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異世界不動産 ~事故物件専門の不動産屋で働くことになりました~  作者:


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第9話 目覚めるもの

初めて小説を書くので至らない点多いと思いますが頑張ります。毎日更新を目指してゆるゆるとやります。

第9話 目覚めるもの


地下都市アークは崩壊し始めていた。


天井を支えていた巨大な岩盤には無数の亀裂が走り、砕けた石塊が雨のように降り注いでいる。


遠方では高い塔が音を立てて倒れ、街路には大きな裂け目が生まれていた。


三千年の時を耐え抜いた都市が、その寿命を迎えようとしている。


だが。


その中心に立つ封印の番人は動かなかった。


黄金の瞳は第五封印区画の奥を見つめている。


まるで何かを警戒するように。


いや。


恐れているように。



悠人は崩れる街を見回した。


状況は最悪だった。


番人。


崩壊する都市。


行方不明のガルたち。


そして今。


地下深くから得体の知れない何かが目覚めようとしている。


不動産の新人社員が対応する案件ではない。


断じてない。


「アリシア」


悠人は隣を見る。


銀髪の少女は第五封印区画の方向を見つめたまま固まっていた。


顔色が悪い。


いや。


青ざめている。


「何がいるんだ?」


静かに尋ねる。


アリシアはすぐには答えなかった。


長い沈黙。


やがて小さく口を開く。


「知らない方が幸せかもしれない」


嫌な予感しかしない答えだった。




ドクン。


再び鼓動が響く。


今度ははっきり感じた。


音ではない。


衝撃でもない。


空間そのものが脈打っている。


地下都市全体が巨大な心臓になったかのようだった。



封印の番人が動く。


初めて第五封印区画へ向き直った。


巨大な身体が軋む。


黄金の光が強くなる。


そして。


機械的な声が響いた。


『封印異常を確認』


『最終封鎖を開始』



次の瞬間。


番人の全身から無数の光線が放たれる。


光は空中で交差し、巨大な魔法陣を形成した。


地下都市を覆うほど巨大な結界。


その中心にあるのは第五封印区画だった。



「封印し直す気か?」


悠人が呟く。


アリシアは首を振った。


「違う」


その声は震えている。


「消し去る気なんだよ」


悠人は言葉を失った。


番人は守護者ではない。


必要なら封印ごと破壊する。


それが最終処理。


そして今。


三千年間守られてきた何かが消されようとしていた。



だが間に合わなかった。


地下深くから伸びた黒い光が結界へ触れる。


その瞬間だった。


パリン。


ガラスが割れるような音が響く。


巨大な結界が崩壊した。


一瞬だった。


都市を覆うほどの防御機構が。


たった一撃で。



番人の黄金の瞳が揺れる。


『想定外』


『危険度再計算』


『計算不能』



初めてだった。


機械であるはずの番人が明確な動揺を見せたのは。



そして第五封印区画の奥。


漆黒の闇の中から、一人の人影が現れる。


悠人は目を細めた。


人間に見えた。


背丈も普通だ。


巨大な怪物ではない。


だがそれだけだった。


近付いてくる。


一歩。


また一歩。


それだけなのに周囲の空気が重くなる。


崩壊していた都市が静かになっていく。


落下していた岩石が途中で止まる。


風が止む。


音が消える。


まるで世界そのものがその存在を迎えているようだった。


アリシアが震える。


三千年前の記憶。


誰もが忘れようとした存在。


歴史から名前を消された存在。


その記憶が蘇る。


「嘘……」


声が震える。


「そんなはずない……」


人影が光の中へ出る。


そこで悠人は驚いた。


少女だった。


黒髪。


黒い瞳。


年齢はアリシアと同じくらいに見える。


普通ならどこにでもいる少女だ。


だがその瞳だけが違った。


底が見えない。


夜空より深い闇がそこにあった。


少女は周囲を見回す。


崩壊する都市。


封印の番人。


アリシア。


そして。


悠人。


視線が交差した瞬間だった。


少女の表情が止まる。


まるで時間そのものが凍り付いたように。


「……え?」


少女が呟く。


次の瞬間。


信じられないほど動揺した顔になった。


「なんで……」


声が震える。


「なんで生きてるの……?」


その反応はアリシアと同じだった。


初対面のはずなのに。


まるで死んだはずの人間を見たような反応。


悠人は嫌な汗を流した。


まただ。


また始まった。


最近こういうことが多すぎる。


そして少女は震える声で言う。


「……兄さん?」


地下都市アークに、静寂が落ちた。


「……兄さん?」


少女の声は小さかった。


それなのに地下都市全体へ響いたような気がした。


悠人は固まる。


アリシアも固まる。


封印の番人でさえ動きを止めている。


まるで世界そのものが、その一言に反応したかのようだった。


「いや」


悠人は慎重に口を開く。


