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御子母の惑星─みこものほし─第二部 宿命  作者: 宮生さん太


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ケガレ変容の加速

 ケガレ被害の動画は、もちろん由良姫や宇羅彦にも影響をもたらした。

 朝、登校するのを待っていたように、光代が寄ってくる。


「おはよう」


 けれど、最初はお互いに挨拶するだけで、会話は続かない。でも、気持ちは痛いほど伝わってくる。まして、歩きながらでできるような軽い話題でもない。

 特に、由良姫と宇羅彦にとっては。


 周囲からは、噂のように軽いノリで、話が降ってくる。


「アレ、見た?」


「ヤバない? アレってマジもん?」


「もう、BBSアレばっかやんか」


「アレって本物だよね?」


「映画の宣伝とか、違うよねえ?」


 それでも、軽いなりに恐怖が追いかけてきて、言葉に出した端から飲むこんでいく。

 疑問符が、疑問符のまま、曖昧であってくれたら、という気持ちが現れる。


 由良姫は光代を物理準備室に誘った。由良姫も宇羅彦も始業まで教室には行きたくなかった。


 珍しく3人で物理準備室に行くと、ツヤさんはいつもと変わらずにこやかに迎えてくれコーヒーを淹れてくれた。

 コーヒー1杯50円のカンパをする。

 結局、始業まで誰もあの話題に触れることなく、コーヒーを飲んで準備室を後にした。

 話さないということは、時にはそれが大きな意思表示にもなる。


『私は、気にしない』


 そう、まだ身近で、誰かの身の上に、今すぐにでも降りかかってくるわけでもない。

 それに、光代は知っていた。

 由良姫と宇羅彦が、どれほど真摯に祓いに向き合っているかを。


 何もそこまでしなくても、というほどキッチリ後始末をつけていた。

 それこそが、次にケガレを広めない、先手先手の決め方だ。ケガレへの対応は先手必勝でないと意味がない。

 後手後手に回ったら最後、それを回収するだけで手一杯になっていく。そうして東の首都のように、効率重視をあまりに追い求め、本末転倒の結果を招くのだ。


 由良姫は教室に戻る途中に、光代に声をかけた。


「きゃやん、うちで期末の勉強しいひん?」


「うん、行きたい!」


 光代の顔が、やっといつもの光代らしくなった。

 教室に入ると、恵麻が不安そうに由良姫を見た。


「今日な、うちで期末の勉強……」


「するする! 行く!」


 恵麻は仲良くなってくるにつれて、本当に裏表がないというか、わかりやすい性格だった。自己中と思われやすいのは、言葉が足りないからだろう。


 ライブのことがあってから、由良姫は恵麻と仲良くなっていった。話題はもっぱらアンダーテイカーのことだった。

 それから、あと2人の女子とも誤解が解け、お弁当は仲良く4人で食べることが多くなった。


 放送室は、美野里先輩が高校を辞めてからは、宇羅彦と光代の2人きりとなるのはマズイだろうと、井戸田さんが来てくれたりした。時々は3年の先輩が来て、美野里先輩のことを聞いたりしていた。


 浩徳がいなくなってから、4ヶ月。まだたった4ヶ月なのに、いろんなことが大きく変わっていた。

 特進クラスに入った足立先輩が来た。


「ちょっと聞いていいか? 柏木って、まだ見つからんのか?」


「家族が、必ず帰ってくるって信じてて。行方不明の届出は出してないんです」


「そうか……まあ、あいつはなんかな。見た目チャラいんやけど、正直何考えとるんか。底が見えんとこあってな。まあええわ。ありがと」


 足立先輩がいなくなってしばらくしてから、井戸田さんがポツリと言った。


「なんかさ、高校って義務教育と違うからかな。結構みんないなくなるんやね」


 そう言われてみれば、2年になって知らないうちに見かけなくなった人がいても、1学年360人もいるとわからない。ただ時々、廊下を歩いていると、確かにいたはずの人がいないような違和感を覚える。


