#1-13.大火の絵
【前回までは】
ナイトフォーム…機械の騎士へと変形したランサーにより、サンダーボルト団は壊滅した。そして──
──翌日。
パーシーとガラードはロッホ・ネスを訪れていた。
連れ立ってきたわけではない。店の前で出会ったのである。
「あら刑事さん」
カウンターで注文しようとしたところでヴィヴィアンが現れた。後ろには影のようにメイドのモリーが付き従っている。
「今日はまた…ご機嫌斜めみたいですわね」
「この顔は地です」
努めて冷静に、パーシーは無感情の仮面を被った。
刑事たるもの、感情の制御くらいできなくてはならない。
「薔薇の騎士にサンダーボルト団を退治されたから、機嫌が悪いんですよ」
「おい!」
ガラードのせいで無感情の仮面がはがれてしまった。それを見てヴィヴィアンがくすくすと笑う。
「ガラードさんもご活躍でしたね」
ヴィヴィアンが店内に目をやった。
客の大半が手にしている新聞はラウンドだった。もちろん読んでいるのは「薔薇の騎士、怪自動車軍団を退治す!」の記事である。
「編集長もご機嫌で、特別手当を頂きました。おごってやるぜ。好きなもの頼めよ」
後半はパーシーに向けたものだった。
しかしパーシーはガラードを無視すると、
「閲覧室を2時間、真空フロギストンエンジンに関係したフィルムを頼む」
と、カウンターの係に告げた。
「今日は薔薇の騎士の調査ですの?」
「危険な〈アフターズ〉を野放しにはできないからな」
パーシーの言葉に、ヴィヴィアンの眼がすっと細まった。
「民衆のヒーローですわよ?」
「今のところはな」
ヴィヴィアンの鋭い視線をパーシーは正面から受け止めた。
「だが、ヤツがいつ市民に牙を剥くか分かったものではない」
どんな車両よりも速く走り、人型となれば拳の一撃で建物を破壊する。
装甲に覆われた怪自動車を易々と撃破したリボルバーライフルも脅威だ。
「あれは、個人が持つには大きすぎる力だ。野放しにしてはおけない」
「この件に関しては、刑事さんと意見が合わないようですわね」
ヴィヴィアンは肩をすくめた。
「ですが、楽しみですわ。刑事さんが、薔薇の騎士を捕まえることができるのか」
「必ず、捕まえて見せますよ」
挑発的なヴィヴィアンの笑みに、パーシーは冷たい笑みで答えた。
両者はにらみあったまま笑い合う。
異様な空気に、店内の客たちが何事かと視線を向けた。
いつもならここで二人そろって「フンっ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。しかしこの時のヴィヴィアンは違った。
ふいにヴィヴィアンの笑みが固まったのだ。
彼女は、それまでパーシーが見たことのない表情をしていた。
思わずヴィヴィアンの視線の先を追うと、店員が大きなポスターが貼っていた。
それは高名な画家の個展が開かれる告知だった。
ポスターには、紅蓮の炎が踊る絵が描かれていた。
「コンラート・ディッペルの『インフェルノ』か」
ガラードが言う。
画家の代表作であるその絵は、キャメロットの大火をモチーフにしたものだった。
禍々しく恐ろしい絵だ。
しかし同時に活力に満ちていて、見る者を高揚させる魔的な魅力を持っていた。
「悪趣味な絵だ」
「同感ですわ」
思わず漏れたパーシーの言葉に、ヴィヴィアンは同意した。
「ですが、あの大火が今のキャメロット──私たちを作ったのです」
遠い目をしてヴィヴィアンはつぶやいた。
「すべては、あの大火からはじまった……」
令嬢の美しい横顔を見つめるパーシーは、ときめきとは異なる、奇妙な胸騒ぎを感じていた。
(第1話 薔薇の騎士 おわり)
【次回予告】
夜のキャメロットを怪火が襲う。
それは15年前の大火災の再来か。
炎の芸術家を自称する怪人ファイアーティストとは何ものか?
謎多き15年前の大火は、かの怪人の仕業であったのか?
我らの敏腕刑事、パーシーの捜査やいかに。
脅威のマシン、ランサーの大活躍やいかに。
蒸気の都に、炎より熱く燃えて展開する大活劇。
そして明らかになる、薔薇の騎士誕生の秘密。
次回、『スチームキャメロット第2話 炎の記憶』にご期待下さい。
スチームキャメロット第1話でした。
いかがだったでしょうか?
第2話も続けて公開してゆきます。
気に入っていただけたら、今後もお付き合いください。
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