↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御子母の惑星─みこものほし─第二部 宿命  作者: 宮生さん太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/95

気を喰い荒らす蟲

 試験場では、ちょうど春蒔き作物の芽が出て成長期のはずだった。ところが案内されたビニールハウスを見ると、中では例の微細な黒い斑点の影響か、形が歪んでしまっているものが多かった。

 芽は出て成長はするものの、正常な成長とは縁遠い。


 畜産の方では、本来ならある一定の割合以上孵化するはずの雛が、その多くが卵の中で成長途中に死んでしまっていた。少し青黒くなった亡骸は、解剖されたが特に大きな異常は見受けられないという。

 まだ大型哺乳類では目立つ異変がないため、比較的研究しやすい小型哺乳類で研究を進めているという。


「なんやこの黒い小さな点なんやけど、まさかと思うけどアレやないやろな」


 宇羅彦が宇宙依に向かってボソッと呟く。携帯を取り出すと、宇羅彦は眴に電話をかけた。


「はい、携帯にとは珍しいですね。試験場へ? 今からですか?」


 眴は宇羅彦からすぐに見てもらいたいものがあると聞き、その口調が切羽詰まっていたので用事途中でやってきた。

 農作物の微細な黒点、それこそ点の大きさは1ミリよりもずっと小さい。眴はそれらを見るなり、直接手で触れないよう言った。


「気枯れを起こしています」


 そして形が歪み、奇形を起こして成長する植物を見て、眴はさらに恐ろしいことを言った。


「気の道だけではなく、細胞の核へ影響が……」


「これはモドキなんでしょうか?」


 宇宙依が眴に聞く。モドキにしては、らしくない変容の方向性だった。


「おそらく、モドキとは言い切れませんが、違うとも言い切れません。ケガレとのハイブリッドのようなもの」


「もしこれが、そっち系の仕業だとしたら、病害虫薬は意味がない」


「そうですね。反対にきれいな清水を毎日与えた方がいいかもしれません。どうやったら、気が枯れずに済むか、専門家に尋ねるか……」


「畜産の方は?」


「鶏の雛が孵化しなくなってる」


「受精卵の選別をして、汚染卵と混ぜないで孵化。孵ったら抗生物質より、清水と汚染されていない餌。絶えず流れるよう井戸水を組み上げ清水を与える。牛や豚は体を清水で洗い清めたりも効果はあるでしょう」


 眴はいろんな種類の農作物の黒点のスライドを作っていく。それを1枚ずつ顕微鏡で調べていくことにした。


「その間に、まずは植物の微細な黒点を顕微鏡で見てみましょう。私にならもしケガレの類なら視ることができます」


 フウッと深呼吸だかため息だかわからない呼吸をする。


「どうなん?」


「宇羅彦や由良姫なら視ることできると思います。宇宙依と万里依は安全策をとってやめておきましょう」


「あとで絵に描くわ」


 と言った由良姫が顕微鏡を覗いた瞬間に、大声で「ギャアーッ!!」と叫んだ。


「ヤバい、これは視たらあかんヤツやわ……」


 モドキの形はその時々で変わる。基本的には流線型のゾウリムシのようだ。大きさは、人の口や、ありとあらゆる穴から出てくるのに適した大きさだ。


 その目に見えない大きさのものが、ツブツブで固まって見える。その一粒ずつはまるで蛆のようにピクピク動いている。それが微細な黒点を顕微鏡で覗いて見えたものだった。


「なにこれ、ムシ……蟲っていうの? 昆虫の幼虫とかやなくて、これが形を変えていくんでしょ?」


「そうですね。ツルンとしているより、細かい足のような繊毛がありますね」


「この黒点が出たら、汚染されとるってことか?」


「そうですが、そもそも、その微細な黒い蟲がなんなのかわからないと。もしそれがモドキとケガレのハイブリッドなら食べれません。国中一気に食糧難です」


「どうしたらええんや?」


「西の首都の帝大に、知り合いがいます。連絡を取りましょう。変わった人ですから、嬉々としてやってくると思いますよ」


 その日、由良姫と宇羅彦はせっかく来たからと、自分たちができる限りの世話をして帰っていった。まさか、こんなところまでケガレの影響が出るなどと、いったい誰が予測できただろう。