「どうしたんや、井戸田さん。今日は珍しく……勉強疲れか?」


 あはは……と、いつもの場を和ませるやわらかい笑み。


「井戸田さんは、何も言わんのやね」


「アレのこと? 言ってどうにかなるんやったらね」


 井戸田さんの父親は専門が農芸化学の分野で、バイオテクノロジーで農産物の品種改良などをやっている。最近その分野でも異変が起きているらしい。

 今まで病害虫に強い種苗とされてきた品種が、ことごとく原因不明の枯れを見せ始めているそうだ。


「へえ、その話詳しく聞きたいな」


「井戸田さん、きょうな。帰りに家で(うち)で期末の勉強するんやけど、どお?」


「ええけど、うち沿線の終点やから ……」


「帰り送ってくでええよ、気にせんでも。よかったら」


 こうしてどんどん勉強にくるメンバーは増えていった。


 家では、動画のことが本当にあったのか、というくらい話題に上がらなかった。


「井戸田さんは、県大の応用生物が志望やったよね。うちと一緒やわ。やっぱお父さんと同じような? 入ってからがいっぱい選択肢があって悩むわ」


「うちは獣医になるんやったらこの学部、みたいな。けどまだわからんけど」


「やっぱ理系と文系やと、出題範囲が違うねえ」


「三角関数より微分方程式の方がクソむずいのか出るらしいで。遠山さんやろ、今ごろ美しい正解を導き出すための問題考えとるんと違う?」


「ありそう、それ」


 笑いながら恵麻が数2の授業中のことを話す。


「答えは、確かに合ってるんですがね。美しくないんですよ。僕はこんな風に教えてはいないんですけどね」


 雑談が出てくるということは、集中力が途切れてきている証拠。


「少し、休憩しよっかあ。なんか甘いもの食べたいね」


「そういえば井戸田さん、お昼の話の続きなんやけどな」


 宇羅彦は、井戸田さんとサシで話しを始めた。


「うん、農作物の多くは農業試験場で作られてる種苗を、各農家が配布されて計画的に作られてるらしいんや。中でも丈夫で身がたくさんなって、形がよくて生産性が高いのが出回っとるんよ」


 井戸田さんは、ちょうど眴が入れてくれた紅茶を美味しそうに飲んだ。


「ところが、この2年くらいで新しい改良品種が、軒並み葉がポツポツと塩を振ったように枯れていくのが目立ってきて。病害虫というわけやのうて、その状態が普通というか……おかしいなと思って調べてるん」


「病気じゃないというなら、菌やウイルスじゃない」


「詳しいことまでは教えてくれへんけど、そのポツポツがめっちゃ細かくて、実がなる方にはあまり影響ないみたい。けど、葉物にはちょっとねえ」


「そうそう、今の時期って、稲の葉が緑できれいやんか、ところがさ、そのポツポツのせいか知らんけど、全体に葉が黒っぽく見えちゃうんよね」


 宇羅彦は由良姫の方を見て、合図を出していた。井戸田さんだけ遠いので少し早めに切り上げて帰ろうというものだった。


 帰り際、宇羅彦は井戸田さんに、農業に起きている異変を詳しく聞くにはどうしたらいいか、父親に聞いてもらえるようお願いしていた。


 もちろん、異変は農業だけに限ったことではなかった。畜産業者にも目に見えない異変は起きていた。

 成長が微妙ではあるが遅い、また今まで通りなのに肉付きが良くない。家畜の気性が荒い時がある。どうということはないのだ。

 ほんの微々たる異変で、気候の変動が大きいのだろうくらいに考えていた。


 宇羅彦は由良姫と一緒に全員を送っていくと、最後の井戸田の家で、たまたま居合わせた父親と全般的な話になった。話は尽きないので、今度実際に見てもらってはどうかということになった。

 それはぜひにということになり、近々宇宙依や万里依も一緒に試験場へ訪れることとなった。


帰りの車の中で、宇羅彦が宇宙依と電話でやりとりする。それを黙って眴も由良姫も聞いていた。


「以前、そのうち農作物や畜産にも影響出てくるんと違うかって、言うてたやんか」


「今日たまたま、農業試験場で起きてること、聞くことできてな。詳しくは行ってみて聞くことにしたで」


 それでも宇羅彦は、宇宙依と夜中までボソボソ話していた。

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