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御子母の惑星─みこものほし─第二部 宿命  作者: 宮生さん太


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三年八組青池綾乃③

 光代が受けたオーディションは、本格的な歌唱力重視のものだった。

 光代は声楽のレッスンを受けていた。首都の芸大を出た声楽家で、地元でのリサイタルはいつも満員御礼の有名なプリマドンナ。彼女は今回のミュージカルで、歌の監修者だった。

 光代へオーディションへの参加を勧めたのも、この人である。


 光代がオーディションに合格したことは、すぐに仲良し四人組全員に伝わった。中でもきょんこと伊橋今日子はとても喜んだ。


「私も頑張らなくっちゃ!」


 今日子はアイドルになりたかった。

 彼女は幼い頃から地元のモデルクラブに所属していた。地元企業との仕事には恵まれたが、身長の伸び悩みから徐々にモデルの仕事が減りつつあった。


 今日子は見た目だけでなら、東の首都で活躍する中央の芸能人よりも可愛いと評判だった。今日子の祖母は外国人で、明るい髪の色と瞳の色は、祖母譲りのものだった。身長だけが少し足りない。

 それでも抜群の可愛さと人なつこい笑顔で、地元の情報誌の表紙を飾っていた。


 そんな今日子へ、地元TV局から仕事が舞い込んできた。秋の番組改変で、土曜の地元情報番組へのアシスタントの起用だった。


「うわあ!! きゃやんもきょんも、すっごーい!!」


 学校ではその話題でもちきりとなっていた。おもしろくないのは、綾乃だった。


「ねえ、ちょっと! この前お願いしたこと、いつやってくれるん?」


「ああ、アレな。ちょっとムズイなあ。あの家(うち)には関わらん方がええで」


「ちょっと、今さらどういうことなん?」


「そうそう、例のパパ活、日時は連休前の日曜な。昼間十二時に新プリのロビーで。なんか美味いもんでも食わせてもらえ」


 綾乃は剛に、由良姫をなんとかするよう頼んでいた。それが随分待たされてから反故(ほご)にされた。どうにも腹の虫が収まらない。


「それやったら、別の子頼むわ。うちの高校の今二年で、去年ミスコンの写真撮った子らや。渡瀬光代と伊橋今日子。これなら好都合やろ?」


「ほんなら、先におまえが終わってからな」


「わかった。食後の薬は用意してくれた? もう前みたいなことになったら、今度こそヤバいんやけど」


「そうやなあ、取り寄せ中や。手に入ったら連絡するわ」


 綾乃がパパ活のため新プリのロビーにいると、そこへ由良姫と宇羅彦が来た。

 綾乃は、ロビーから入口が見える奥の場所から見ていた。二人は綾乃には気づかず、まっすぐフロントに向かうと、従業員と一緒にエレベーターに乗っていった。

 気になった綾乃は、すぐにエレベーターがどこへ行くのか確認した。


「お客様、そのエレベーターは従業員専用です」


「あらそう? さっき一緒に来た子たちに置いてかれちゃって」


 従業員はフロントに確認して戻ってくると、綾乃を由良姫と宇羅彦の元へ連れていった。どうやら同じ仕事の仲間だと勘違いしたようだった。

 由良姫と宇羅彦は案内されたペントハウスのドアの前で待っていた。


「開けてもらえますか?」


 従業員がドアを開けると、中ではモドキが飛び交っていた。


 通常、モドキやケガレの姿は一般人には見えていない。そこにはモドキに集られている『人』か、ケガレになろうとする『人』の姿しかない。

 あくまで、人に見えるのだ。しかし、由良姫や宇羅彦によって触発されると、一瞬だけモドキやケガレの姿が見えてしまうことはあった。


 綾乃は由良姫と宇羅彦が最上階の部屋へ入っていくところしか見えなかった。従業員は仲間だということに疑いもしなかった。

 従業員は由良姫たちが中に入ると、そのまま退避するよう言われていた。


「その人は?」


「お仲間のようです」


「そう、それじゃあ私たちは持ち場へ戻るわよ」


 綾乃はドアの前に一人取り残された。従業員はすぐに姿を消していた。ケガレの声を聞くと、一般人でもケガレをもらってしまう。そのため案内したら退避が、ホテル側でも徹底されていた。


 ペントハウスの中では、八名ほどの男女がモドキに包まれていた。すると、綾乃は扉の前で、無性にドアを開けて中に入っていきたい衝動に駆られていた。

 膝をついてうずくまると、口から大量のモドキが吐き出される。


 ──な、なにこれ!?


