表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/89

#2-3.大火の謎と令嬢の罪

【前回までは】

放火魔ファイアーティストは15年前の大火の犯人なのか? そしてヴィヴィアンの「罪深いというなら、私はその最たるもの」という言葉の意味とは──



     1



 キャメロット警察署に戻ったパーシーは、2階にある資料課へと向かった。


 2階フロアすべてを占める資料課は、女性警官も多く、静かながらも活気がある。かつて地下室の資料室だった頃とは大違いだ。


 〈アフターズ〉の登場がすべてを変えたのだ。

 世に出ていないテクノロジーを用いる犯罪者と戦うには、その技術の出所、犯人の出自から迫るのが効果的と考えられた。

 そこでただの保管庫だった資料室が過去の犯罪歴、事故の記録を管理、調査する資料課へと拡充されたのである。


 パーシーは資料課のアーカイブ室の主任トリスタンの元に向かった。


「トリスタン先輩」

「パーシーか。久しぶりだね」


 のんびりした顔と口調でトリスタンがパーシーを迎えた。


 アーカイブ室の主任トリスタン・ライアスは30歳。

 役者のような美形であるが、その物腰と話し方はのどかで、「弦が緩んだ竪琴のような気の抜けた男」と評されている。


「15年前の大火で調べたいことができまして。先輩は今もあの大火を調べているのでしょう」

「時間がある時に整理しているだけだよ」


 大火災グレートファイア、公式にはキャメロット大火と呼ばれるあの火災の調査は、早々に打ち切られていた。

 警察自身が被災してそれどころではなかったこと。調査より復興を優先した結果、情報や資料の多くが散逸してしまったことが理由とされている。


「公式に発表されている以上のことは知らないよ」


 パーシーを閲覧室に案内しながらトリスタンが言う。


「分かっているのは、火元はどうやら複数らしいこと。誰が火を点けたのかは相変わらず不明のままさ」


 犯人が不明なため、巷では今も様々な憶測が飛び交っている。

 政治結社によるテロ。

 不逞な外国人の仕業。

 中には、政府が都市改造のために放火した説もあれば、イカれた科学者の新兵器が暴発した説もある。魔術師が召喚したドラゴンが火を放ったというとんでもないものまであった。


「その容疑者について調べたいのです」


 パーシーはファイアーティストについて話した。


「炎の芸術家ねぇ。また奇っ怪な〈アフターズ〉が現れたものだね」

「こいつがあの大火の犯人かは不明ですが、何らかの関わりがあるかと思いまして」

「そうか。ちょっと待ってて」


 トリスタンは自ら立って資料を取りに行った。

 資料課の一角にある閲覧室でパーシーが待っていると、資料ファイルの山を手にしたトリスタンがやって来た。


「主任自ら、すみません」

「手が空いているのは僕だけだからね」


 穏やかに笑ってトリスタンは捜査ファイルを机に置いた。ついでに閲覧室の隅にある給湯器でお茶を淹れ、パーシーに出した。


「パーシーは覚えているかな? はじめに犯人とされた人間を」

「たしか、マッチ工場の女工でしたね」

「君、その頃7歳だっけ。よく覚えているね」


 トリスタンが感心した。


「大火の一ヶ月後くらいですよね。その女性が逮捕されたのは」

「──リンダ・マーチ。工場の待遇改善を求めてストライキを呼びかけた。その際、聞き入れなければ工場を燃やすと言ったことから()()()()()()()()()んだ」



     2



「大火の後、キャメロット市民は脅えていた。いつまた火を点けられるのかとね」

「ひどい時期でした」


 市の八割を焼いた大火災で警察署も焼け、警察官自身被災者になっていた。

 捜査、治安維持に向けるリソースは最低限以下。避難所では窃盗、強姦は当たり前、殺人すら珍しくなかった。


「市民を落ち着かせるためには犯人が必要だったんだ。件の女工は、収監されて間もなく、獄中で自殺した。彼女の無実が判明したのは大火の10年後。火元が複数あったらしいと調査結果が出てからだ」


 大災害は、その後も犠牲者を出し続ける……。


 わき上がる感情を深く沈め、パーシーはリンダ・マーチのファイルを手に取った。


 マーチが収監された施設には、連日大勢の市民が押しかけ、彼女を「炎の魔女」と呼び、その死刑を求めて騒いでいた。

 連日浴びせられる群衆からの罵声、呪詛、憎悪の言葉にマーチは心を病み、自ら命を断ったのである。

 市民たちが彼女を殺したも同然だった。


「8歳の息子がいたんですね」


 資料にある係累は息子だけだった。夫は大火の前に亡くなり、両親や兄弟にも存命中のものはいない。

 マーチの息子が存命ならパーシーの1つ上、成人している。


「パーシーは、彼女の関係者がファイアーティストだと思っているのかい?」

「あくまで可能性のひとつですが」

「相変わらず慎重だね」

「師匠譲りです」


 パーシーの言葉に、トリスタンは照れたように笑った。


 刑事になったばかりのパーシーに捜査のABCや剣術を教えたのは、当時刑事だったトリスタンであった。

 しかし彼は結婚を機に事務職の資料課に異動するよう願い出て、今に至る。


「他の容疑者はこれだ」


 トリスタンが机に容疑者のファイルを並べてゆく。


 王政復古主義者。

 共和革命の過激派。

 外国人。

 石炭メジャーにつぶされた石油企業の関係者。


「え?」


 そのファイルの一つにパーシーは目を見開いた。


 ヘンリー・ベンウィック伯爵。


「ベンウィック伯爵が容疑者?」


 ヴィヴィアンの父が容疑者の中にいたのである。


 パーシーはひったくるようにファイルを取り上げ、中を見た。


「火元の一つと目される場所がベンウィック伯爵邸だったんだ」


 トリスタンが言う。


「伯爵が自宅に火を放ったと?」


 ファイルにはさらに信じがたい事が書かれていた。


 ──動機 一人娘ヴィヴィアンが亡くなり、絶望したベンウィック伯は自ら屋敷に火を放った。


「ヴィヴィアンが死んでいた!?」


 パーシーは混乱した。

 

 では、あの令嬢は誰なんだ?


