北の大地①
かねてから誘いのあった、北の大地への訪問。
由良姫と宇羅彦は、どうしても同行したいという万里依に気圧され、宇宙依を含め4人で行くことにした。
訪問先は、北の大地、随一の大都市と二番目の中核都市となった。というのも、北の神守との交流が主要目的なので、結果的にその人たちが多く住む場所となったわけだ。
行きは地元の国内線が主流の空港から飛行機だった。初めて飛行機に乗る由良姫は、揺れないということに驚いていた。
北の大地の空の玄関口には、まず最初の訪問地、大都市から来てくれた神守が2人待っていた。同じ歳の頃の男性は神居開、女性は神居千生といった。
「初めまして。ずっとお会いしたかったんですよ。市内のホテルをご用意したので、案内しますね」
一行は、中心部駅前ののワンランク上のホテルへ案内された。
「まずは、今日はゆっくりして下さい。明日は、この街の神居の自治会の皆さんと、このホテルで立食パーティーをする予定です」
「どれくらい集まるんですか?」
「50人くらいだったと思います」
想像以上の人数に驚いていると、これでも都合がつかず残念ながらあきらめた人が大勢いるという。
「お一人ずつ簡単にご挨拶いただきたいので、考えておいていただけますか?」
部屋でくつろいでいると、万里依が早速ガイドブックを出してきて由良姫を誘った。
「市内観光その辺だけ、ちょっと行かへん?」
4人は揃って街へ繰り出していった。
「なあ、この景色、まるで地元の大きい街みたいやん」
「ほんまやねえ、広い大通り公園にテレビ塔って、まんまやんか」
それほど高いビルもなく碁盤の目のように整った道路、広い空と遠くに山も見えない。ただ、空気感は違っていた。
本当は、今日迎えにきてくれた人が案内しようかと言ってくれたが、万里依が丁寧に断っていた。何にせよ、なんでも自分の目で一通り確認しないと気が済まない。眼を持つ者の性分なのだから仕方がない。
特に繁華街をぶらぶら散策しているだけで、だいたいどこで何が起きているかが視えてくる。新しい施設の周りでは少ない。けれど昔ながらのディープな場所ほど、格段に多くなる。
地元の人でも限られた目的で足を運ぶ人たちが集まるところは、それなりだ。どこも大して変わらない。
「うーん、この辺の雰囲気ってうちらの地元の街の駅前のあの辺とよう似とるな」
「昭和感満載やな。似とるってことは風俗もラブホも配置は似とるやろな」
「万里ねえは、それを視に出てきたん?」
万里依は大笑いしながら、呆れる由良姫に謝った。
「やっぱさあ、もしケガレ出るんならこういうとこかなあとか、もう病気やな。さあ新しい商業施設行こか」
「そうやな、たとえケガレが出たとしても、ここは神居のシマやで、勝手に祓いに動くわけにはいかんし」
「ナワバリみたいなんがあるの?」
「うーん、まあ簡単に言えばな。それぞれにやり方があるやろ」
「そうや、勝手にズカズカ入ってきて口だしたら、東の首都の、あのクソ神守と一緒やん」
由良姫も宇羅彦も、街の中を歩きながら絶えずどこかからかの、分散された視線を感じていた。それは万里依たちも同じで、何食わぬ顔をして、王道の観光巡りへとスッと切り替えた。
「目があるな。誰が神居かもわからんで。確か50人くらい来るって言うとったなあ」
宇羅彦が小声でボソボソ呟く。
もしも、自分たちの力量が見たいのなら、向こうから計画的に祓いに誘ってくるはずだ。それまでは素知らぬ顔をしておくのが一番だ。
宇羅彦が小腹が空いたと言うので、海鮮の苦手な宇宙依と揃って有名な味噌ラーメンを食べに行った。その間、由良姫と万里依は先にホテルへ帰って温泉に入っていた。
夜は、万里依がわざわざ随分前から予約していた、海鮮で有名なお店へ食べに出かけた。少しだけ、夜の歓楽街の顔を拝み、4人は早々にホテルへ引き揚げた。
