシーを見る。
ならず者たちが逃げ出し、ファイアーティストは脅え、腰を抜かしている。その姿にパーシーは違和感を持っていた。
「マスクをはいでみろ。別人だ」
黒ジャケットの一人が耐熱服のマスクをはぎ取ると、薄汚い老人の顔が現れた。
「こいつは!?」
「違うぞ!」
黒ジャケットたちが、懐から取り出した似顔絵と見くらべ、うめいた。
ファイアーティストことバーナード・ブレイズは45歳。顔半分に大きな火傷の跡がある。
この老人は年齢も違えば火傷の跡もない。似ても似つかぬ別人だ。
「助けてくれ! オレはカネもらってトラックに乗ってただけだ!」
浮浪者らしい老人が叫ぶ。
「お前たち、ペトロポリタンに雇われたか?」
パーシーが鋭い眼で黒ジャケットたちに問うた。
「こいつらは何も知らねぇよ」
いつもの調子に戻ったガラードが言う。
「思い出したぜ。近頃、はぐれ者のゴロツキに汚れ仕事を斡旋する犯罪者組合があるってな。その名はブラッド・ユニオン」
15年前の大火の後、混乱と復興の中で犯罪組織も急成長し、様々な形態を持つものが現れた。
その一つがこのブラッド・ユニオンと呼ばれる裏社会の犯罪者組合だった。
〈仕事〉をする際には黒のジャケットと赤いネクタイを着けさせることからblack & redを縮めてbladそして血と呼称されるようになったという。
「犯罪者の組合だと?」
「労働者組合と同じさ。事を起こす時だけ人数を集める。組織といってもこいつらには上下もなければ横のつながりもねぇ。だからなかなか表に出ることはなかった」
「オレたちに与えられるのは、ターゲットの情報とこのお仕着せだけ。雇い主なんざ知るかよ」
銃を手にした男が自分の黒のジャケットを引っ張り、言った。
「「そうか!」」
はっとなってパーシーは声を上げた。
奇しくも同じタイミングで、ヴィヴィアンも声を上げていた。
「ファイアーティスト──ブレイズはペトロポリタンを恨んでいる。なのに発火装置のターゲットにされていない」
「それがどうした?」
ガラードが尋ねる。
「同時多発放火は陽動だ。ターゲットは別にある」
パーシーの頭に、シェルダンと会見した時のことが思い浮かんだ。
シェルダン社長は、ホムズ河を見下ろしながら誇らしげに言った。
──明日、初代イグニスとイグニスⅢもホムズ河に参ります。新大陸の石油を満載してね。
「本命はタンカーだ!」
叫んだパーシーはソードフィッシュに向かって駆け出した。
ガラードとパーシーの無双回でした。
この二人のやりとりは書いていて楽しいです。
そして、次はいよいよクライマックスですよ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければブクマ、応援、感想などをお願いします。
質問、そしてツッコミも大歓迎ですよ。