 ──罪深いというなら、私はその最たるもの。


 パーシーの脳裏に、別れ際、ヴィヴィアンが漏らした言葉がよみがえった。



     3



 ベンウィック邸はキャメロット北部の郊外にある。

 広い庭園に囲まれた真っ白な館は、遠目にもその華麗さがわかると評判である。


 この瀟洒な館の地下に、薔薇の騎士の秘密基地アーセナルがあるとは誰も知らない。


 屋敷に戻ったヴィヴィアンは、地下の研究室へと足を向けた。


「珍しいな。レディがここに来るとは」


 ボサボサの白髪、大きく見開いた眼、よれよれの白衣姿のマーリン博士がヴィヴィアンを迎えた。


「ちょっとした気まぐれですわ」


 真鍮とガラスの機械や器具に満ちた冷たい空間をヴィヴィアンは見回した。


 この場所が、ヴィヴィアンが誕生した場所であった。


「ドクター・マーリン、私はベンウィック伯爵の娘ヴィヴィアンと同じ人間? それとも別人なのかしら?」

「その問いの答はイエスでありノーだ」


 マーリンはうろうろと歩きながら答えた。


「オリジナルのヴィヴィアン──ヘンリー・ベンウィック伯爵の一人娘ヴィヴィアンは、事故により死んだ」


 妻は既に亡く、娘だけが生きがいだったベンウィック伯爵は、悲しみのあまり狂気に陥ったという。

 娘の死を受け入れられない伯爵は、キャメロット屈指の財力で娘を蘇らせようとした。


「はじめは高名な医者や科学者が呼ばれた。だが死んだ娘を蘇らせることはできなかった。当然だ。表に出ている医学や科学では死の克服など夢のまた夢だ。伯爵は闇の技術、正統から外れた研究者──今で言う〈アフターズ〉たちを頼った」


 話しているうちにマーリンは興奮した口調になっていた。


「面白いヤツらがいたぞ。魔術師に錬金術師。死体蘇生、人造生命そして複製細胞の研究者」


 いつの間にかヴィヴィアンの後ろに三人のメイドたちが立っていた。


 黒髪と黒い瞳で無表情なモリー。

 ブロンドの長い髪と柔和な微笑みを浮かべるルー。

 小柄で溌剌、栗色の髪をしたフェイ。


 姉妹ということになっているこの三人は、伯爵令嬢を蘇らせる実験の中で生み出されたものたちであった。


「あんたは細胞複製によって生み出された複製人間だ。生物学的にはオリジナルのヴィヴィアンと同じだ。唯一、髪の先が銀色になるという違いがあるが、そんなものは些細な差だ」

「その些細な差が、決定的な違いではなくて?」

「そこではない、そんなことは重要ではない!」


 ヴィヴィアンにマーリンが叫ぶように言った。


「別の個体であること! それこそが重要なのだ! 細胞レベルまで同じでありながらレディはオリジナルのヴィヴィアンと別の存在なのだ! いまだかつてそのようなものは存在したことがない!」


 両手を広げマーリンは天を見上げた。

 理由はまったく分からないが歓喜しているようだ。


「別の個体…やはり私はベンウィック伯の娘ではない、ということになるのですわね」

「いかにも。生物学的にはベンウィック伯の娘だが法的、社会的にはノーだ。人間ですらない。この世界はレディを受け入れまい。倫理にも法にも反した存在だからな。正体が知られぬよう気をつけるがよい」


 忠告しながらマーリンは、うひひ、と笑った。


「もし、パーシーが、私の正体を──人間ではないと知ったらどう思うかしら?」


 法的なことよりも大事なことだった。


「ニセモノ、化け物と呼ぶのでは?」

「モリー! そこは、あの人なら大丈夫、と言うところでしょう!」


 間髪入れないメイドの冷たい言葉に、ヴィヴィアンは叫んだ。


「ヴィヴィアン様はヘタな慰めがお嫌いですから、正直に申し上げました。申しわけありません」


 ちっとも申し訳なく思っていない無表情でモリーが言う。


「フェイは大丈夫だと思うよ。根拠はないけど」

「私たちのような存在を受け入れるなら、パーシー刑事は変態ということになりますね」


 勢い込んで言うフェイ、続いてルーがにこやかに笑って言う。


「パーシーは変態じゃありません!」


 ヴィヴィアンが叫び、そこにまたメイドたちがあれこれと勝手なことを言う。


「賑やかですね」


 スコーンとお茶をトレイに乗せた老執事ボールスが顔を出した。


女子おなごが集まるとやかましくてかなわん」


 両手で耳を塞いでマーリンがつぶやいた。


「法も社会も関係ない。このものらはイヤというほど人間だ……」



開示されたヴィヴィアンの秘密。いかがでしたでしょうか?

ヒーローをしていることともに、存在自体にヤバい秘密がある主人公。

ついでにメイド姉妹たちも人外であると開かしました。

モリーたちの正体については、いずれまた。


お読みいただきありがとうございます。

よろしければブクマ、評価、感想などをお願いします。

質問、ツッコミも大歓迎ですよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