翌日は朝から動物園や屋外施設など、こちらもベタな観光スポット巡りで費やされた。そして、夕方早めの時間から、地元の神守、神居たちとの懇親会が始まった。
北の大地では、開拓民として渡った神守が、地元民たちから神居と呼ばれるようになったことがきっかけで、現在その多くは神居と名乗っている。
年老いた年配の神居たちは、由良姫と宇羅彦を取り囲むと拝む者まで現れた。
「御子姫殿のお子様に、こうしてお会いできるなど夢のようです」
北の大地では、御子姫だけでなく、響家奏家の古い話がしっかりと語り継がれていた。
新天地を目指したはずの彼らの中に、なぜ古い物語が語り継がれたのか、それが開拓民である彼らの唯一のアイデンティティとして、大地に根付くまでを支えてきたのかもしれない。
神居開と千生は高校3年生だった。由良姫と宇羅彦とはすぐにうち解けた。他にも二つ紋は何人もいたが、社会人から小学生まで参加していた。
そして、中には万里依たちと同じように、眼を持つ者もいた。万里依より10歳ほど年配の女性が声をかけてきた。
「あの、自治会長さんからお願いされてた……んですが、視ていてごめんなさい。せっかく来ていただいて、何か危ない目に遭われては、って」
「ええですよ。とうに気ぃついてましたし。それに、街の中でも普通に見られてる感ありました」
「ですよね……失礼だとはわかってても、つい嬉しくて追っかけしてたんだと思います」
その女性の言葉通り、由良姫と宇羅彦の周りは絶えず人集りだった。もちろん万里依も宇宙依も、なかなか話が尽きない。
「確か、宇宙依さんは先見の持ち主だと聞いてます。ここには先見ができる者がおりません。ぜひ、ご協力いただけたら嬉しいです」
開がそう言って、PCのアドレスを渡してきた。
由良姫や宇羅彦も、あっという間に何人もと携帯の番号を交換していた。同じ年代から年配者まで、多くの神居たちとの懇親は、後に2人にとっては財産となった。
「ところで、祓いの話なんですが、どなたと話をさせてもらったらいいですか」
自治会の中の若手の代表が、万里依に話しかけてきた。
「うちで構いません。あとで4人で共有します」
「そうですか、では早速なんですが、明日の晩にでもパトロールに同行されますか?」
「パトロールですか?」
「ええ、ここには先見ができる者がいない、というか、いるんですがまだ幼くて……」
そう言って男が抱っこして連れてきたのは、5歳くらいの女の子だった。
「娘の美苗です。6歳になります。まだ視させるには幼すぎます。ですが時々視えてしまうようで……」
「ああ……それはかわいそうに。怖いでしょうね」
万里依は、小さい頃に宇宙依が先見で恐ろしいものを見て泣き叫ぶのを何度も見てきていた。
「うちの弟が先見を持っているので、あとでどうしたらいいか相談できるようにしましょうか」
万里依は宇宙依を呼んできて、美苗の両親と話し始めた。
そうするうちに、北にいる間のことを先見で視ることになった。視るといってもケガレ案件だけだ。
その間だけでも、一緒にケガレを祓いに行ければ助けにもなるし、互いに学びもあるだろう。
すると早速、宇宙依が難しい顔をし始めた。
そういう時はだいたいグレードの高めな祓いの案件だ。宇宙依は万里依へ耳打ちする。
「ひとつお伺いしたいことがあって、ケガレ発生のグレードってご存知ですか?」
「はい、東の首都から聞いてはいます。北では最高でグレードBまでしか発生したことがありません」
万里依が宇宙依を見て頷く。
「そうですか。早速なんですが、そのグレードBが近くのホテルで明晩、発生します。もう明日なので、確定事項です」
男は子供を妻に預けると、開と千生を呼んだ。どうやらこの2人が二つ紋をまとめているらしい。
「明日の夜だそうだ」
2人は頷く。開が笑いながらこう言った。
「仕方ないですよ。一番の観光シーズンだし」