 家に帰ってくると、由良姫は残念そうな顔をしながら、冷凍庫からカップアイスを取り出すとゴミ箱に入れた。

 チョコチップクッキーのアイスだった。


「アイスやで? 食えるよ」


「え……っ、うちムリ。絶対ムリ」


「捨てんでもええやん。俺、食うし」


「あかん!! 腹立つわ。捨てる!!」


「うるさいですね。毎日、黒いおかずばっかにしますよ」


 その日、顕微鏡で撮影できたデータを持ち帰った眴は、西の首都の帝大にいる学生時代からの知り合いにメールを送った。すると、彼からはすぐに返事が来た。


『ちょうど退屈していたんだ。おもしろいものをありがとう。ところで、すぐにそちらへ行ってもいいかな。俺の寝る場所ある?』


 垰(あくつ)陵侑(りょうゆう)がやってきたのは、メールの返信確認が先か後かの違いくらい、気がついたら到着していた。

 やってくるなり、誰に許可を得るでもなく庭へテントを張って寝始めた。


 朝、由良姫が起きてくると、狐のケンが庭への大きな窓を前脚で掻いている。カーテンを開けると、いつの間にかテントが設営され中で男の人が宙吊りで寝ていた。


「眴ちゃん……」


 由良姫が眴に声をかけると、何とも言えない表情をしながらやってきた。


「昨日話した知り合いです。少し変わってますが人畜無害です。ハンモックでないと眠れないというので」


 ケンが外へ出たがるので窓を開けると、ケンは早速近くまで行き匂いを嗅いだり、尻尾で顔を撫でたりしていた。


「おい、このけったいな狐、どうにかしてくれへんか?」


 男はハンモックから降りてくると、飛びかかるケンを抱きとめ由良姫に渡した。

 由良姫は男の顔がすぐ近くに寄ったので、驚いて後ずさった。


「中に入ってもええか? 洗面所借りたいねんけど」


 男は挨拶もせずにサッサと家の奥の洗面所へと行ってしまった。

 キッチンへ行くと、見たことのない大きな塊の黒パンが置かれていた。


「なに、これ? よりによって黒いし、このパン」


「彼のですよ。昔から、朝はこれとソーセージとザワークラウトしか食べないんです」


 由良姫は冷蔵庫を開けると、大きな筒状のハムの塊に驚いた。


「ああ、それも彼のですよ。昔留学してた先のソーセージです。食べていいらしいのでお弁当で持って行きますか?」


 眴は手慣れた様子で薄くスライスしていく。黒パンも8ミリほどの厚さでスライスし並べる。

 テーブルにパンとソーセージとザワークラウトが並び、コーヒーがマグカップで出されると、ちょうどのタイミングで陵侑が洗面所から出てきた。


「やあ、眴! ありがとう、いただきます!」


 ケンがソーセージを食べたがる。


「これは塩気があるからやめときな」


 代わりに黒パンを出すと、匂いを嗅いで引き下がっていった。


「おはようございます。あの……」


「由良姫やろ。久しぶり、変わってないね。宇羅彦は、まだ寝てるんや。相変わらずよう寝るやっちゃな」


 由良姫がキョトンとした顔をしていると、陵侑は笑いながら由良姫にデコピンした。すると由良姫は、あーっ!と大きな声を出した。


「イカサマ大好き、デコピンおじさん」


「ええっ? なにそれ、ひどいなあ。勝負の厳しさ教えてやったんやないか」


「子供相手にイカサマするんはあかんやろ」


「イカサマは見破られんかったら勝ちなんや、よう覚えとけ、カスボケ」


「相変わらずやなあ。まだイカサマしてんの?」


「そんなことやっとるヒマあらへんわ。おまえら今日は学校か。ほんなら眴と行ってくるか」


 すると、2階から宇羅彦が降りてきた。

 宇羅彦はテーブルに着くと、平然と垰(あくつ)と挨拶を交わしソーセージをペロリと口に入れた。


「相変わらず、向こうのソーセージは美味いっすね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。