 おぞましい黒いものが、液体のようにスルスルとドアの向こうへ吸い込まれていく。すると中から声が漏れ聞こえてきた。


「助けて……殺される……」


 ケガレの断末魔が聞こえてくる。由良姫と宇羅彦は祓い切ると、ドアを開けて出てきた。なぜか綾乃が目の前にいることに驚いた。


「ちょっと、あんたたち、ここで何してるの? 今、中から叫び声が聞こえてきたけど」


「声を聞いたんか?」


 そういう宇羅彦の表情は、人というより鬼の形相に近かった。


「何してたんですか? ここは立入禁止だったはず」


 由良姫の顔も人の顔ではないように綾乃には見えた。


「きゃああぁぁぁっっ!! 人殺しいぃぃっっ!!」


 人の叫び声は上滑りしない。


 由良姫も宇羅彦も、なぜ綾乃がいるのかはわからないが、置き去りにするわけにもいかず、ロビーへと連れていった。


 綾乃の携帯が何度も鳴る。剛からだった。ロビーで待ち合わせの客から、どこにもそれらしき女子がいないとクレームが入っていた。


「おい、今どこにいるんだ? 客からロビーにいないって連絡があったぞ」


 綾乃はトイレだと返答すると、由良姫たちを探した。一瞬、電話に出ただけで、二人の姿を見失っていた。

 綾乃は、ロビーでパパ活の相手と落ち合っていた。やっとそれで正気に戻ることができた。あれはいったい何だったのだろう。その記憶を長く保つことはできなかった。


「おい、どうしてあそこに、あの女がいたんや?」


「うちにもわからん。けど、声を聞いたってことはケガレをもらっとるかもしれん」


 その後、綾乃はパパ活の相手と、待ち合わせたホテルのロビーを出て繁華街へと消えていった。最新の都市型アミューズメントビルへと向かうと、そこでカラオケを満喫した。その際に、モドキは新しい宿主へと大量に移動していた。

 しかし声を聞いたことで、綾乃の中にはケガレが棲みついていた。放っておいてもいずれはケガレと化す。それならモドキは新たな宿主を探した方がいい。モドキは本能的に宿主を探して移っていく。


 その日、綾乃はパパ活の後に剛と会っていた。パパ活の相手と相当長い時間過ごしていたが、とにかく綾乃は大勢の人がいる場所へ行きたくなる。

 それがモドキのせいだとはわからない。どちらかといえば、棲みついたケガレの影響が強かった。


 剛は、ちょうど終わったこともあるし、断る理由は見つからなかった。カラオケへ行くのを二つ返事でOKした。 綾乃と剛は狭い空間にいることでモドキがお互いの中を行き交っているとは思いも寄らない。それどころか、剛は綾乃からケガレをもらっていた。


 そして後日、剛と綾乃は、地元TV局の人たちと顔合わせすることを理由に、伊橋今日子を連れ出すことに成功した。

 ところが、そこには今日子から頼まれた渡瀬光代も一緒についてきた。剛にとっては願ったり叶ったりの展開となっていた。


「今日はお休みのところ、ありがとうね。これ、よかったら飲んで」


 剛はアイスティーを差し出した。それは微糖と書かれていた。光代が今日子に飲むのを止める間もなく、今日子は緊張していたせいか、思いきり半分近く飲んでしまっていた。


 その数分後、今日子は突然、光代の方へ倒れこんできた。


「きょん!? きょん!!」


 今日子はいきなりヒューヒューと喘息のような呼吸になる。光代はボトルの成分表示を見る。サッと表情が強張った。

 そこには今日子がアレルギー反応を起こす甘味料が明記されていた。


「ちょっと、すみません!! 大変なんです!!」


 運転している剛は、車を止めることなく走らせ続けた。


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