↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御子母の惑星─みこものほし─第二部 宿命  作者: 宮生さん太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/95

狐のケン

 お盆の間中、狐のケンは御子姫の元にいた。


 ケンは不思議なほど静かに、家にいる時と変わらず、玄関先の土間で敷物を敷いてもらい寝ていた。


「そなたは、おもしろい狐じゃのう」


 御子姫は、誰もいなくなった時に狐と話をしていた。


「そうか、権現山(ごんげんやま)の狐か。そうか、母と兄弟を食われたか。それは、憎かろうのう」


 それがあったのは、由良姫がまだ小学生の頃のことだった。宇羅彦と由良姫は二人で遊ぶことがほとんどだった。

 いつものように学校から帰ち、権現山へ遊びに行こうした時だった。父奏司の様子がおかしかった。


「眴ちゃーん!!  お父さんがっ!!」


 眴の名を呼んでも反応がない。宇羅彦は自分が見ているからと、由良姫を芥見本家へやった。


「由良、一人で行けるな?」


 子供の足で走って五分ほどのところに、本家はあった。


「おばあちゃーん!!」


 由良姫が門構えをくぐって、祖母を呼びながら玄関からではなく、縁側から直接飛び込んだ。


「眴ちゃん!?」


 そこでは、眴が常世の眼を押さえて、身動きできずにいた。


「由良ちゃん、どうしたね」


 由良姫は、眴の傍にいた祖母に、父奏司が苦しんでいることを伝えた。


「今、ウーちゃんがみとってくれとる」


「奏司さんが!?」


 眴は無理やり体を起こし、行こうとして倒れた。


「眴、もう少しで薬が効くで、宇羅彦に任せい」


 そこへ、中学から急いで帰ってきた万里依が慌ててやって来た。


「おばあちゃん、権現山が大変なことになっとる」


「万里ねえ、権現山がどうしたん?」


「やっぱりそうか、嫌な気配がしとったで」


 祖母は気が急いて、もつれる足取りでフラフラと行こうとする眴を引き止めた。


「まあすぐ、宇宙依が帰ってくるで、待っとりゃあせ」


「遅なってごめん!!」


「宇宙にい、どうなっとるん?」


 由良姫は、幼いなりに必死だった。


「何でかはわからん。けど、もうすぐケガレの魂の蝕が始まる。大きな魂の塊が一緒になっとる」


 宇宙依が眴の様子に気を配る。


「眴さん、大丈夫ですか? ケガレの気が強い」


「はい、人ひとり分の魂の力ではありません。人でない小さな魂の寄せ集めですが、強いのです。まるで人のように」


 眴は落ち着くと、中学生の万里依、宇宙依と権現山の異変を話しながら、肩を貸してもらって家路を急いだ。

 到着すると、宇羅彦が奏司の周りに結界を張っていた。


「おまえ、いつの間にそんなん覚えたん!?」


 宇宙依が驚いていた。眴が奏司の眼の奥を覗く。


「宇羅彦の機転のおかげです。モドキはいません。ケガレの瘴気のせいではないようです」


 痛み止めを飲ませて休ませると、奏司は服を着始めた。


「奏司さん、どこへ行くつもりですか!?」


「お父さん、大丈夫。俺が行くから!」


 宇羅彦が奏司の手から服を取り上げ、眴に渡した。そして、由良姫を呼んだ。


「由良!!」


 見渡すと、由良姫がいなくなっていた。全員が見回すと、確かに芥見本家にいたはずの、由良姫の姿がなかった。


「由良姫は!?」


 眴はハッと気がついた。


 最近、由良姫は権現山の奥へ、生まれた子狐に会いに通っていた。


「権現山だ!! 山奥の子狐のところへ行ったんじゃ……」


 万里依が気配を読む。


「由良ちゃん、いたっ!! ヤバい、行くよっ!!」


 宇羅彦は、芥見の二人と一緒に走り出した。権現山は、全速力で走れば十分もあれば着くほど近かった。


