#1-12.見参! ナイトフォーム
【前回までは】
卑劣なる罠をしかけたサンダーボルト団。罠と承知で誘いを受けたヴィヴィアン。5対1という劣勢の中、薔薇の騎士のランサーは変形! 機械の騎士の反撃がはじまる──
1
──ナイトフォーム。
ランサーが人型に変形したこの姿を、ヴィヴィアンたちはそう呼んでいる。
モーターサイクル時に右側面に取り付けられていたリボルバーライフルを構えたその姿は、正に機械の騎士であった。
真空フロギストンエンジンが咆え、機械の騎士となったランサーが地上からわずかに浮き上がる。背部に移動したエンジンブロックから噴き出す高圧噴流によるものだ。
脚を動かさず、ランサーは滑るように駆け出した。まるでアイススケートのような動きだ。
サンダーボルトたちが呆気にとられる中、ランサーは正対していた怪自動車に肉迫。左手で人質のボルトン伯爵をつかみ上げると、更に加速し、怪自動車の包囲網から抜け出した。
「お、おい!」
ガラードが声を上げた。
抱囲を抜けたランサーがこちらに向かって来るのだ。
二人の前に来たランサーは、左手に抱えていたボルトン伯を放り投げてよこした。
なんとか受け止めたパーシーとガラードだが、伯爵を抱えたまま尻餅をついてしまう。
「お前は…!」
思わず上げた声に、ランサーは頭部ユニットだけ動かしてパーシーを見た。
機械の頭は、いくつもレンズがあるカメラのようだ。非人間的でありながらその形は顔を思わせ、動きは人間くさいものがあった。
パーシーを振り向いたのは一瞬だけで、ランサーは怪自動車たちに向かっていった。
「何やってる! 撃て撃て!」
アクセルが怒鳴った。
怪自動車たちがハープーンガンを向けようと向きを変える。
しかしその動きはランサーに比べるとあまりに鈍重だった。
2台の怪自動車がハープーンガン放った。
だが、ランサーにはかすりもしない。
ランサーの右手に構えたリボルバーライフルが咆えた。
怪自動車の1台が前輪と後輪をまとめて破壊され、擱座する。凄まじい威力だ。
「はははっ!」
ヘルメットの中で笑い声を上げ、ヴィヴィアンはリボルバーライフルを連射した。
前輪二つをまとめて破壊された怪自動車が擱座する。
側面から撃ち抜かれた車両が火を噴いた。搭乗者たちが慌てて中から飛び出た直後、爆発、炎上した。
「おい、あれ!」
ガラードがパーシーの肩を叩いた。
ガラードが指差しているのはランサーのすぐ後ろにある木造の事務所だ。
2階の窓に長大なライフルを構えた男がいる。台座に据えたそのライフルは、3メートルを超えていた。
「パントガンか!」
パーシーがうめく。
水鳥を一度に100羽も獲るという大型の猟銃である。その口径は五センチもある。
ランサーは背を向けていて気づいていない。
ランサーの背中は機関部がむき出しである。あんなもので撃たれたら無事ではすまない。
2
パーシーは拳銃を両手で構え、パントガンの男に狙いをつけた。
距離は50メートルほど。
拳銃ではまず当たらない距離だが……。
ガラードが固唾呑んで見守る中、パーシーは引き金を引いた。
銃弾はパントガンの男に当たらなかった。
しかしすぐ側に着弾した銃撃に、相手はひるんだ。弾みでパントガンが空を向き、大砲のような轟音が上がる。
ランサーは振り返ると、左の拳を握りしめ、男のいる事務所に殴りかかった。
鉄の拳が木片を散らして壁を大きくえぐる。とんでもない破壊力だ。
2階の床、そのすぐ下の辺りをごっそり失った建物は、自重で倒壊した。パントガンの男はそれに巻き込まれ、ガレキの中に埋まってしまう。
残るサンダーボルト団は怪自動車が2台。
その内1台がランサーに背を向けて、逃げ出した。
ランサーのリボルバーライフルが火を噴き、逃げる怪自動車の後輪を吹き飛ばした。
逃げようとした怪自動車は車体を滑らせ、擱座した。
アクセルは青ざめ、声を失っていた。
薔薇の騎士のランサーは想像を超えた化け物だった。
あっと言う間にサンダーボルト団は壊滅し、残るはアクセルの乗る1台だけだ。
「くそが!」
アクセルは叫ぶと怪自動車をランサーに突進させた。体当たりするつもりだ。
隣の機関士席でロックウェルが「やめて!」と叫ぶのも耳に入らない。
突進するアクセルの怪自動車をランサーは身軽にかわすと、その側面を蹴り飛ばした。
衝撃で制御を失ったアクセルの怪自動車は、擱座した仲間に乗り上げ、空中で横転、背中から大地に激突した。
しかし勢いは止まらず、怪自動車は鉄片をまき散らしながらすべってゆく。たっぷり20メートルはすべったところで資材の山にぶつかり、ようやく止まった。
サンダーボルト団は壊滅した。
あまりにあっけなく、そして無様な最後であった。
3
横転した怪自動車の装甲に、ランサーの鋼の腕がかかった。装甲板が悲鳴を上げて引き剥がされてゆく。
「すげぇ」
パーシーと共に駆け寄りながらガラードが感嘆する。
ランサーは車内からアクセルとロックウェルを引きずり出すと、パーシーとガラードの前に置いた。アクセルもロックウェルも気を失っているだけで生きているようだ。
けたたましいサイレンの音が近づいて来る。
ポリスカーが大挙してやって来たのだ。
「お前は……」
パーシーは機械の騎士ランサーを見上げた。
幻のエンジンを搭載し、人型に変形するモーターサイクル。
〈アフターズ〉の中でも飛び抜けたテクノロジーだ。それを駆る薔薇の騎士とはいったい……。
「お前は、何者なんだ?」
心の中にわき上がる声が、言葉となっていた。
カメラの眼でパーシーを見つめ、薔薇の騎士はしばし考え、
「テクノロジーを悪用する犯罪者を退治する──怪傑ランスロット」
と、言った。
「この前と違うじゃないか!」
パーシーの叫びは噴射音にかき消された。ランサーの背部から一際大きな噴流が放たれたのだ。
機械の騎士が空に舞い上がる。
パーシーとガラードはあんぐり口を開けた。
二人の頭上10数メートルを、ランサーが翔けて行く。
機械の騎士は、押し寄せて来たポリスカーたちの上を軽々と飛び越すと、その後ろに着地した。
驚き、急停止したポリスカーたちが次々と玉突きに衝突して大混乱となる。
機械の騎士はモーターサイクルに変形すると、呆然となる警官たちを後目に走り去った。
その姿は、黄昏の赤い光と街の蒸気に呑み込まれ、すぐに見えなくなった。
ナイトフォーム──ロボ形体となったランサーの活躍、いかがだったでしょうか?
次で第1話は完結。2話の予告付きです。どうぞ読んで下さい。
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