「人違いじゃないか?」


至極真っ当な意見だった。


自分には妹はいない。


少なくとも記憶にある限りでは。


普通の家庭に生まれ、普通に育ち、普通に働いていた。


異世界へ来るまでは。


だから目の前の少女に「兄さん」と呼ばれる理由などない。


はずだった。


少女は動かない。


黒い瞳は悠人だけを見つめている。


まるで何かを確かめるように。


いや。


失った宝物を見付けた子供のように。


その視線には強い感情が宿っていた。


驚き。


戸惑い。


喜び。


そして悲しみ。


様々な感情が混ざり合っている。


「違う……」


少女は小さく首を振った。


「でも同じ……」


意味が分からない。


悠人は助けを求めるようにアリシアを見る。


だがアリシアも理解が追い付いていないらしい。


珍しく呆然としていた。


その時だった。


封印の番人が動く。


黄金の瞳が激しく明滅する。


『危険対象確認』


機械的な声が響く。


『最終脅威を認識』


少女が視線だけを向ける。


それだけだった。


次の瞬間。


番人の身体が吹き飛んだ。


轟音。


巨大な鋼鉄の巨体が街路を転がる。


塔を砕き、壁を壊し、数百メートル先まで弾き飛ばされていく。


悠人は言葉を失った。


何が起きたのか見えなかった。


少女は一歩も動いていない。


攻撃したようにも見えない。


だが結果だけが存在していた。


やがて番人が立ち上がる。


全身の装甲が砕けていた。


右腕も失われている。


それでも機械の兵士は立ち上がった。


黄金の瞳が輝く。


『排除開始』


無数の光が放たれる。


先ほど悠人たちを追い詰めた攻撃。


都市を破壊するほどの砲撃。


それが雨のように降り注ぐ。


しかし。


少女は動かなかった。


避けない。


防がない。


ただ立っている。


それだけ。


光が直撃する。


爆発。


閃光。


衝撃波。


街路が吹き飛ぶ。


石畳が溶ける。


視界が白く染まった。


だが。


煙が晴れた時。


少女はそこにいた。


傷一つなく。


服さえ汚れていない。


悠人は嫌な予感がした。


今までにも強い人は見てきた。


ガル。


レオン。


ミリア。


全員規格外だった。


だが。


目の前の少女は違う。


強いとか弱いとか。


そういう次元ではない。


少女は番人を見る。


その瞳に感情はなかった。


まるで道端の石を見るような視線だった。


そして。


静かに言う。


「邪魔」


それだけだった。


本当にそれだけだった。


番人の身体が崩れる。


巨大な装甲が砂のように砕けていく。


黄金の核が砕ける。


内部機構が崩壊する。


三千年間第五封印を守り続けた守護者は、一瞬で機能を停止した。


静寂。


地下都市アークを支配していた恐怖は消えた。


あまりにも簡単に。


悠人は言葉を失う。


アリシアも同じだった。


彼女は震えていた。


恐怖ではない。


理解してしまったからだ。


目の前の存在が何なのか。


「終焉の魔女……」


かすれた声が漏れる。


少女が振り返る。


黒い瞳がアリシアを捉えた。


「その名前」


少女は少しだけ悲しそうに笑った。


「嫌いなんだけどな」


その笑顔だけは年相応だった。


普通の少女と変わらない。


だからこそ不気味だった。


三千年前。


世界を滅ぼしかけた災厄。


歴史から抹消された存在。


終焉の魔女。


それが今。


目の前に立っている。


しかし。


少女はそんなことよりも気になることがあるらしかった。


再び悠人を見る。


真っ直ぐに。


逃がさないように。


ねえ


静かな声だった。


「本当に覚えてないの?」


悠人は答えられない。


覚えていないも何も知らない。


だが。


少女の瞳を見ると否定できなかった。


まるで遠い昔から自分を知っているような目だったから。


その時。


地下都市の遥か上空から轟音が響く。


何かが降ってくる。


猛烈な速度で。


少女が空を見上げる。


アリシアも気付く。


そして。


悠人だけが理解できていなかった。


次の瞬間。


地下都市中央広場へ巨大な影が着地した。


衝撃波が吹き荒れる。


砂煙が舞う。


砕けた石畳が跳ね上がる。


煙の向こうから現れたのは。


見慣れた大男だった。


黒いコート。


鋭い眼光。


巨大な剣。


「新人」


低い声が響く。


ガルだった。


そしてその隣には、


剣を担いだレオンと、


杖を握るミリアの姿もあった。


ようやく全員が揃った。


だが状況は最悪だった。


なぜなら。


ガルたち三人もまた、黒髪の少女を見た瞬間に表情を変えたからだ。


特に魔王ガルは。


今まで一度も見たことがないほど険しい顔をしていた。


「……まさか」


その声は驚きに満ちていた。


少女は静かに微笑む。


そして。


三千年ぶりの再会を告げるように口を開いた。


「久しぶりだね」


地下都市アーク。


そこで再び、歴史が動き始めようとしていた。

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