 由良姫が権現山に着いた時、ひとりの大人の男がケガレになりかけた臭気を発していた。


 その男が立っている周りには、首を叩き切られた犬や猫の死骸が転がっていた。

 近くには穴が掘られ、無数の死骸が山積みになっていた。


 由良姫には、その死骸の山から生まれてくるケガレの気配が感じられた。


 それより何より、由良姫は心配だった子狐の元へ向かった。


「ケーン!!」


 探しているうちに、由良姫はすぐ近くにケガレの気配を感じ取った。


 いるっ!? 由良姫は全身が総毛立った。

 間違いなく、ケガレだ。


 ケガレを祓おうと振り返ると、子狐の頭を鷲掴みにし、ちょうど母狐を喰らおうとしていた。


「ギャアアアアアッッ!!」


 母狐の叫び声とともに、真っ二つに咬みちぎられた体が宙を飛んだ。


「うわああああああーっっ!!」


 由良姫は、無我夢中でそのケガレを祓った。


 そこには、ケガレに向かっていったのだろう、母狐の体と子らの頭が転がった。

 その体も頭も、黒く変色し始めていた。


 泣きながら、由良姫は狐の親子を祓うと、術の光の中、小さな獣(けもの)の魂が消えていった。


「くそおおおおおおーっっ!!」


 由良姫はもっと大きなケガレの気配を追っていった。


 由良姫の体の、心の四方八方から、聞こえてくる断末魔の叫び声とともに、強いケガレが生まれていた。

 無数の小さな魂が一つの塊となって蝕が起きていた。


 魂はまるで痛みを形骸化しているように、叫びの響きごとにぶつかり合っているようだった。


「祓ってやる!! 天国へ行けっ!!」


 ──ケガレになど、ならないで!!


 そう、由良姫は心で叫んでいた。


 輪響紋の術を繰り出す。魂の蝕が始まっている無数の魂の塊を包み込んだ。


 獣の魂は小さくて、すぐに消え去り無数の光の輝きとなり散っていった。


「おまえは許さない。

おまえが元でたくさんケガレが生まれた。

ケガレにならなくていいものがケガレになった。

絶対っっ!! 許さない!!」


 そこへ、ちょうど宇羅彦が走りこんできた。


 由良姫の髪は、まるで御子姫のように逆立っていた。


「おまえがあああああっっ!!」


 地獄に落ちろ、と言わんばかりの形相を、たった九歳の女の子がしていた。


 由良姫は怒りで我を忘れていた。


 しかし、母御子姫譲りの覇気が、知らずうちに結界の役目を果たしていた。


 男は今まさにケガレとなっていた。

 由良姫はケガレの頭を術で撃ち抜いた。

 宇羅彦が続けて術を放ち、一瞬で跡形もなく祓った。


 その様子を、たった一匹残った子狐が見ていた。


「そうか、由良姫がおまえを助けたか」


 御子姫は嬉しそうに笑った。

 子狐は、ケガレをもらい苦しんでいた母と兄弟を救ってくれた由良姫に感謝していた。


 もう少しで自分も頭をもがれそうになった、恐怖がケガレへの変異を間違いなく記憶していた。


「それで、大人になり、手伝いに由良姫の元へ来たのか。偉いのう」


 権現山の中腹辺りで、多くの埋められた犬や猫の死骸が見つかった。


 様々な理由で引き取った犬や猫を、飢えさせ弱らせ、挙句処遇に困り殺して埋めていた。多くの繁殖屋がいる影には、必ず処分屋がいる。


 男の中にはモドキが巣喰っていた。殺された小さな魂が寄せ集まり、逃げ場を失い、ケガレと波長が合ったのだろう。


 男はケガレとなり祓われた。


 男のバンから、多くの犬や猫の死体が袋詰めされ発見された。住所が特定され、そこにもまだ多くの死体と、生き残ったわずかな犬と猫がいた。事件は片がついた。


 由良姫にとっては、決して忘れることのできない、祓いの事件となった。


 由良姫は、残っていた小さな魂をすべて浄めた。

 それが彼女の祓いの原点だった。


 怒りと、そして救い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。