#1-11.卑劣なる罠
【前回までは】
薔薇の騎士のランサーvsサンダーボルト団の怪自動車のレースが開始! 記者ガラードは、悪党どもが卑劣なる罠を用意していたことを知り、刑事パーシーに伝えたが──
1
沿道に見物人がひしめく幹線道路を、化け物じみた怪自動車と真紅の大型モーターサイクルが疾走する。
轟く排気音が耳をつんざき、風を巻き起こして2台のマシンが石畳の通りを駆け抜けて行く。
沿道の見物人たちは、ある者は息を呑み、ある者は歓声を上げて2台のマシンを見送った。
サンダーボルトの怪自動車が前に出たかと思えば、薔薇の騎士のランサーが抜き返す。モーターサイクルと怪自動車は激しく競り合う。
はた目には互角の勝負。
しかしそれは、ヴィヴィアンが様子見をして本気を出していないからだった。
サンダーボルト団の挑戦状をヴィヴィアンは額面通りに受け取っていない。何か企みがあるに違いなかった。
「どこで仕掛けてくる?」
ヴィヴィアンがつぶやいて間もなく、それは起きた。
スタートから十三号線の三分の一ほどまで来た地点で、2台の行く手を阻むように馬車が現れた。
薔薇の騎士とサンダーボルト団の対決のため、十三号線は警察によって封鎖されている。その通知は徹底していた。馬車が紛れ込むはずがない。
馬車は道のまん中で止まると御者が飛び降りた。同時に馬車が爆発した。いや膨大な白煙が吹きだしたのだ。
「やはり」
ヴィヴィアンに笑みが浮かぶ。
案の定、サンダーボルト団の仕掛けだ。
白煙が沿道の見物人たちを包み込む。白い闇の中、見物人たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
白煙の手前で、ランサーとサンダーボルトの怪自動車が並んで停止した。
怪自動車の重なり合った装甲板が開き、ドライバーが顔を出した。目出し帽をしていてその顔は見えない。
「ついて来い薔薇の騎士!」
それだけ告げるとドライバーは中に引っ込み、怪自動車は走り出した。すぐに右に折れ、側道に入る。
「招待とあれば断れないわね」
ヴィヴィアンは不敵に笑ってランサーを出すとそのあとに続いた。
白煙が晴れた時、人々の目の前からランサーと怪自動車は姿を消していた。
× × ×
「急げ! もっと!」
「やかましい!」
助手席でわめくガラードにパーシーは怒鳴り返すと、大きくハンドルを切った。交差点のまん中で蒸気自動車ソードフィッシュが後輪を滑らせ、ほぼ直角に右折する。
サンダーボルト団のアジトでガラードが見つけたもの。それは、建設工事中のニュートン自動車工場の図面であった。
図面に書き込まれた手書きの文字からは、薔薇の騎士のランサーをここに誘い込み、抱囲して始末する計画が読み取れた。
ホムズ河に架かる橋を渡り、ソードフィッシュは左に折れた。パーシーは床を踏み抜く勢いでアクセルを踏む。蒸気自動車がホムズ河南岸を疾走する。
表面的には冷静に見えるパーシーだが、ガラード以上に気が急いていた。
薔薇の騎士を、サンダーボルト団などに殺させてたまるか!
それは刑事としての矜持か。はたまた薔薇の騎士への敬意か。それはパーシー本人にも分からない。
自分でも分からぬ熱い想いに駆られ、パーシーはアクセルを踏み、ソードフィッシュを疾走させた。
突然、ソードフィッシュが一際激しい蒸気を吹いた。
汽罐の圧力が危険レベルに達し、安全弁が作動したのだ。みるみるソードフィッシュの速度が落ちてゆく。
「またか!」
パーシーは舌打ちするとソードフィッシュを停止させた。
「おい?」
「工場はすぐそこだ。走った方が早い」
言うなり、パーシーは車を降りた。普段は持ち歩かない六連発拳銃を手にしている。
「カメラ持って来るんだったなあ」
ぼやいてガラードが後に続いた。
2
造船ドックが二つ三つ入りそうな広大な建設現場は静まり返っていた。
2年前、ニュートン自動車は大量生産に向け、旧工場の建て替えに着手した。しかし直後に労働争議とそれに関わる不正が発覚し、以来、工事は止まったままだ。
半ば解体された旧工場と積み上げられたままの建設資材、大小の倉庫と木造の事務所といったものがそこかしこに点在している。
資材の山に隠れながら、パーシーとガラードは奥へと進んだ。
ランサーとサンダーボルトの怪自動車はまだ来ていない。
人目に付かないルートを通っているからだろう。それでパーシーたちが先に着いたのである。
「──来たぜ」
遠くから聞こえてきた二つの爆音に、ガラードがつぶやいた。
ほどなく、怪自動車に先導されたランサーが建設現場に入って来た。
敷地の半ばに来たところで、怪自動車は停止した。
ヴィヴィアンもランサーを停止させると、怪自動車はぐるりと回り、ランサーと相対した。
怪自動車の装甲板が展開し、縛られたボルトン伯爵と目出し帽の男が姿を現した。
「ハイウェイの王者が聞いて呆れる」
機械を介したヴィヴィアンの声に、アクセルは目出し帽の中で笑みを浮かべた。
アクセルが片手を上げると、そこかしこの物陰から排気音が轟いた。
建設資材の陰や倉庫の中から、次々と怪自動車が姿を現した。
「こんなにいたとはね」
ヘルメットの中でヴィヴィアンが苦笑する。
サンダーボルトの怪自動車、その数はあわせて5台となった。
新たに現れた4台の怪自動車は、ランサーを取り囲み、威嚇するようにエンジンを噴かしている。先端のハープーンガンが赤いモーターサイクルに向けられる。
「くそっ!」
薔薇の騎士の窮地に、バーシーは、思わず資材の陰から飛び出していた。
五対一。誰の目にも薔薇の騎士とランサーはここで最期を迎えると見えた。しかし──
「フッ」
ヘルメットの中、ヴィヴィアンは唇をつり上げて笑った。嘲りの笑みだった。
ランサーのエンジンが一際大きく咆吼し、前輪が大きく跳ね上がった。馬が竿立ちになった姿に似ている。
「な…!」
パーシーは目を剥いた。いや、その場に居る者たちすべてが驚愕していた。
モーターサイクルが、その形を変えてゆく。
車体の中程が折れ曲がり、カウルが形を変えて移動し、操縦者を覆うと同時に頭部ユニットが現れた。後部左右のユニットが上下に分割され、上部は腕に、下部は脚へとその形を変えた。
「なんじゃそりゃああああ!」
パーシーは思わず叫んでいた。
数秒で、モーターサイクルは身長4メートルの機械の巨人にとその姿を変えていた。
ついに来ました! 変形!
バイクからロボに変形する作品というと、皆さんは何を思い出しますます?
私はメガゾーンのガーランド、そしてバブルガムクライシスのモトロイドですね。
本作のランサーには、上記ふたつに加え、TRPGメタルヘッドのTCSもイメージしています。
さてランサー、その活躍はいかに?
待て次回!
お読みいただきありがとうございます。
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